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第十二話   覗き穴から見えたのは?

 太神三姉妹は地上約百五十メートルの遠吠(とおぼえ)家の屋上に遠吠(とおぼえ)(はじめ)とともに立っていた。遠吠家の屋上はヘリポートになっており、その中央に立ち、彼らは海のほうを見やっていた。


「「「(ばん)(がん)(しゃく)(がん)!」」」三姉妹はそろってそう唱えた。三人は一列縦隊を作り、後ろの者は前の者の両肩を掴んで先頭に気を送っていた。先頭には三女の十六夜(いざよい)が立っており、両の掌を開いて、ゆっくりと腕を広げて行った。


 十六夜の額から玉の汗がにじみ出る。十六夜が行っているのは、彼女の視界の範囲にいる、あらゆる『眼』を借りて、その視界を覗き見ることだった。膨大な画像が十六夜と彼女につながっている(さく)()十五夜(じゅうごや)にもなだれ込んできていた。広大な情報を得る代償として、一気に生気を吸い取られるというリスクがある。そのため彼女たちは三人で繋がって三倍長く見られるようにしていたのだ。


「見つからない」と、呟く朔夜。

「もっと端っこ行ってみよう」ビルの端を指さして走り出す十五夜。

「海がよく見えるほうが良い」彼女たちは話し合っているのだが、各々が独り言を言っているようにハジメには聞こえた。


 三姉妹とハジメはビルの海側に面する屋上の角に立った。ここはメンテナンス用の回廊であり、基本的に立ち入り禁止の場所である。窓拭き用のゴンドラなどが格納してある場所だ。手すりは申し訳程度に着いてはいるが、足を滑らせれば三十階以上の高さからフリーダイブすることになる。


「ビルの突風に気を付けろよ」


「「「わかってる!」」」ハジメの注意に子ども扱いされたようでご立腹のようだ。


「「「万眼借眼!」」」三人は気を取り直してもう一度、広範囲の借眼を使った。


 猫、犬、トカゲ、カラス、カモメ、と順々に焦点を変えながら、何かの手掛かりを探した。


「いた!」それはカモメの視界からの映像だった。一人の少女がまっすぐにこちらを見ている。彼女からは独特の気を感じた。兄、月日が変化(へんげ)したときに発する独特な獣臭と呼ぶべき気だ。だが、月日が変化していない時はこの気は感じないが、そこにいる少女は人間であるにもかかわらず、獣臭のする気を放っていた。


 映像の少女はこちらがカモメを通じて見ているのに気がついているかのように、じっとこちらを見ている。この術は完全な受動(パッシブ)モードなのでカメラ側の映像が送られてくるだけだ。カメラの被写体がこちら側の気を捉えることはできないはずだった。


 と、気まぐれなカモメは彼女を見るのに飽きたらしく、飛び立ってしまった。借眼の難点はカメラ操作が全くできないことだった。それゆえカメラ側の動物たちは勝手気ままな映像を送ってくる。


 十六夜は慌てて少女の視界に広範囲に散らばっていた全視界を絞り込み、入り込んだ。


「借眼!」


 彼女の視界はものすごいノイズと記者会見のフラッシュのような強烈な明滅が繰り返し起こっていた。それでもわずかばかりの正常な画像もよこしてくる。相性は最悪だったが、手掛かりは掴めた。


「わたしもうダメ……」と言って一番後ろの朔夜が、ノイズとチカチカと疲労でその場にへたりこんで、懸命に目を擦り、瞬きを繰り返していた。


「十五夜はまだいけそう?」へたり込んだ朔夜が十五夜に訊いた。

「あたしは大丈夫、あんたは?」

(ちん)はまだいけるよ」と、十五夜の質問に十六夜が答える。


 指向性借眼になると、ある程度の距離なら被術者が地下に潜っても追尾できる。場所が確定できている船程度の障害物なら被術者の視界を通して、ほとんどの部屋を見ることができるだろう。あとは被術者がまどかの許に行ってくれれば言うことはない。


 だんだんとノイズとフラッシュが激しくなってきて、映像の方がこま切れ状態になってきた。階段を下りていると思ったら、ノイズが映像を隠し、次に見えたときには別の廊下を歩いていた。再びノイズに飲み込まれると、重そうな鉄扉の前に立ち、ノブをまわして扉を開くと螺旋階段が見えた。


