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第三十話    策謀とGカップと乙女?

 月日たちがかくやの寮に泊まり込みをした丁度その夜。()(かぶら)(あきら)は例によってあの座敷にて、父親の前でまたもや平伏をしていた。


「申し訳ございません。太神と蒼月の仲を分かつどころか、蒼月が太神を上層教育科に転科させると豪語いたしまして……。恐らくは失敗するとは思われますが、念のために何かしらの手を打っておく必要があるかと存しましてご報告いたしました次第であります」畳にぽたりと日鏑晶の脂汗がしたたり落ちる。


 彼の前に座卓を挟んで胡坐(あぐら)をかいて座椅子に座りつつ、銀製のキセルをふかしているのは、彼の父親であり、日鏑重工会長 日鏑(ひかぶら)光騎(こうき)その人だ。和服姿にオールバックと、相も変わらず反社会的勢力の大物たる風格を放っている。実際はただの反社会勢力どころか全世界的規模での武器密輸の力を背景に、マフィアややくざを顎で使うほどの傑物なのだ。


「で、太神と蒼月がより密着度を増しちまったってわけか」カツンと煙草盆の灰吹きにキセルを叩く。


「はい、仰る通りです」晶が汗を拭きながら答えていると、光騎はおもむろに新しい煙草をひとつまみ煙草入れから取り出した。


「しかし、まぁ、悪い話ばかりではなさそうだな」キセルを満足そうに眺めつつ、煙草を雁首に詰め込む。


「はぁ……?」父光騎が、何が言いたいのか分からず、晶は曖昧位に答えた。


「上層教育科に転入ってのは悪い話ではない」シュっとマッチで火をつけ、キセルの雁首に火を入れ、ふかし始める。おおむね火がつくと、深く吸い込んで座椅子に背を預け一息ついた。


「それはどういうことでしょう?」


「太神が上層教育科に入るということは、わしらのテリトリーに入ってくるということでもある。わざわざ面倒な真似をして普通科にちょっかいを掛けずにすむ」キセルをくゆらせながら、光騎は大きく口から煙を吐き出した。


「なるほど! しかし、自分はもう卒業してしまいます。後任を任せられるものがおりません」焦ったように晶は座卓ににじり寄った。自分はすでにマークされていることを知っている。大々的に動くことはもうできない。


「そうさな、(きらり)にでもハニートラップを掛けさせるとするか」さも当たり前だと言わんばかりに言うなり、キセルをふかす光騎。


「お言葉ですが、父上。煌は我儘で面食いゆえ、決して太神にはなびかぬものと思います」晶は両手を何か抱え込むような格好して抗議する。煌が誰のコントロールをも受け付けないことをよく心得ているのだ。


「太神にではない」再度キセルをふかす光騎。青白い煙がゆっくりと天井に立ち上る。


「太神の右腕の遠吠(とおぼえ)(はじめ)に近づかせるのだ。煌は遠吠に気があると聞いておる。どう思う、晶?」カツンと煙草の灰を落とし、光騎は座った目付きで晶を見え得る。


「さすがは父上。相手が遠吠えならば煌も喜んで協力することでしょう」


「うまくゆけば使い道はいくらでもある……(きらり)をここへ呼べ」障子越しの側近に声を掛ける。


「まずは情報からでも流してもらうとするか。そのあと、うまく遠吠をコントロールできれば、間接的に太神を操ることができるようになるだろう」


「でもそれほどうまくい行くでしょうか……」


「煌の意志など関係ない。あやつが遠吠に接近してくれさえすればよいのだ」


 そんな話をしていると、どたどたとした足音が近づいてきたと思う間もなく障子が力強いく開いて、ピンクのカーディガンを着た明るい髪の少女が姿を現した。あの暴力事件のあった日、普通科と上層教育科の連絡通路の戸口にいてハジメを引き留めた少女だ。


「何よ」明らかに彼女は不機嫌そうな顔をしていた。きっと父親か兄に向かってはいつもそうなのだろう。この二人に呼びつけられるということは、間違いなくまともなことではない。


「もうめんどくさいことに巻き込まないで欲しいんだけど! あんな変な奴らをけしかける役目なんかさせて……あたし聞いてなかったんですけど!」カーディガンに隠れていた豊満な胸を抱えるように腕組みをして、あからさまに軽蔑の表情を浮かべる。こうして呼び出したからにはろくでもないことに利用しようとしているに違いないのだ。


