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第十四話   鬼ごっこってそんなんだっけ?

 作戦案は決した。あとは実行に移すまでだ。如月(きさらぎ)(とも)(かず)は部隊を編成するために社長室から出て行った。部屋に残された月日たちはひと時くつろいでいた。とはいえ内心は緊張しているのだ。だからこそ、くつろぐ必要があった。


「しかし、この国で国家権力以外での武装が認められているなんて信じられない」月日は、顎に手を当てて考える人のようなポーズで呟いた。


「これが太神の力なんだよ、太神君、いや、月日君。君の家の力は絶大だ」そう言って如月(きさらぎ)月山(がっさん)は腕を組んだ。相変わらずピンストライプのダブルのスーツがよく似あう。(よわい)七十を超えても鍛えているのだろう、スーツ越しにでも隆起した筋肉の輪郭が分かるほどだ。


「父様はサラリーマンだからか知らないけど、何も教えてくれないし、爺様はあんなだし、自分の家が何やっているのかすら知らないなんて、いろいろと自信失くすな」


「お前に自信なんてあったんだな」


「そりゃ人並みにはあると思っているぞ」


「そうかそうだったのか、今初めて気づいたぞぉ」ハジメは月日を真似て、わざとらしく棒読み風に茶化した。


「ったく、人をなんだと思ってるんだ?」


「狼男」腕を組み、口を尖らせてハジメが言った。


「……確かに」眉間に皺を寄せたが、ハジメから目を逸らして月日は認めた。


「コホン、では、我々はここで失礼する。相手の指定してきた時刻は二〇〇〇時だ一時間前に支度を整えて地下駐車場に来てくれ。いいね」


「はい!」


 月日の返事を聞くと、月山は一つ頷いて踵を返すと社長室から出て行った。現在時刻は午後六時、作戦開始まで二時間、準備時間まで一時間ある。


 ハジメはほっと一息ついて部屋を見渡せば、太神姉妹が部屋中を駆け回っている。


「あいつら元気だなー」とソファーに肘をついて、その手に顎を乗せたハジメが一人呟く。


「で、あいつらは何をやっているんだ?」


「ああ、(しゃく)(がん)鬼ごっこ」月日も社長室の応接ソファーに座ったまま、ハジメのように頬杖を突いて妹たちの方を見やる。


「なんだそりゃ?中学三年にもなって鬼ごっこかよ……」ハジメは月日に振り返った。


「あいつらしかできない鬼ごっこだよ。動かずに立っている奴が借眼の被術者で鬼が術者なんだ。で、逃げているのを捕まえるんだよ」月日は体勢を変えぬままハジメに言った。


「どういうことだ?」


「つまり、鬼は立っている奴の視線で追いかけなくちゃならないってこと。鬼の視界は立ち手の視界なんだ。一応ちゃんとしたルールがあって、立ち手は必ず逃げ手を見なくちゃいけない。逃げ手は立ち手の死角に行ってはいけない。捕まったらローテーションして立ち手と鬼と逃げ手を交代するそうだ」


「何だそれ、面白そうだな」


「頭おかしくなりそうだよ。僕は一度やらされて、酔った」


「何だ、だらしがねぇな」


「だって画像は移動しないんだよ。こっちは一生懸命走っているのに、自分を俯瞰して見ているだけで……」「それって、自分ラジコンとかそう、ドローンみたいじゃねぇか」少し興奮気味のハジメが月日の言葉を遮った。


「ラジコンは机にぶつかっても痛くないけど、自分がラジコンだととても痛い」


「いっそのこと、鬼と逃げ手の視界を入れ替えたらどうなるんだ」


「それは危険だからやめたんだって」


「一応試してはいるんだ」


「一応は……」そこで二人の会話が切れた。


「……あの、よろしいでしょうか?」二人の会話が途切れるのを待っていたかのように、如月(きさらぎ)百夜(びゃくや)が話しかけてきた。


「ああ、いいよ」月日は気の抜けた、にへらっとした笑顔を作る。相変わらずもっさりしている顔つきだ。


「わたくしは何をすればよいのでしょう?」


「救出されたまどかさんのアフターケアーでしょ」


「取り合えず、ことが終わるまで待機だよ。俺もだけど……悔しいけど足手まといだ」ハジメは少し悔しそうに拳を反対の掌で叩いた。


「そうですよね……わたくしも何か手伝えることはないでしょうか?」


「そう気張らなくてもいいよ。僕が……僕らがちゃんと救い出すから」


「ありがとうございます。でも、何かしていないと落ち着かないんです……」


「あーそれわかるわ。いまの俺がそうだからなぁ」と、ハジメが軽い調子で茶化した。なにもできないと、落ち込んでいる百夜を気遣ってのことである。


「同じ如月一門なのに何もできないなんて……」


「人には向き不向きがあるよ」たまらず月日もフォローする。


「僕の場合は向き不向きとかいうレベルじゃないけどね」


「こいつの場合は、そういう星のもとに生まれたってやつだな」


「ほっといてくれ」


「おまえが言い出したんだろ」


「ああ、そうだよ。だけど僕にも愚痴くらい言わせてくれ」


「へいへいさいですか」


「クスっ」二人のやり取りを見て百夜が小さく笑った。


「あ、ごめんなさい。あまりにもその仲がよろしかったので」


「仲がいい?僕たちが?」と言って月日とハジメは顔を見合わせた。


「冗談でしょ」と、ハジメは眉毛を高く上げた。


「冗談ではありませんわ。あの屋上でもそうでしたし、いいコンビって感じです」


「コンビぃ?」「コンビねぇ」またも同時に顔を見合わせて呟く。


「そういえば、鵜鷺三美さんと一緒にいると三人トリオって感じで素敵でしたよ。ちょっと羨ましいです」


「百夜さんだって、いつもまどかさんと一緒だったんでしょ。コンビって感じじゃないけど仲のいい姉妹みたいに見えたけど。それに、上層教育科でも友達はいたんでしょ?」


「ええ、まぁ……」


「その口ぶりだと、あんまりお友達がいなかったとか?」


「いないわけではありませんが、皆さんのように、気の置けない友達はいませんでした」少し伏し目がちに言う百夜。


「俺には気の置けないダチはいなかったが、気の抜けたダチならここにいるぜ」と言って、ポンポンと月日の頭をたたく。


「座布団いちまーい……」本当に月日の声音は気が抜けたようだった。


「何ですかそれは?」百夜は本気で訊き返してきた。


「深く訊かないで、恥ずかしい……」自分のやったギャグの説明ほど寒く恥ずかしいものはない。


「穴があったら入りたい」


「あれ、そういえば、お前術は使えないよな、なんか小さくなるのくらいしか」


「え、あ、うん、そうだよ」いきなり何を、と言った面持ちで月日は頷いた。


「穴があったら入りたいで思い出したんだが、術が使えないお前が、どうやって鬼ごっこのとき借眼したんだ?」


「ああ、(たい)(がん)って言うのがあってそれは借眼の反対に、自分の見ているものを他人に見せる術だよ。十五夜がうまい。本当にその場にいるように見える」


「それって使えるんじゃね?」


「どういうこと?」


「それはな……」


 ハジメは声をひそめ月日と百夜に耳打ちするように説明しはじめた。

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