序章③
動かなくては、何も進まない。
そう悟り手早く荷物を下ろし始める。とは言っても、持ってきたのは簡単な着替えと化粧品くらいだったのだが。
勝手口から入ってすぐのところへ仮置きし、屋内を散策する。
見てまわった所、テーブル類や布団。家電類は残っている。小さい頃に揺らして遊んだ思い出のあるフットレスト付きの椅子も残っていた。
「冷蔵庫の電源とか、使いそうな部屋の家電は使えるようにしとこー」
どうせ誰か来るわけでもないし。さっさとやることやっちゃいましょ。とひたすら黙々と作業を進めていく。
時刻は経過し、17時前。屋外から車のエンジン音が聞こえてきた。
少し時間を置き、玄関からピーンポーン、と聞こえてきたので「はーい。今開けます!」と叫ぶ。
ばたばたと走るような足取りで、玄関を開ける。
「こんにちわ。松島様のご自宅でお間違い無いでしょうか?お預かりしていたお荷物お待ちしました!」
「はい、そうです。遠いところまでありがとうございました。今日はよろしくお願いします。」
玄関を開け、目の前にいたのは作業着をきた男性2人だった。ペコりと一礼し、用意しておいたスリッパを使ってもらう。そのまま荷物を運んで欲しいところに先に案内して、再度よろしくお願いします。と挨拶をした。
ベッドや鏡台。洋服など、見慣れたものがどんどん運ばれていく。
「荷運びって私やることないじゃん。お茶を準備して、お礼できる用意しとこうかな…?」
なんて考えるくらいにはやることが本当になかった。
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「すみませーん。荷物運び終わりました!」と、だらだらと過ごしていた私はその声を聞いて、飛び起きる。
ガラッと引き戸を開けて、
「ありがとうございました。よかったらお茶を用意しているので、召し上がって行ってください。」
そう言い放ち、用意した座布団を指して二人が座ってくれたのを片目に台所へ歩く。
急須に紅茶の茶葉を入れ、ケトルに沸かしていたお湯を注ぎ2分ほど待つ。そして祖母の使っていたティーセット3人分に注いで、挨拶用に持ってきていたお茶菓子セットと一緒にお盆へ乗せた。
「もしよかったらこちらもどうぞ。」
そう言いながら、膝をついて順々に卓上へ並べていく。
「態々ありがとうございます。今日ここの担当になれてよかったです!」
そう溌剌に話してくれる人と、頭を下げてくれる人がいて。
「テキパキやってくれて本当に助かりました。こちらこそお世話になりました。」
なんて、つい日本人らしくお礼返ししてしまう。
ここまで遠くなかったですか?なんて軽く雑談をしていたが、全員のティーカップの中が空になっていた。
すると、
「お茶まで頂けてありがとうございました!お邪魔しました。」
そう言われてお見送りをしたのだった。
気付いたら広い家屋にポツり一人きり。時間は18時を少し過ぎたところ。
「あー……。ご飯食べに行こう……。」
そう言って、そそくさと車に向かうのだった。