「遠吠一を知っているな」


「も、もちろんよ……」父親の口から思いがけない人物の名前が出たことに煌は一瞬たじろいだ。嫌な予感しかしない。


「これからお前は遠吠一を落とすのだ」光騎はにやりと口角をあげ、煌を見据えた。


「はぁ? 何言ってんの。ばっかじゃいの。そんなことできるわけないじゃない! そんなことできるんだったら、とっくの昔にしてるわよ!」いつになく早口だ。彼女は大袈裟なジェスチャーをし、軽く紅潮していた。煌にとっては嬉し恥かしというやつではあったが、同時に父親の下らない道具に使われようとしていることが透けて見えていた。こんなバカ親のために自分の大切な気持ちを利用されるなど断固されなくない。


「我、日鏑家の総力を挙げてバックアップしてやる。それでも嫌か。何なら結婚まで許してやる」


「ふざけんじゃないわよ! 余計なお世話ってのよ! あたしはハジメを愛しているの! この気持ちは親父たちとは何の関係もないわ! この気持ちを利用して親父たちの悪事のためにハジメを利用されてたまるもんですか!」


「なら勝手にするがいい」


「ええ、そうさせてもらうわ! あたしはあたしの力だけでハジメをモノにして見せるわ! これは純粋にあたしの愛の問題なの! 誰かの道具にされるなんてまっぴらごめんよ! それに、絶対に邪魔なんかさせないからね!」言うだけ言うと彼女は障子も締めずに部屋を出て行ってしまった。


 光騎はにやりと笑った。


 煌は思惑通りの行動に出てくれた。光騎は彼女の反発心を煽ってよりハジメに接近させようとしたのだ。これで放っておいても今まで以上に彼女は遠吠一に接近するだろう。無理に彼女をコントロールする必要などない。勝手に彼女が踊ってくれるのだから。


 


 (きらり)は自室に戻り扉を閉めると、その扉に背を預けた。彼女の部屋は八畳一間の洋室だ。二つ洋ダンスにベッド。本棚と机に化粧台と姿見。部屋の中央にはクッションとピンクの丸いテーブルが置いてありスナック菓子が散乱している。ライムグリーンの壁に淡いピンクのタンス。白いカーテンとベッドと床の絨毯。部屋一面パステル調の色合いで統一されている。尖っている風を装っているが、部屋を見る限り彼女の少女趣味が顔を覗かせていた。


 ――あんなこと言われなくたって、あたし一人でハジメを落として見せるわよ!


 煌は姿見の前に立つと、ピンク色のカーディガンを脱いだ。制服のセーラー服姿になる。続いて桜色のスカーフタイを取り去るとセーラー服を脱ぎ去りフリース姿になった。


 彼女はむすっとした顔つきで姿見を睨みつけると、フリースを脱ぎ始め上半身ブラジャーだけの姿になる。躊躇うことなくスカートのホックを外し、ファスナーを下げ、スカートまで脱ぎ去ってしまう。あっという間にカーディガンと同じ色の下着姿だけの姿になった。下着とカーディガンが同じ色なのは、彼女なりのコーディネートのこだわりなのだろう。


 下着姿だけになった自分の姿を、姿見に移し腰に手を当ててポーズをとる。


 煌はまどかたちとは違い、日本人離れしたグラマラスな容姿をしていた。今なお成長中のGカップの巨乳にくびれた腰つき、そこから流れるように描く優美なヒップの曲線ライン。そしてすらっと伸びた女性らしい曲線を描きつつも伸びる長い脚。なんともの非の打ちどころのないモデル体型だ。このままモデルとして一線をやってけるのではないかと思えるほどに美しい。


 しかし、彼女にとってはそんなことは些細なことでしかなかった。この肢体を見せてよいのはこの世でただ一人、遠吠一と心に決めていたのだ。そう、煌はハジメに一途でぞっこんなのである。


 彼女はその言動とは裏腹に意外と生真面目な一面を持っていた。でなければ、わざわざ普通科の生徒のふりをしてまでハジメに逢いに行ったりはしない。百夜のように堂々と上層教育科の制服のまま普通科に行けば、ハジメの取り巻きくらいは簡単に蹴散らすことができただろう。それができず、取り巻きの端にいつもいたのは、(ひとえ)に彼女の性格が内弁慶なきらいがあり、そして何よりハジメへの思いがあまりにも大きかったからに他ならない。要は、そんなことをしたらハジメに嫌われるのではないかと怖くてたまらなかったのである。


 抜群の容姿を持ち、上層教育科というステータスを持ちながら、ハーレムのヒエラルキーの下層に彼女は位置していた。本来の高飛車な態度とその美貌、上層教育科のステータスを振りかざせばハーレムヒエラルキーの頂点に君臨することも容易であっただろうが彼女はそうしなかった。


 そう、彼女はハジメの前ではただ一人の無垢な乙女になってしまうのであった。


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