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幻姫と星空の国  作者: 立花柚月
プロローグ
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1

最後まで楽しんで頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします。

エトリセリア王国。それは、その地を長く治めてきた国だ。元々、その土地では四人の覇者が争っていた。どの人物も戦いに強く、広い知識を持ち、他の領地の人々とずっと争い事を繰り広げていた。ただ、自分の領地を増やすためだけに。そんな時代が何年も続いたが、最終的にそのうちの一人、西の一族の者が一つにまとめ上げ、エトリセリアが建国されたのだとされている。そして、その地に大きな繁栄をもたらし、安寧な世をつくった…。歴史書ではそう伝えられている。

――では、何故何人も優れた人物がいたのにも関わらず、西の一族が他の三つの族との戦いに勝ち、一つの国へとまとめることができたのだろうか?それは、かつてエトリセリアの地にだけ存在していた星術と呼ばれる不思議な技術が関係している。今ではもう詳しいことは何も分からないが、どうやら彼らは、その術により、未来を知ることができたそうだ。そして、その方法を最初から知っていた西の一族が星術を基に行動したのだと言われている…。

そして、これは、ずっとエトリセリアを支えてきた星術とその過去を巡る、星空の国――、エトリセリアの、一人の王女の物語だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その王女には、まだ幼かった頃、侯爵家出身の婚約者がいた。しかし、王女はまだ公にお披露目されていなかった為、この話は限られた者しか知らない。そもそも、その王女の存在もあまり知られていなかった。だが、優しい家族に囲まれ、王女は平穏な暮らしをしていた。更に、穏やかな性格で、様々なことを知っており、いつも色々な話を教えてくれるその婚約者のことが、王女はとても好きだった。だから、王女はよく彼に色々なことを相談したり、彼女の「とある秘密」を打ち明けたりしていた。

「イオ様、今日も来てくださってありがとうございました!…あの、明日もまたいらっしゃいますか?」

とある日、王女は婚約者が帰るときにそう尋ねた。彼女の婚約者である少年は、優秀な人物しかなることのできない「星術師」を目指している。それは、この国にしか存在しない、不思議な現象を読み解く者たちの総称だ。しかし、それになるためには、様々な物事を把握している必要がある。その勉強があるため、彼が毎日来られるとは限らない。時には一か月ほど会えない時だってある。王女はそれを心配していた。だが、彼――、イオは笑顔で返してくれた。

「ええ、もちろん来ますよ。それでは、また明日、エリカ様」

その言葉にエリカと呼ばれた王女は嬉しそうな笑みを浮かべて手を振った。……しかし、その小さな約束は果たされなかった。次の日、突然、彼女の婚約者は行方不明となったのだ。けれど、王女はそれを聞いても信じることなど到底できなかった。彼は約束を破ったことが一度もなかったからだ。王女は外に出て、彼が来るのをずっと待ち続けていた。途中で雨が降り始め、雷が鳴っても、辺りが暗くなっても…。しかし、結局、婚約者は二度と王女の元に来なかった。王女はとても悲しかったが、それでもいつかは帰ってくるはずだと信じていた。…だが、その数日後、彼女にとって更に悲しい出来事が起こった。王女の侍女が言いづらそうな表情で、彼女に告げたのだ。

「エリカ様……。どうか、イオ様のことはお忘れください。国王陛下は、エリカ様とイオ様の婚約を破棄することをお決めになられました。ですので、あの方とは、もう……」

「そんな…。そんなの、絶対に嫌!!待っていれば、いつかは帰ってくるかもしれないのに!」

ずっと彼を待っていた王女は衝撃で、しばらくその場から動くことができなかった…。その後で王女は何度も国王に交渉したが、その決定が覆ることはなかった。こうして、王女と侯爵家の少年との婚約は破棄されてしまった。だが、それを知る人はほとんどいない。だからそのことで大騒ぎになることはなかった。当の王女は最初のうち、悲しみにくれていた。しかし、時が経つにつれ、諦めがついてしまったのか、王女はそのことを忘れていき、それから一年ほどの月日が経った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


エトリセリア王国、と呼ばれるこの国では古くから「星術師」と呼ばれる星を見て未来を読む者がいた。この国では、星というものは特別な存在だった。なぜなら、星が未来を教えるからである。というのも、この国では季節に関係なく、バラバラに、様々な星が出る。そこに周期などは存在しない。その理由は分かっていないが、建国当初からエトリセリア王国では、出ている星やその位置によって、未来を知ることができていた。例えば、建国から二百年経った頃、星術の力を実感できるような出来事が起きている。その時、星は星術師たちに、北東からの侵略を告げた。その数か月後、実際に東の国が攻め込んできたが、その位置に兵を構えていた王国はそれに対処することができた。そして、その出来事があってから、星術は更に王国の人々に敬われることとなる。また、星術師たちは政にも深くかかわっており、彼らがいなければ国が成り立たないくらいだった。

しかし、最近、星術に関するとある問題が起こっていた。

「最近、星が全く出ていませんね。これでは、星術を行うこともできませんよ…」

その日、その星術師は、空を見上げながら隣に立つこの国で一番貴い人物――、国王に重要な問題を相談していた。彼はため息をついた。空に広がる雲が星の光を遮っている。星が見えなければ、未来を読むことは不可能だ。例年ならこの時季は一日中晴れの日が続くはずなのに、今年は何故か夜に限って曇りとなる日が続いている。だが、国王がそれに答えようとした時、彼らの後ろからパタパタと誰かがやって来る足音がした。二人が振り向いた先にいたのは、国王の娘、つまり、王女。末の王女で、まだ民にはその存在を公表されていない。驚く二人に王女は可愛らしく、無邪気な笑みを浮かべた。

「星が見えないのなら、私が見せて差し上げます!そうすれば、星術ができますよ!」

そう言って彼女は彼らの返事も聞かず、目いっぱい暗い空に小さな手を伸ばした。少しでも天に近付くように。星のような色の瞳は、まっすぐに曇った空を見ている。しかしいつまで経っても何も起こらない。

「エリカ、冗談を言うのは止めなさい。真剣な話をしているのだから…」

国王が彼女を止めさせようとした時、エリカと呼ばれた王女の瞳が、まるで星のように輝いた。何かを確認した王女は嬉しそうに笑った。その瞳に導かれるようにふと空を見上げ、国王は唖然とした。傍らにいた星術師も空を見てぎょっとする。

なぜなら…、空を覆う雲にいつの間にか丸く穴が開いていて、そこから星空が見えたのだ。しかも、それは、いつものように限られた星ではない。他の国のように、その季節に見ることができる、全ての星が見えていたのだ。それはまるで、大きな万華鏡のよう。時折、星が雨のように流れるのも見えた。

国王は呆然と自分の娘を見た。彼女は嬉しそうに星を見ている。しかし、国王は分かっていた。この力が国を揺るがす元になりうることを。この国をずっと支えてきた星術が、この力が使われることでできなくなってしまう――。そう知られてしまえば、この国は危うい。エトリセリアは星術によって成り立っているようなものだからだ。それが不可能になる可能性があれば、民が不安に思うのは当然のことだろう。中には、彼女を利用しようとする人物も現れるだろう…。だが、そんな危険に晒されるかもしれない王女は、無邪気に胸の前で手を組んで、流れ星に願い事をしている。彼女の明るい表情とは反対に、国王の心は暗く沈んでいた。

読んで下さり、ありがとうございました。

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