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タヌキはサンタクロース

作者: レニー

ある山奥におじいさんが一人で住んでいました。


長年貯めた貯金を頼りに、野菜の自家栽培などをして半自給自足生活を送っていました。


ある日山菜を採ろうと森へ入ると、一匹のタヌキがワナにかかっていました。


「おやおやまだ子どもじゃないか、かわいそうに」


そう言うとおじいさんはワナを外してやり、傷ついた足に薬を塗ってやりました。


タヌキは何度も振り返りおじいさんを見ながら、ヨタヨタと森の奥へと帰って行きました。


それからしばらくの事、おじいさんが夜家でくつろいでいると、トントンと戸を叩く音が。


(おや、こんな夜遅くにしかもこの山奥に訪ねてくるのは一体誰だろう?)

訝しがりながらそっと戸を開けると、何とびっくりそこには極上の美女が立っているではありませんか。


「たいへん申し訳ありませんが、今晩ここに泊めていただけませんか?」


「ど、どうぞどうぞ!」


おじいさんは二つ返事で承諾しました。

何故ならその美女はおじいさんの大好きな壇蜜にそっくりだったからです。


その晩は美女と楽しくお喋りしたり、一緒にお酒を飲んでたいそうご機嫌なおじいさんでした。


(ん?待てよこれはもしかしたらあの時助けてやったタヌキの恩返しじゃないか!?)


お酒の酔いも相まってそんな事を一瞬考えたおじいさんですが、

(まあそんな事はどうでもいい、こうして壇蜜似の美女とお酒を飲めているだけで幸せじゃ、しかもこの娘のわがままボディときたら…イヒヒヒヒ)


盛り上がっていつもより大分飲みすぎたおじいさんは、そのまま寝入ってしまいました。


翌朝、「おい、じじい、起きろ!」という声がしておじいさんは激しく揺さぶられました。


「ん?何じゃ…」


「てめぇ、人の女に手を出しやがってどう落とし前つけてくれるんだっ!?」


目を開けると、そこには蝶野正洋似の男のドアップが。


「手、手を出すと言われてもわしはまだ何も…一体どういう事でしょうか?」


「ふざけるな!コイツがお前に乱暴されたと言ってるんだエーッ!」

男の圧倒的迫力にたじろいだおじいさんはただただうろたえるばかり。


「これはあれだな、お前指詰めだ。おい包丁持ってこいオラ!」


「ゆ、指詰めだけは…ひいぃ」


詰める詰めないの押し問答の末、結局おじいさんは拉致されて町へ連れて行かれ、銀行のATMで貯金を全部引き出されてから捨てられました。


もうお金のないおじいさんはそのまま町で仕事を探しましたがどこも雇ってくれるところはありません。


自然とホームレスとなったおじいさんは、駅の地下通路で夜まで過ごし、夜中は追い出されてしまうので適当な場所を見つけて寝ぐらを作りそこで夜を明かしました。

飲食店で出されたゴミを漁り何とか生き延びる毎日。

それでもおじいさんは明るく生きていました。


つらくなると口ずさむのはC-C-Bの「ロマンティックが止まらない」でした。


そうこうするうちに何回目かの冬がやってきました。

(また嫌な季節がやってきたなぁ…)

ホームレスにとっては気合を入れて立ち向かわなければ凍死してしまう危険が高い魔の季節です。


人々が浮かれて街を通り過ぎるのを尻目に、おじいさんは駅の地下通路でうずくまりながら道ゆくカップルに呪いの言葉を呟いていました。

その時です。

「あのぅ…」


おじいさんが顔を上げると、そこには真っ赤なミニスカサンタクロースの出で立ちの美女が半かがみでこちらを覗き込んでいました。

真っ白い胸の谷間が目に眩しく輝いていました。


「な、何か?…」

おじいさんは少し期待に胸を膨らませて言いました。


「私…以前あなたに助けられたタヌキです。覚えていますか?」


「タ、タヌキ?…」

一瞬訳が分からなかったおじいさんでしたが、

(何だこの娘、知恵遅れか。でも体は充分育って進み過ぎとるぐらいだわい。ヒッヒッヒ…)

そう考えてからハッと思い出しました。


「も、もしやお前はあの時の!?」


「そうです、ワナにかかっているところを助けられて足に薬を塗っていただいたあの時のタヌキです!」


「何で今頃!?」


「すいません、あの後二日後にお礼に参ったのですが、おじいさんはすでにどこかへ行ってしまわれたので今日まで探し回りやっと見つける事が出来ました」


(そうかあの時わしが拉致されてさえいなければ…)

「でもこうして探しに来てくれるなんて義理堅いタヌキじゃ。ところでどうやって恩返しをしてくれるのかのぅ?」


「はい、大したことはできませんがこうしてサンタクロースの格好で少しでも楽しんでいたたければ幸いです。クリスマスですしね」


「ほぅ…」


(手っ取り早くお金をくれるのが一番いいんだがタヌキはそこまで考えつかんかったのか…)

少し落胆したおじいさんでしたが、


「そうか…ではここへ来てわしの体を温めてくれんか?」


「はい喜んで❤️」

そう言うとタヌキはおじいさんの横に座りました。


(久方ぶりの人の温もりはやっぱりいいもんじゃ、しかもこのタヌキ、わしが壇蜜の次に好きな綾瀬はるかにどことなく似とるわい。少しケモノ臭いがのう…)


おじいさんはタヌキの肩に手を回しました。

二人で肩を寄せ合うといつもより大分寒さを凌げました。


最近しつこいぐらいに街でかかっていて耳触りな「クリスマス・イヴ」が、今夜のおじいさんには何だか心地よく感じられたのでした。





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