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Double.第一部  作者: Reliah
14/16

14.蛇の兄妹


 空気が振動しているのが肌で感じ取れる。ピリピリとした嫌な感触を受けながらも、クレアは早口で詠唱を始める。

 目の前では、黒髪の男と付かず離れずの攻防を繰り返すカイの姿。

 彼が自分のほうへ攻撃が行かぬようにしてくれているからこそ、クレアはこうして魔術を行使することができる。


「人間のくせに、ちょろちょろと……」

「――ここが普通の場所なら、またあの異空間バウンダリィに引き込むつもりだったのかな」


 どうやら、アーズライトはこの塔の上ではうまく力を行使できないらしい。塔を破壊するだけの力はあっても、クレア達を異空間へ引きずり込むことはできないようだった。

 それならば、二人掛かりで挑んでいるこちらにもまだ戦況は有利だ。アーズライトの頭上へと光り輝く剣幾つもを出現させ、カイが飛びのいたところでそれを落とす。

 難なく避けられてしまったものの、いくらかは髪や服を掠ったらしく黒い影が霧散する。


「ちっ……ここで見つかったのが不味かったか」

 苦虫をかみつぶしたかのような声音で呟けば、アーズライトの髪から無数の蛇が顔を出す。その一匹一匹が槍のようにまっすぐ、口を大きくあけて食らいつくように飛ばされた。

「――はっ!」

 気合一閃――とでもいうべき一声で、カイが自らの目の前に迫る蛇をなぎ払う。が、すべてを払うことはできなかったようで、腕に噛みついた蛇を掴んで投げ捨てた。

 クレアも詠唱していた魔術でそれをなぎ払うと、次の呪文を詠唱しにかかる。が、そうそううまくいくわけもなかった。


「――いい加減うっとうしい」


 低い声がぼそりと呟かれ、黒い塊が懐へ瞬時に飛び込んでくる。しまった――

 そう思って反射的に剣を構え、放たれた蛇をはじき返す。が、腕にはしっかりと別の蛇が牙を立てていた。

「く……っ」

 じわり、痛みとともに奇妙な痺れが体を襲う。それが強力な毒と解る前に、体はうまく動かなくなっていた。

 見れば、カイも同様に片腕を抑えている。だが、確りと剣は手放さない。


「全く手間のかかる……こんな結界の真ん中じゃなければもっと早く終わってたのにね」


 嘲るような声音で囁きながら、アーズライトが歩み寄ってくる。

 ちらりと自分の腕を見れば、噛まれた場所から、服さえ巻き込み硬化し始めていた。

「……殺さないようにって思ってたけど、やめた。なんか腹立つから、石像にして粉々にしてあげるよ。勿論、塔もろとも――ね」

「……」


 仮面を外し、にたりと笑いながら詠唱を始める相手に、クレアはまだ動く方の腕で剣を握りなおす。まだ、片腕以外は動く。

 すべて固まってしまう前に、せめてあの悪魔へ一太刀でも浴びせてやらなくてはならない。慣れない左手に剣を握りしめ、地を蹴った。


「無駄なことを――、!?」


 嘲るようなアーズライトの声が、途中で途切れる。その背後には、真っ赤な血のような髪を持つ、騎士。

「生憎、俺もまだ動ける」

 やはり慣れない持ち手に剣を構えたカイが、アーズライトの背後から――

 確りと、剣で腹を貫いていた。


「……っ、貴様――」

「こんな所へ出向いた自分を、恨むんだよ」


 剣を下し、クレアはゆっくりとアーズライトの傍に歩み寄る。

 小さく詠唱しているその呪文は、久しく使わなかった精神を蝕む術――これをまともに食らえば、いくら悪魔と言えどもひとたまりも無い筈だ。


 だが、それを発動する前に――一陣の強い風が吹き抜けた。






 ――大きな鳥か、それとも竜か。

 一瞬そんな錯覚を受けたそれは、二人の人間としてすぐそこへと降りた。


「ルカ――!?」

「クレア、大丈夫か!?」


 駆け寄ってくる親友に、クレアは発動しようとしていた呪文をかき消す。同時に、ルカの傍にいた少女を見て眉をひそめた。


「やっと見つけたわよ!」

「ちっ。ペリドットか……」


 怒りをあらわにアーズライトへ詰めよる少女に、クレアは一瞬唖然とする。いったい何が起こっているのか。


 状況を全く理解しないうちに、ペリドットと呼ばれた少女の蹴りがアーズライトに炸裂していた。



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