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第四十三話  プロとアマの違いとは?

 ハジメの怪我は大したことはないようだった。蒼月の主治医の話によれば、内臓に支障はなく、蹴られた腹はただの打撲で済んだようである。立ち上がれなかったのは蹴りが鳩尾(みぞおち)にはまったためのようだ。


 ここは蒼月邸。合宿時にハジメが使っていた部屋である。学校の保健室では問題が大きくなってしまう可能性があるので蒼月邸まで運んだのだ。今日は大事をとって、ハジメは月日と共に蒼月邸に厄介になるととなった。


「なんにしてもその程度でよかったよ」月日は安堵の表情を浮かべ、ベッドで横になっているハジメに言った。


「わりぃ。心配かけたな」月日に向ってハジメは答えた。


「こっちの子にもひとこと言ってあげて」百夜は背中を震わせている(きらり)の肩を押してハジメの横に座らせた。


「お前にも怖い思いをさせちまったな……」気だるそうにハジメは手を伸ばして煌の手の上に乗せた。


「ほ、本当に心配したんだから!」声も震えている。涙を流すまいと口を真一文字にきつく閉じてはいたが、目のあたりは赤く腫れていた。もう強がりも限界だった。


「ハジメ!」煌はハジメに覆いかぶさるように抱き着いた。


「本当に、本当に心配したんだから!」


「わかったから、離れてくれないかな。まだ腹は痛いんだ」


「いや! あたしを心配させた罰だと思って我慢しなさい!」


「参ったな……。困った駄々っ子ちゃんだ……いてて」


 黙って二人を見ていた月日はふと視線を感じまどかを見ると、彼女もこちらを見ていた。すぐに目を背けられてしまう。しかし、一瞬のことではあったが視線が合わさったとき、彼女の視線からは自分へ対しての強い思いが感じ取れた。


「僕は心配ないよ、まどかさん。もうあんなヘマはやらないから」


「はい……」視線を合わせることなく、まどかはこくんと頷いた。


 まどかは、本当は月日にそんなことを言って欲しくて彼を見ていたわけではなかった。ただ、自分も煌のように、月日に対して心の赴くまま素直に接したいと思っていただけなのである。


 百夜はそんなまどかを横目で見ながら、軽い吐息をついた。


「まどか様、焦ることはありませんよ」その言葉は百夜自身に向けられた言葉でもあった。ミイラ取りがミイラになった自分としては、まどかに掛ける言葉のすべてがブーメランで返ってくる。それが分かっていてもなお、言わずにはいられなかった。


「百夜ちゃん……」


「大丈夫です、まどか様」百夜はまどかに頷いた。


「……それよりも、今はハジメさんに何があったのか伺うことが先です」


「ああ……俺を襲ってきた奴らは、以前連絡通路で絡んできた奴らだった」ハジメは自分に顔を向けた百夜に答えた。


「動機はたぶん月日への私怨だ。俺は月日の代わりにボコられた」


「ゴメン、僕のせいで……僕が離れたから……」


「俺のことはいい。お前の仕事はまどかさんを守ることで、俺を守ることじゃない。俺はお前のサポーターでしかないんだ。気にするな」ハジメは月日に苦笑して見せた。


「それで煌からまた情報をもらった。どうやら殺し屋は銃で狙っているらしい」


「兄貴はヒットマンと言っていたわ。あと、狙撃という言葉も聞こえた……」


「狙撃って……」煌から発せられた物騒な言葉に、思わず月日の顔がゆがむ。


「月日さん大丈夫です。わたくしはずっとこの身を狙われてきました。今更、暗殺計画があると知ったところで驚きはしません」まどかは、まっすぐな視線を月日に向けた。


「それに、わたくしには月日さんがおりますから」そっと微笑む。


「わたくしもおりますよ、まどか様。いざとなったらまた入れ替わりますから」


「ダメよ、百夜ちゃん。もう百夜ちゃんを危ない目には合わせられないわ!」


「前にも申し上げましたが、それでは本末転倒です。わたくしの役目はまどか様をお守りすることなのですから!」


「百夜さんにそんなことはさせないよ! 安心してまどかさん。僕がまどかさんも百夜さんも守るから!」月日は一歩前に出ると真剣な眼差しで二人に宣言した。


「お前はあまり自信過剰になるなよ。日鏑の工場のこともあるしな」


「うっ」


「日鏑の工場?」


「ああ、なんでもない」ハジメが、しまったと思った時にはすでに手遅れだった。煌が日鏑という言葉に食いついてくる。


「気になるわよ。兄貴がしようとしている事となんか関係あるの?」


「あー、どうなんだろうな」ハジメは言葉を濁した。自分の家が犯罪組織とつながっている事実など知らなければそのほうが良い。


「それでこれからのことなんだが……特に作戦というものは作れなかった。さすがは如月だよ。よくあれだけの短時間に強襲プランを作れたものだ」


「如月はプロですし、この手の処理に対するデータベースが整っていますので最適なプランを立てることはさほど難しくはないかと思います。ハジメさんが気落ちすることではありません」


