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Double.第一部  作者: Reliah
13/16

13.悪魔と呼ばれるもの




 塔の螺旋階段を登り切ると、そこには見覚えのある男がいた。

 間違いない、あの日自分の目の前に現れた蛇を宿す男――


「……なんだ、もう見つかっちゃったか」


 薄い笑みを浮かべた彼は、恐らく何らかの魔術を発動する前だったのだろう。上げていた片手を下し、手の中の光をかき消した。


「……知り合いか?」

「……すごく嫌だけど、ちょっとした顔見知りではあるよ」

 傍らのカイの質問に、簡単に答える。それだけで、あれが敵だと認識させるには十分だった。


「お前が、西の塔を破壊したのか?」

「お前なんて失礼だな。アーズライトって名前がちゃんとある」


 カイの質問には答えず、青年――アーズライトは肩をすくめる。

 その真っ黒な瞳が、クレアのほうへと動かされる。ほう、と溜息のような声を漏らし、アーズライトはにたりと微笑んだ。


「随分優秀な医師に助けられたんだね。まさか、食いちぎった目を再生するなんて」

「……無意味にしぶといからね。それが人間ってものだよ」


 忌々しい悪夢を思い出しながらも、クレアは剣を抜く。

 あの日と変わらぬその剣は、今では実戦で使用できるまでには鍛えられていた。とはいえ、あの男に何の備えもなしに対抗するほどの実力では、ない。


「……カイ」

「任せろ」


 互いに一言で、何をするかを決める。毎日顔を突き合わせ、稽古に励んだ賜物ともいえた。

 小さく詠唱をはじめ、クレアは剣の切っ先でゆっくりと円を描く。

 力のない自分が唯一、力ある相手に対抗するにはこれが必要だった。


「――小賢しい」

 何をしようとしているかを理解したのか、蛇を宿した男はクレアに向かって威嚇ともいえる魔力の塊を放つ。

 詠唱もなしでの攻撃ではあるが、食らってしまえばひとたまりもない。しかしそれを避けてしまえば、詠唱中の術を無に帰すことになる。

「小賢しいのはどっちだ?」

 冷ややかな声が、隣で囁かれた。赤い髪が軽く翻り、クレアの目の前に迫っていた攻撃を簡単に撥ね退ける。


「――流石」

 詠唱を終えて、目の前に描かれた円陣を起動すると、クレアは目の前の赤毛に称賛の言葉を贈る。

「剣が良ければ持ち主もそれなりだ――」

 ほんの少し笑みを浮かべて剣を構えるカイに、クレアは微笑んで自身も剣を構えた。

 先ほどの円陣のおかげで、今は重い剣でも軽々と振り回すことができる。


 ふ、と鼻で笑い、真っ黒な青年は仮面を顔に被せる。


「なら、少し本気を出させてもらおうか。君たちが負けた時、この塔はあとかたもなく消えるのさ」







「――魔族、か」

 目の前の少女の言葉を、ルカは少しピンとこないまま復唱する。

「そう。悪魔ともいわれ、人間とは本来どうあっても交わってはならない種族。それが、あたしたちのような魔族よ」


 走りながらもう一度わかりやすく説明してくれる――ペリドットと名乗った少女に、ルカは瞬時に抱いた疑問を投げかける。

 ――その魔族がなぜ今ここにいるのか、と。


「あたしに限らず、魔族は人間の世界にたくさん隠れてる。

 魔族は人間の、悪い感情を食らって成長するのよ」

「……では、君もそうなのか?」


 同じ魔族と言うのならば、ペリドットはどうなのだろうか。そう思い質問すれば、ペリドットは困ったような表情で少し考えた。

「……貴方が今あたしに抱いている、疑いとか不安の念も、確かにあたしの力の源にはなってるわ。けれど、それを作り出してまで得ようとは思わない。

 これが普通かと言われたら、多分魔族としては普通じゃないわ」


 返された返答は、確かに納得はいくもののすぐには理解できない。

 しかし、彼女から自分に対する殺気のようなものは一切なく、態度やしぐさも極めて人間的ではあった。


「魔族は、この世界とは一つ別の次元に自分たちの世界を持ってる。そこから出ていくことは禁止されていたのに、興味本位で掟を破った奴がいたのよ」


 淡々と語りながら、ペリドットは一度立ち止まってあたりを見回す。

「こっちだわ」

「――その、掟が破られてからなのか?君たちがこの世界に現れたのは――」

 再び走り出す彼女の後に続きながら、ルカはまた質問を投げる。

 そうよ、と呟き、ペリドットはルカの手首を掴んだ。

「近道するわよ!」

「え、ちょっ……!?」


 ふわり、体が浮いた。魔術の類であろうそれを詠唱もなしに発動することは、とても難しいことなのだとクレアから聞いたことがある。

 それを容易に、しかも自分まで宙に浮かせる彼女の力は、想像できないほどなのだろう。


「――要するに、魔族にも普通の奴とヤバい奴がいるってことよ。そのヤバいのが、うちの馬鹿兄貴!」


 なんとも滑稽なその物言いに、ルカはどういう対応をすればいいかわからなかった。




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