10.光が生むもの
「それがって……君、何言ってるかわかってるの?」
「……いや、君こそ落ちつけ。たかだか呪いの一つや二つだろう?何がそんなに問題なのか俺には分からないよ」
返ってきた言葉に唖然としながら、クレアは次に出すべき言葉を探す。
まさかそんなとんでもない返答が返ってくるなどと思っているはずがなく、どう反応していいのかちっともわからない。
「だ……って、君は、気持ち悪いとか、面倒だとか、そういう風には思わないの?
少なくとも……この呪いは、周りも巻き込むんだよ……?」
漸く、自分に掛けられた忌まわしい呪いについて説明することができた。
普段なら思い出したくもないその説明を、自ら進んですることになるなんて思わなかった。
が、返ってきたのはくすくすという笑い声。
「わかってないな、君は。俺は巻き込まれてるんじゃなくて、自分から巻き込まれようとしてるんだけど」
「…………」
今度こそ、絶句してしまった。
開いた口がふさがらないというのはこういうことなのかと思いながら、それでも言葉を探していると、ふわりと何かに包まれるような感触が全身に伝わった。
「……、る、ルカ?」
それが抱擁と分かった瞬間、子供をあやすように背中をなでられる。
なぜだかそれは懐かしさを覚える動作で、ふと幼少期に母親がよくやってくれたことにとても似ていた。
「もうずいぶん子供の頃だったかな、こうして母親に宥められたっけな。あ、すまんな男で」
くすくす笑いながらそっと離れるルカの、表情は見えないがおそらく微笑んでいるのだろう。
それがわかると、なんだかすべてがどうでもいい事のように思えてしまう。
「確かにルカにこういう事されるのは微妙に残念な感じだね」
クスッと笑いながら冗談に冗談を返せば、違いないとルカは噴き出す。
一緒になって笑いながら、ふと、頬に温かいものが流れていることに気付く。
「……あ、これ、どうしたんだろ」
「……嬉し泣きか?いい年してまだまだ子供だな」
くすくす笑う声が耳に響き、そっと目元に布のようなものが触れる。ルカが涙を拭ってくれているのだろう。
軽く涙を拭きとりながら、そっと瞼に指が触れる。
「……もしかしたら、目、見えるんじゃないか?」
「……どうかな、昨日も全く見えなかったから……」
形だけはだいぶ眼球と言えるそれは、先日も光を届けてはくれなかった。
確実に、ケイマが毎日施す魔術の類は効いているのだろう。だが、その当人だって言っていたのだ、完全に再生するはずなどありえるはずもない。
「……見えなくてもこの際、目を見せてくれないかな。
もう随分閉じたままだったろ」
確かに、指摘の通りだ。見えるはずもないと諦めた瞳は、固く閉ざしたまま開く気にもなれなかったのだが。
少しずつ、もう動くことを忘れていた瞼を開く。
たとえ何も見えなくても、今なら何となく見える気がした。