 突然、砂嵐が彼女たちの全視界を奪った。彼女たちは知る由もないが、古いアナログテレビの電波が届かなくなった時のような砂嵐だった。


「だめだもぅ」と二人も座り込む。朔夜と同じように目を擦ったり、瞬きを繰り返したりしている。


「大丈夫かお前たち」


「大丈夫なわけないじゃん!」といって、十五夜は手渡されたスポーツドリンクをハジメの手から引っ手繰った。


「あの船どんなだった、何て名前だっけ」


「あ、見てない。ていうかいきなり彼女が映ったし」朔夜の言葉に十五夜が答える。


「それ、じゃ、朕はもう一度、やって、みる」少し息が上がっているようだが彼女は本気だ。


「十六夜、無理すんな」


「無理はしてない。このまま放っておくほうが朕的には無理」ハジメにそう答える十六夜。


「借眼!」船の周りにいる様々な動物たちの視線を借りて船のディテールを彼女は掴んだ。


「上が青と下が赤の船で横に白いラインが一本船全体をぐるっと回っている。名前はえっと、『DISCOVERY TRANSPORTER 2』ってかいてある」そこでまた十六夜はへたり込んだ。


「よし、いい子だよくやった」


「犬じゃないんだから、ほめ方もっと考えなさいよ!」鬱陶しそうに十六夜がハジメの言いように文句をつけた。


「反論できるくらいなら大丈夫そうだな」と言って十六夜にもスポーツドリンクを手渡した。と、彼女はそれを一気飲みしてしまう。実のところはかなり消耗していたのだ。


「俺はこれらの情報を報告してくる。お前らは下へ行って好きなもん食っていいぞ」


「さすがは、大手食品会社!プリンある?」


「プリンでもケーキでも好きなもん頼め」


「ふとっぱら」


「お前らの兄貴よりかは痩せてるぞ。ああ、今あいつ痩せてんだな。いまは俺のほうが太ってるか」などと言い合いつつ、彼らは階下に下った。


 エレベーターの中で如月(きさらぎ)百夜(びゃくや)に今までの会話データを転送するハジメ。圧縮してあるとはいえ結構な大きさの音声データを一瞬で転送し終えた。直通回線はさすがにいいなと思ったハジメだった。




 ハジメの連絡を受け如月(きさらぎ)百夜(びゃくや)如月(きさらぎ)月山(がっさん)とともに『ディスカバリートランスポーター2』の情報を集め始めた。さすがは諜報に長けた如月である。すぐに『ディスカバリートランスポーター2』の船体構造に関する情報がディスプレイに表示される。この船は中型貨物船で船籍はパバルマーノ共和国であることが分かった。


「彼女たちの話から、断片的な情報だが、蒼月円は船橋や上甲板の施設ではなく甲板下の船室にいると思われるな」


「ええ、上甲板から階段を下りていますから、船倉か船室かというところでしょう」考え深げに百夜が顎に手を当てていると、扉がノックされた。


「入れ」


「社長お呼びでしょうか?」二メートル近くある扉に頭をかすりそうになりながら痩身の男性が入ってきた。如月セキュリティーサービスの作業服を着ている。年のころは三、四十歳のように見えるが、彼は五十を目前に控えた四十九歳であった。


「こいつは息子の朋一(ともかず)だ。第三種特務部部長をしている」


「はぁ……よろしくお願いいたします」


「第三種特務部はいわば戦闘部隊だ」困り顔の百夜に朋一が説明をした。


「このようなケース。身代金要求の対処に三種対応要員として機能している」


「三種対応、戦闘部隊……ですか……?」


「武力処理だ、強襲して人質を救出する」


「武力処理ですか!」思わず声がうわずる。


「第一種対応、ネゴシエーション。第二種対応、これは恫喝に属するネゴシエーション」


「で話してダメなら殴りつけるというわけですね」眉をしかめる百夜。


「残念ながら、この手の海賊はそれしか方法はないがね。しかも今回の相手の要求は無制限だ。話し合いで円満解決することはできないだろう。向こうも話し合いなど望んでいない様子だしな」いたって冷静な声音で朋一が会話に加わってきた。


「確かに……」


「それに、要求してきたものが気になる。(ふと)(かみ)月日(つきひ)という少年の身柄だとわたしは報告を受けている。太神とはあの太神一族のか」朋一は顎に手を当てて考え深げに、一人呟くとなく言った。


