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幻姫と星空の国  作者: 立花柚月
湖の街
18/49

6

夕方。エリカとソアラは二人で街の中心に出かけた。街は綺麗なオレンジ色に染まっている。水路にも空の橙や茜色が映りこんでいて昼間とはまた違った雰囲気を見せている。道にはたくさんの人が歩いていたため、エリカはなるべく目立たないようにフードを被ることにした。そのおかげで、初めてこの街に来た時のようにエリカを好奇の目で見る人はいない。視界は少し狭まってしまうが、これなら落ち着いて買い物ができるだろう。

ソアラはエリカがきょろきょろと少し不安そうに周りを見ながらゆっくりとついているのを見て、普段は小さな村に住んでいる子どもが初めて都会に来たみたいだと思った。その反応がとても可愛らしい。それと同時に、少しだけ不思議に思う。

(…料理は普通にできていたけど、やっぱりこの子、どこかのお嬢様なのかな?)

最初にエリカを見た時にもそれは思っていたことなのだが、結局うやむやにしていた。エトリセリアから来たと言っていたので、もしかしたら反乱の戦火から逃げてきたのかもしれないが…。個人の事情に深く立ち入るつもりはなかった。きっと、彼女たちがここにいるのは一時的な話だから。親しくなったとしてもすぐに別れることになる。それならば、その行為に意味はない。

でも、まるで妹ができたような気持ちになったソアラは、エリカに色々と案内して回ることにした。幸い、時間はまだある。最初に服屋や装飾品の店へと連れて行くと、エリカはその量の多さに驚いていた。その店はこの街の中でも特にたくさんの品を扱っており、様々な場所の民族衣装を売っている。しばらくそこで時を過ごした後で二人はその店を出た。先ほどよりも道を歩く人の数は多い。時刻は夕方なので、皆夕飯のための買い物に来ているのだろう。エリカは人にぶつからないように気をつけつつも、その多さにかなり戸惑っていた。エリカはしばらく天文台の近くから出ていなかったため、人が多いところにはまだ慣れていなかったのだ。だが、それでもソアラに街を案内してもらうのはとても楽しかった。他にも花屋に寄ったり、漁師たちの道具を扱っているお店に行ったり…。二人はしばらく街中を歩きまわっていた。

そして、その後でエリカたちはようやく本来の目的を思い出した。食材の買い出しだ。ソアラはとれたての魚や近くの畑で穫れた野菜などをたくさん買った。どれも新鮮で、美味しそうだ。特に魚は、かごから溢れそうなほどたくさん売られていて、これにはエリカだけではなくソアラも驚いていた。しかし、店を出た後、宿に帰ろうとしたところで、ソアラは不意にその荷物の多さに気付いた。よく考えてみればこんなに多くは必要なかったかもしれない、と今更考える。

「いけない!一人じゃないから、って思ってついたくさん買っちゃった!あーあ、後でレヴェンに怒られそう…。…まあいいか。もう買っちゃったし。エリカ、こっちの荷物、持ってくれる?」

「了解です。でも、大丈夫ですか?他にも荷物、持ちますよ?」

「大丈夫だよー。…あ、でも、ちょっとここで待っててくれる?もう一つだけ買ってくるものがあったんだ。すぐに戻ってくるから絶対にここにいてね」

そう言うと、ソアラはものすごい勢いでどこかへ走り去っていった。エリカだけがそこにぽつんと取り残される。腕が疲れそうなので、荷物を一旦、足元に置くことにした。ちょうどそこはこの街の中心で、一際大きな噴水がある。噴き上げられた透明な雫がきらきらと輝き、下へと落ちていく。その美しさにエリカは思わず見とれた。…だが、そこでフードが外れかけ、慌てて被り直した。相変わらず道にいる人の量が多いので、エリカはフードを被ったままでいたのだ。そのおかげか、やはりエリカの方を見る人はほとんどいなかった。この町に着いたばかりの時とは全く違う。それだけこの街で星の女神はとても有名なのだろう。

