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幻姫と星空の国  作者: 立花柚月
湖の街
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8

その後、レオから大体の事情を聞いたソアラは、レオの意見に同意した。とは言え、彼は全てを話したわけではない。反乱軍の人間に会ったことは伏せ、人にぶつかって転んでしまった、という部分だけ話した。彼らはエリカの素性を知らない。これからも余程のことがない限り話すつもりはなかった。それは既に二人の間で暗黙のうちに決まっていたことだった。なぜなら、話した瞬間、彼らを確実に巻き込むことになってしまうから…。なるべくならそれだけは避けたかった。

レオが所々ごまかして説明をした後、三人は宿屋に戻ることにしたのだが、手に怪我をしているエリカは二人から荷物を持つことを反対されてしまったため、何も持たずに歩くことになった。レオとソアラにそれらを全て押し付けているような気がして申し訳なく感じつつ、フードを被ったまま、エリカは夕暮れ時の街を歩いた。しかし、その一方で怪我した方の手をぼんやりと見つつ、考え事をしていた。

――先ほどから少し引っかかっていることがある。それは、星術師を名乗る男の言っていた言葉だった。

『――俺の主は君に何か執着心を抱いているみたいだし?』

最初エリカは、男が自分の情報を反乱軍に流したのだと思っていた。それなら、色々と納得がいくのだ。例えば、天文台から逃げた時のこと。もし、エリカの存在を知っていたとしても、恐らく普通の人ならその場所までは分からないはずだ。天文台に彼女がいることは一部の人間しか知らなかったからだ。だが、あの時反乱軍の兵士たちが来るタイミングは早かった。

それは恐らく、彼が星術師として政治にも携わっていたからだろう。だから、エリカが天文台に行ったことも彼は知っていた。王が隠すように命じたことだとしても、彼の立場なら簡単に分かる。そのことが、早い段階で兵士たちが天文台にやってきたことに繋がったのだとエリカは考えていた。その予想については恐らく間違っていないだろう。

しかし、そうだとしても疑問点が一つ残るのだ。それこそが、エリカがさっき回想したあの言葉だ。反乱軍に属す、星術師を名乗る男の主。――この混乱の、全ての要因となった人。そして、かつて星術師の頂点にいた人物でさえも従え、反乱を成功させるだけの力を持つ、決して侮れない存在でもある。

目立たないように被り続けているフードの端を強く握りつつエリカは考えた。

(どうして反乱軍の首謀者が私の存在に興味を持っているのでしょう?普通に考えれば、王族だから、ということなのでしょうが…。あの方の言葉だと、少し違う意味のような気がします。まるで、首謀者が私のことを知っているような…)

そもそも、全く面識のない人物に執着する、ということはなかなか起こりえないだろう。エリカは、その部分がずっと引っかかっていたのだ。首謀者は恐らく、エリカを知っている人物。もしかしたら、エリカも一度は会ったことがある相手かもしれない。しかし、それは一体誰なのだろうか…。会ったことがある人物はとても少ないはずなのに、あの星術師の男以外にこれといった人物が全く浮かんでこないのだ。それか、あの星術師が反乱を起こした張本人なのか…。エリカが考えこんでいると、急に誰かが彼女の目の前に立った。驚いてエリカが顔をあげると、そこには少し先を歩いていたはずのレオがいた。かなりゆっくり歩いていたエリカを心配して引き返したのかもしれない。レオは心配そうに尋ねた。

「エリカ、さっきからぼんやりしているようだが、大丈夫か?疲れているなら、今日はもう休んだ方がいい。…あんな出来事があったんだし。本来ならば君を背負って宿まで戻ることも可能だが、今は荷物で手が塞がっているから…。申し訳ない」

「え…!?そ、そんな、謝らないでください。荷物を持って頂いているだけでもありがたいですし…。なので、全然気にしなくて大丈夫ですよ!」

エリカは突拍子もない言葉に顔を赤くしつつそう言った。そして、少し先で待っていたソアラの所へと向かう。だが、どんな顔をすればいいのか分からない。フードが顔を隠していて良かった、とエリカは本気で思った。きっと今、自分の表情はおかしくなってしまっている――。胸の奥が何だかくすぐったい。そんな今までに覚えたことのない奇妙な感覚を不思議に思いつつ、エリカはレオと共に夕方の街を歩いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一人の男が湖のほとりに佇んでいた。夕方と夜の境目である今、空は既に薄暗くなっている。昼間は晴れていたが、今になって急に雲が出てきたため、光が全くと言っていいほどない。湖の周りは鬱蒼とした木々に覆われている。なので、男の姿はその陰に紛れて誰にも見えなかった。もう少し時間が進めば、彼の姿は完全に暗闇の中に溶け込んでしまうだろう。それをいいことに、彼はそこでのんびりとしていた。しばらくその場で静かに立っていた彼は、何を思ったのか急に笑い出した。しかし、周りには他に誰もいないため、それを聞く者は誰もいない。

冷たい風が吹き、湖を取り囲む木々がざわざわと不吉な音を立てる。

「…まさか、こんなことになるなんてね。さすがにあの方も予想していないだろうなあ…」

男が思い浮かべていたのは、この日の夕方に見つけた、『幻姫』とその護衛。

男は主に命じられ、幻姫を捜すためにこの街に来ていたのだが、まさかこんなにあっさり見つかるとは思っていなかった。久しぶりに会ったが、その性格は夕方の会話で大体把握できた。後はそれを元に、どうこちら側に連れて来るか考えればいいだけだ。

だが、予想外のことがもう一つ。お姫様を守っていた騎士のことだ。まさか王国の騎士が幻姫の味方になっているとは思っていなかった。そもそも、生きているとも思っていなかった。反乱軍との戦いで皆死んだのだろう、と勝手に思っていた。しかし、それと同時に納得もしていた。彼女が今まで見つかっていなかったのは、彼の存在があったからだ。王城の騎士団の若い連中の中でも、あの騎士は特に強い人物だったと男は記憶している。こちらが差し向けた追手など、取るに足らない相手だったのだろう。かつて星術師たちの頂点に立っていた男は、様々な情報に精通している。彼の主が王城にいなかった間のことも、全て…。それらを全て主に伝え、その目的を果たすために暗躍する――。それが男の役割だった。

「これをイオ様に言ったらどんな反応するんだろうな?実の弟が、自分の捜している幻姫と一緒にいると知ったら……。はは、これから面白くなりそうだ」

男はしばらく笑っていたが、やがて笑いを収め、歩き出した。向かう先は…、エトリセリア王国。その国の王城に、男の主は存在している。誰よりも強くて、――冷酷な人物が。しかし、主の側近であり、星から未来を読む男にも、この先の未来は全く分からない。今のこの場所のような、真っ暗な状態だ。主はこの先のことも考えて色々と調整しているようだが、男はその全てを知っているわけではない。それでも後戻りはできない。きっとこれが正しいことなのだと信じて進んでいくしか、道は残されていない。それは、既に覚悟していた。反乱を起こした主に従うと、決めた時から。

「…幻姫がどこまで逃れられるのか、これは見物だな。……さて、急いで戻らないと。このことを早くイオ様にご報告しないといけないからね」

男の呟きは、誰にも聞かれることなく静かに湖へと吸い込まれていった。そして、歩調を速くする。彼の主が待つ場所――、エトリセリア王城へ。その男の姿は暗闇の中へ、ゆっくりと消えていったのだった…。

読んでくださり、ありがとうございました。

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