「はい」


神威(しんい)(まと)う一族と聞く。それは本当か?」


「はい、彼は獣憑きです。ですが、人間の姿の時は特に脅威を感じたことはありません」


「そんなこともあるものなのか。まぁいい、彼が何であれ、彼も保護対象であることには変わりない」


「はい」


「コホン。話の途中ですまんが。救出作戦の立案に入りたいのだが」


「申し訳ありません社長。続けてください」さっと百夜から離れて、社長である月山に向き直り、休めの姿勢をとる。


「こいつはこう見えて如月流暗殺術を心得ていてな、その力を今回はフルに活用しようと思っている。悪いとは思うが太神月日君には囮になってもらうつもりだ」


「暗殺……囮ですか」


「彼が奴らの目を引きつけているあいだ、我々が船を制圧し、蒼月円嬢を救出する。シンプルだが、効果的な方法だ。もちろん相手もこれくらいのことは想定しているだろうがな」朋一が額を指でこすりながらそう言った。


「問題は、彼女がどこに監禁されているかだ。太神三姉妹が見たという、被術者の足取りを逆算すれば、少なくとも上甲板から二階以下と予想される。階段を下りる時間、映像の見えなかった時間、彼女の歩行速度などの情報から導き出した目算だ。彼女たちが見ていた映像をわたしも見れればよかったのだが……」朋一はそういうと、ポケットから八インチのタブレットを取り出し、百夜と月山に見せた。


「同型船の見取り図です」そう言って画像をスワイプして、船の横断面図を表示させる。


「このように、船内は船室五階層、船倉一階層でできています」ピンチアウトして階層画像を拡大する。


「おそらく、船倉、船室区画の第二、第三、第四階層のいずれかにいるかと思われます。最下層は通常区画ではなくメンテナンスおよび機関階層だからです。衛生環境上からも長時間ここに人質を監禁するには適さないでしょう」


「この図面だと各船室区画から船倉区画に行けるようになっていますが……」その言葉に朋一は顎に手を当てて少し考えた。


「彼女がいるのはもしかしたら船倉かもしれんな。情報によれば船体は青と赤になっている。赤はおそらく喫水線だろう。言葉尻をつかんで予測するのは危険だが、彼女の言葉からは喫水線がはっきりと見えていたように聞こえる。喫水線がある程度見えていたとすれば、この船は空船かそれに近い状態、つまり荷を積んでいないことになる。積載していたとしてもわずかだろう。そこに人が数名いたからとして喫水線が下がるとは思えない。そしてなにより、ノイズ交じりだと言っていたが、被術者の少女は最後に鉄扉を開け螺旋階段を見ている」


「見ているということはそこへ向かっているわけですね」


「登ったのか下ったのかは不明だが、船室側の階段が通常の階段だったことを考えると、この螺旋階段は十中八九船倉のものだろう」


「で、どうする気だ?」


「はっ、特務二課が襲撃をかけます。特務三課は二課のフォローと太神月日の護衛をさせる予定です。目標を船倉と仮定して一個小隊ずつ計五個小隊で一層から五層までを無力化しつつ船倉に突入。然る後に目標を奪取し速やかに撤収します」


「無力化って……ただの船員まで殺害してしまうのですか?」


「場合によりけりだ。無抵抗なものまで殺しはしない。ただ静かにしていてもらうことにはなる。閃光催涙弾を使う。向こうがそれでも反撃してきた場合は隊員の生命を優先させる行動をとる」そう語る朋一の顔には一切の感情が見て取れなかった。


「相手の動向はさておき、お嬢様が船倉に監禁されているとして、物音を聞いた誘拐犯が人質を殺害したり、直接銃を頭に突きつけてきたりした場合はどうするのです?」


「主力部隊が行動を開始する前に特務一課の第一小隊が船倉に、第二小隊が船橋に潜入潜伏させる。第三第四小隊は一種の陽動と援軍の阻止、そして退路の確保を行う。君も如月の人間なら知っているだろう、我々特務部は本家直伝の忍術を伝授されたいわば忍者集団なのだから」


「幼い時のおとぎ話かと思っておりました。父の言っていたことは本当のことだったのですね」


 話が一息ついた時、百夜のスマートフォンが鳴った。急いでスマートフォンを取る百夜。


「はい、そうです……はい、わかりました。こちらはいつでも実行可能です……はい、よろしくお願いいたします」


「どうしたのかな?」眉をひそめて月山(がっさん)が尋ねる。


「はい。遠吠ハジメさんからで、太神月日さんが退院されたそうです。それで、人質救出作戦に助力したいと言っているそうです」


「とりあえず我々はどうすればいい?」


「彼らがこちらへ向かっております。取り急ぎ合流して情報と今後の方策を共有しようということになっています」


「うむ、それが妥当だろう。顔合わせもしておいたほうが良いからな」


 百夜は黙って頷くと夕陽になりかけている西日の入る窓を見やった。湾を囲むように工業地帯が広がりその一角に(そう)(げつ)(まどか)のいる船が停泊している。そう思うとじっとしていられない百夜であった。



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