「それもそうだな……」頭では納得したが、心では納得しきれていないといった口ぶりだ。


「それで思ったんだが……煌の情報から狙撃手がまどかさんをどう狙うか推測しようとしたんだが……」


「攻撃側の気持ちになって考えるということだね」渋い顔をしているハジメを見ながら月日が言葉を引き継いだ。


「そうだ。そうすれば自ずと狙撃ポイントが分かるはずだ。そしてヒットマンはそこにいる」


十六夜(いざよい)(ばん)(がん)(しゃく)(がん)をしてもらおうか?」


「十六夜たちも中等部の卒業式だろう。いくら何でもあいつらの晴れの日にそんなことはさせられない」


「そっか、そうだね……話せばきっとまどかさんを助けようと来ちゃうだろうしな」


「わたくしのために、彼女たちの卒業式を邪魔するわけにはいきません。どうか彼女たちには内密にお願いいたします」


「彼女たちって?」煌はハジメが自分の知らない女の子の話をすることに少し苛立った。


「お前は知らなかったな。月日には今年中等部を卒業する三つ子の姉妹がいるんだ」


「団子三姉妹?」煌はちらりと月日を見ながら呟いた。


「残念ながら、月日とは似ても似つかぬ普通の子だ。かわいげがないけどな」


「いえ、とてもかわいい子たちですよ」まどか煌に間違った印象を与えぬようハジメに反駁した。


「まぁ、あいつらのことはいいとして、今はまどかさんをどうガードするかだ」ハジメは三姉妹に関しても話題を打ち切った。ハジメの言うように今はまどかをどう守るかを考える時だ。


「殺し屋は狙撃するって言ってたんだよね」


「うん」煌は月日の念押しに頷く。


「狙撃ってことは拳銃やライフルなんかを使うんだよね。えっと銃器って言うんだっけ」


「そうだが、それがどうした?」


「ハジメが言ったように、狙撃手の気持ちになれば、そしたら狙える場所って決まって来るんだよね」


「卒業式は講堂で行われます。さすがに講堂内まではボディーガードは入れませんから、きっとそのことを計算に入れているのでしょう」まどかは手を口に当てながら考え深げに頷いた。


「もし、講堂の外から狙撃するとしたらまどかさんに当てるのはものすごく難しいことなんじゃないかと思うんだ。それに外には如月のボディーガードがいると思うし……」


「そうですね。狙撃しやすそうなポイントには如月が目を光らせているでしょうし、恐らく卒業式の時、講堂のカーテンは全部閉め切ることになるでしょう。ですから外から狙い撃ちすることは不可能かと思います」百夜は考え深げに口元に手を置き、月日の考えに同意した。


「だとすれば、やっぱり内部からじゃないとダメだと思うんだ」


「確かに……」


「何が言いたいんだ? 月日」


「講堂の中にどこか狙い撃ちできる場所があるんじゃないのかなって」


「なるほどな……」今度はベッドに寝ているハジメが口元を抑えて考え込んだ。


「講堂には幾つか一般の生徒では入れない場所があります」百夜が思い出しながら呟くように言った。


「一般生が入れないところとしては音響室や照明室などがあります。でもいずれも式の時は係の生徒がおりますから秘密裏に行動することはできないと思います」


「もっと目立たない……そうだ換気ダクトみたいなところはないのかな? 如月があの船でやった事みたいなことができると思うんだ」


「なるほど……でも、そういった詳しい構造となるとちょっと……」百夜は俯き考え込んでしまった。


「忍び込めそうな場所があって、まどかさんを狙える場所を探さなきゃ」


「そうですね。いずれにしてもここで話していても埒が明きません。わたくしは明日にでも、全校会長に講堂の見取り図か何かないかを訊いてまいります」


 百夜のその言葉が号令だったかのように一同は頷いた。


「じゃ、あたしは帰ってまた兄貴の動向を探るわ」


「あんまり無理すんなよ」


「わかってる。ハジメも今日は安静にしててね。あたしがいなくても!」


 皆、今自分ができることをするためにハジメの部屋から出て行った。


 


 後に残ったのはベッドに横たわるハジメ一人だけとなった。

お読みいただきありがとうございました。


いかがだったでしょうか?


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これからも頑張って書いて参りますので、今後ともご愛読のほどよろしくお願いします。



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