――何故、この街では星の女神はとても有名なのに、エトリセリアでは全く浸透していないのか…。

再びそんな疑問が頭をよぎった。

だが、そんなことよりもエリカはとある人物を捜していたため、そのことはすぐに頭の中から消えてしまった。しかし、その人物らしき姿はどこにも見当たらない。エリカは小さくため息をついた。

(結局レオさんは来ませんでした…。レヴェンさんからの頼まれごとが長引いたのでしょうか…?折角なら、レオさんとも街を回りたかったのですが)

何故かそのことにがっかりしている自分を不思議に思いつつ、エリカはうつむいた。取りあえずソアラを待つことにする。もしかしたら、その間に彼が来てくれるかもしれない。しかし、そう思ったその時だった。突然誰かがエリカに強くぶつかってきた。衝撃を予想していなかったエリカはその場で倒れこんだ。どうやら、エリカがフードを被っていて視界が狭まっていたせいで、人が近付いてきているのに気付けなかったようだ。荷物の方に倒れなかったことは幸いだったが、舗装された道のざらざらとした石畳の感触が、地面についた手のひらを引っ掻いていく。見ると、割と広範囲に血がにじんでいた。最初のうちはそこまで痛まなかったが、後から段々と痛みが出てきた。エリカは思わず顔をしかめたが、ふと周りがちらちらとこちらを見ていることに気付いた。転んだからだろうか、と一瞬考えたがそういうわけでもないようだ。頭に手をやると、布の感触がない。どうやら転んだ拍子に被っていたフードが外れてしまったようだ。エリカは慌ててそれを深く被り直す。…と、ぶつかってきた相手がそこで立ち止まった。倒れているエリカを見て申し訳なさそうに謝る。しかし、フードで隠されたその顔を見て驚いたような表情をした。それはこの街の人がエリカを見た時のような驚きではないようだった。

「君…!もしかして、エリカって名前じゃない?」

「え…、な、何で…?」

何故自分の名前を知っているのだろうかとエリカは首をかしげた。この街に、レヴェンとソアラ以外の知り合いはいないはずだ。だが、目の前にいる男はそのどちらにも当てはまらない。だが、そこでふとレオの言っていた言葉を思い出した。この国に、反乱軍がいるということを…。目の前の人物も、反乱軍の人間なのだろうか。しかし、まだその確証はない。どう反応していいか分からなくてその場で固まるエリカに、ぶつかってきた男はそっと手を伸ばしてきた。そして、エリカの手を取って立ち上がらせてくれた。そうした後で男は飄々とした笑みを浮かべ、そのまま言葉を続ける。

「覚えてないかな?結構前のことなんだけど…、君は国王陛下の前でたくさんの星を見せていたよね?あの時、俺もあの場にいたんだよ。……星術師として」

そう言われてエリカはその時のことを思い返した。恐らくエリカが天文台へ行くきっかけとなった時のことだろう。…確かに、あの場には国王だけでなく、もう一人、星術師もいた。その星術師が、今自分の目の前にいる人物だということだろうか?だが、かなり前のことだからか、記憶が曖昧だ。顔を見てもよく思い出せない。言われてみればそんな気がしなくもない。だが、断言はできないため、その言葉を信用していいのか分からなかった。それに、もしそれが本当だったとしても、どうして彼がここにいるのかという疑問が残る。エリカは少しだけ表情に警戒を浮かべた。それを見ても星術師を名乗る男は全く動じない。そして、彼女にこう提案した。

「それでね、突然のことで驚くと思うんだけど…。君、俺と一緒にエトリセリアに戻らない?」

とても軽い調子で告げられた言葉。まるで、今日はいい天気ですね、とでも言うような軽さだ。だが、口調とその内容がいつも一致するとは限らない。エリカは何か答えるのも忘れて呆然とした。

読んで下さり、ありがとうございました。

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