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第二十四話  カラフルヘアーって誰?(上)

「おまえ、精霊の力をばらまいていただろう」


「へ?」重箱を手際よく片付けているかくやを、おろおろとした様子で見ていた月日にハジメが声を掛けた。


「もしくは彼女たちがやったのか……」ハジメは月日から視線を外し、かくやとまどかそして百夜を順に見やった。


「おまえにしろ、彼女たちにしろ、自覚がないようだがな」


「どゆこと?」


「さっきの熱狂は尋常じゃねぇってことだ」ハジメは肘をついた腕の中指でこめかみを押し上げながら、文句を言うともなしに月日に説明した。


「う?」

「う。じゃねぇ。彼女の演説が食堂のみんなを変な一体感にしていただろ」


「ああ、そだね……」


「できました」ハジメの言葉に月日が納得していると、かくやが重箱を風呂敷に包み終えたらしく、声を掛けてきた。ハジメはやれやれとした様子で重箱を包んでいる風呂敷に目をやる。


「僕が食べたんだから僕が片付けなければいけなかったのに……」月日は申し訳なさそうにポンポンのような頭をかいた。


「いいえ、これも妻の務めですから。細事はわたくしにお任せください。旦那様は泰然としていてくださればそれでよいのです」


「そんな昔の考え方……」


「いいえ、これは時代とは関係ありません。妻は斯くあるべきという考えから行っていることではありません。妻としてのわたくしが務めと定めたから、行っているのです」と、かくやはにこやかにきっぱりと答えた。


「なるほどかくや、ね……」ハジメは眉毛を上げてため息交じりに立ち上がった。そろそろ戻らないと五時限目に間に合わない。


「本当のお名前は漢字を当てるのかしら?」食堂を歩きながら、百夜が何気なくかくやに尋ねた。


「いいえ、ひらがなが戸籍上正しい名前です。父は漢字の『斯也』としたかったようですが、母が猛反対したのだとか。ですから、かくやとひらがなでお願いいたします」そこでかくやは、百夜の前を歩いている月日に視線を移して「旦那様もわたくしのことは、かくやとお呼びくださいませ」と付け加える。彼女の言葉にはいい加減そう呼んでくれという響きが多分に含まれていた。


「わ、わかたよ。か、かくやさん……」月日は気圧されながらも恥ずかしそうにかくやの名を呼んだ。


「かくやです」


「よ、呼び捨て!」


「はい。ですからかくやとお呼びくださいと何度も申し上げております」顔はにこやかだが、声音にほんの少しだけとげが含んでいた。


「無理強いはいけないと思いますよ、月見乃さん」まどかはそう窘めてはいたが、気持ちは分かると言いたげだ。自分も名前で呼んでもらおうとしたが、一度だけ呼ばれたきりで、月日になんとなく流されてしまっていた。


「そうですね。ではいっそのこと、皆さん名前で呼び合いませんか? お二人はもう名前で呼び合っている中ですし、旦那様とハジメ様もお互い名前で呼び合っております。わたくしだけ蚊帳の外というのはとても寂しいです」


「俺はいいぜ、かくやさん」かくやの提案にハジメはあっさりと乗ってきた。ハジメは女子たちからハジメ呼ばれされるのに慣れ切っているのだから何の抵抗もない。


「わたくしも構いません。かくやさん」

「よろしくお願いいたします。かくやさん」まどかの言葉に百夜も頷き、女子たちはくすくすと笑いだした。


 気づけば食堂を出て普通科と上層教育科をつなぐ渡り廊下への通路に出ていた。


「では、また放課後にお会いいたしましょう。旦那様」と、かくやがさも当然のように月日に言った。


「それはわたくしの言葉ですわ、かくやさん。月日さんはわたくしのボディーガードなのですから」


「そうでしたわ。ああ、わたくしも寮住まいなどにせず、家からの登校にすればよかったかしら」と、かくやは、学芸会なみの演技でわざとらしく嘆いてみせた。


「残念ですが、月日さんと契約を結んでいるのはわたくしです。どなたにも譲るつもりはありませんわ」まどかはいつになく饒舌に自分の意志を言葉にしていた。自分を見つめ直したことにより、抑え込んでいた心のタガが外れたのかもしれない。


「まどか様、かくやさん。そろそろ戻らないと遅れてしまいます」

「わかっているわ、百夜ちゃん」

「お名残惜しゅうございますが、ここで失礼いたします旦那様」すっかり打ち解け合った女子三人組は月日に会釈すると上層教育科棟へと歩き出した。


 月日たちも普通科棟へと足を向けたところで、ハジメが唐突に切り出した。


「昼あんなだったんで伝えられなかったが、『月日のやつは精霊の力を持て余すほど持っているのに、術は使えないし、変化もコントロールできない』と、ジジイが嘆いていたぞ」


「爺様がそんなことわざわざ言ってきたの?」


「そう、わざわざだ。なんで俺に言ってくるかなぁ。俺じゃなくお前に直接言えっつうの! ったくいい迷惑だ!」


 二人が普通科棟の戸口に差し掛かったところで、ピンク色のカーディガンを着、桜色のスカーフタイを付けた普通科と思しき女子がハジメの前に立った。


「ハジメ見っけ!」彼女はハジメに向かってピンと指を差した。ウェーブのかかったミディアムロングのふわりとした髪の色は明るく、肌は美白ブームとは逆行するような健康的な小麦色をしている。いわゆるギャル系女子のようだ。ハジメのハーレム女子の一人のようだが、月日には見覚えはなかった。覚えるつもりもさらさらない。


「困った子猫ちゃんだ。もう授業が始まちゃうよ。お家へお帰り」どういう超加速をしたのか、いつの間にかハジメは彼女の前に立ち、ごく自然にいわゆる顎クイをしていた。彼女の方も嫌がっているそぶりは全くない。むしろ恍惚とした表情を浮かべている。


――こいつはこういう時に変な能力を発揮するな……。


 月日がハジメに呆れていると、彼の後ろから女子たちの悲鳴が上がった。


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