2日前 反対の女現る
【2日前】
「えー、今日より我が校に新しく教師が加わります。皆さん、暖かく迎えてあげて下さい。さっ菅原君、皆さんに一言挨拶をお願いします。」
職員室と自分の頭に教頭先生の声が響く。
「教頭先生、ありがとうございます。えっと、菅原健斗と申します。母校ですので学校内部の事は知っているつもりですが、教師としてはまだまだ右も左もわからない若輩者でして皆様にご迷惑をかけてしまう事が多々あるかもしれません。その際は厳しくご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。」
こんなものでいいのかな。昨日は結局2時間しか眠れなかったし全然頭が回らない。
「菅原君ありがとう。皆さんも何かあったらフォローしてあげて下さい。あっ、菅原君の席はあそこね。さて、話は変わりますが昨日テレビでイジメ問題について放送されておりました。我が校も他人事ではありません。生徒にそのような事が無いよう教師陣は常に目を光らせておいて下さい。では、これにて朝礼を終わりとします。」
教頭先生に指をさされた席に移動して着席した。何やらこっちに向かって笑顔を向けてきてくれる先生方が何人かいる。それも無理はない。笑顔の相手達は、自分が生徒の時に関わった先生達だからだ。生徒側の時は何も感じなかったが、教師側に回るとなるとその好意を無下にはできない。俺も笑顔で会釈をした。
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る。それと同時に席を立ち出す教師達。いつもの俺であれば、どうすればいいのか慌てるところなのだが、あの赤いドレスの女と拓海の事が気になって何も考えられる状況では無かった。
「おいっ!!健斗!!何ぼーっとしてんだ。チャイムも鳴ったし教室に向かえ。うちの学校はいつでも人員不足だから早速お前にクラスを受け持ってもらうからな。まぁわからん事があったら言ってこい!」
ジャージ姿しか見た事が無い体育教師の遠藤が俺に話しかけてきた。
「すいません、ありがとうございます。えっと2-C組の受け持ちと聞いてます。着いたら自己紹介でもすれば良いのでしょうか。」
「私、隣のクラスの受け持ちだし一緒に行こうか。歩きながら教えてあげるよ。あっ、自己紹介まだだね。ごめんね。私、町田といいます。どうぞよろしくね。」
横から会話に割り込んできた同い年ぐらいの女性は俺も初めて会う人だ。黒髪ロングに眼鏡、教師してます感が凄まじく放たれていた。特段美人と言うわけではないのだが、おっとりとした雰囲気に安らぎを感じ好感が持てた。
「町田先生、健斗に色々教えてあげて下さい。」
すかさずに、遠藤がフォローしてくれる。ナイス遠藤。
「すいません。お願いしてもよろしいでしょうか。」
「私もまだ教師になって3年目なので、そこまで自信は無いけれど教えられる事は教えてあげるよ。さっ、クラスまで行きましょ。」
俺は席を立つと町田先生と共に担当クラスに向かって歩き出した。職員室は学校1Fに位置し、1階は1年生2階は2年生3階は3年生のクラスがある。その為、2階への階段を登る必要があった。
そして、その階段で、、、俺は再度出会ってしまった。赤いドレスの女と。
気がつけば目の前10m先といったところだろうか、いつの間にか奴はそこに立っていた。驚きで奇声をあげてしまうところだった。
目の前の女を見ると以前見た時と違う点がある事にすぐ気づいた。
ドレスが裏表反対では無いのだ。
こうなると普通に赤いドレスを着た女性が目の前に立っているだけで、拓海と関係しているあの赤いドレスの女と同一人物では無い可能性もでてくるのだが。。
俺は目の前の女があの赤いドレスの女だと確信していた。何故なら、こいつと会う時は周りの空気が重くなるからだ。沈黙やらで使用される空気が重くなっているというわけでは無く、物理的に空気が重くなっているのだ。重いと言っても立っていられない程では無い。原理は全然わからないが。
「何故、ここにいるんだ。。。」
町田先生が横にいるにも関わらず、俺はそいつに声をかけた。いや声をかけられずにはいられなかった。拓海の件にこいつが関わっている事は間違いないだろうから。
「菅原先生?どうかしましたか?」
町田先生の方を向くが町田先生に驚きは無かった。普通に考えて学校に場違いなドレス姿の女が階段の先にいるのはおかしな事だろうに。。
まさか、ドレスの女は教師なのか?もしくは、保護者か何かなのだろうか。ここにいても不自然じゃない人なのかもしれない。
「いや、、えっとあそこの女性がですね。。」
町田先生に話しかけながら赤いドレス姿の女を指さした。
「???誰もいませんが。」
「いやいや、そこにいるでしょうが。」
ついつい感情的になり、少しだけ声を荒げてしまった。俺は町田先生から赤いドレスの女の方に顔を向けた。
だが、そこには誰もいなかった。。。
何故だ!!確かにそこにいるのを俺は見た。いつの間にいなくなったんだ。足音すら聞こえなかったぞ。
「あっ、私と打ち解けようとして冗談を!って事ですか。でも私ホラー系は得意なんですよ。何せゾンビとか信じているタイプなんで。」
「いや、赤いドレスの女性が確かにそこに!」
よくないな。ここでいない人間をいると言い続けるのは、変人に見られかねない。町田先生はそんな事しないと思うが変な噂が出回っても困る。ここは、話題を変えよう。
「それって反対の女の話ですか?まぁとりあえずクラスに向かいましょうか。」
???会話を切り替えようと思った矢先、町田先生から出てきたよくわからない言葉。何か知っているのだろうか。
「はい。わかりました。それで、その反対の女ってのを知らないのですが、その人は赤いドレスの女性なのですか?」
町田先生の後に続いて階段を登りつつ、歩きながら会話をしていく。
「えっ?ええ。赤いドレスを裏表反対に着ているらしいですよ。この頃、生徒達に人気がある怪談のひとつなんですが、、、てっきりご存知で言っているものかと。。」
怪談か。トイレの花子さんならぬトイレの大井さんとかなら知っているが、反対の女なんて怪談は聞いた事がない。町田先生も言っているように、この頃流行ったという事は俺が卒業してから出来た怪談という事なのだろう。
そもそも俺は幽霊なんていると思った事が無い。そりゃご先祖さんとかはいるかもしれないとは思うけど、怪談などに出てくるあやふやな幽霊や妖怪の類については、まったくと言っていい程に信じていない。ちなみにトイレの大井さんにおいては、単純にトイレが多い奴がその指定トイレによく閉じこもる事からできた笑い話だしな。それがいつしか噂に尾ひれがついて怪談となったのだ。
しかしながら、今回は実際に反対の女を見ている。怪談とかは信じない俺だが、反対の女だけは別物として考えなくてはならない。
「その反対の女について聞きたいのですが。」
「ここが菅原先生が受け持ちするクラスですよ。違う話でアドバイスが上手くできなかったですが、自己紹介を簡潔にするだけでいいと思いますよ。反対の女については生徒の方が詳しいと思うので、生徒に聞いてみてください。では。」
話に夢中でいつの間にか担当クラスの前まで歩いてきてしまったらしく、町田先生に会話を打ち切られてしまった。でも、言われる通り生徒の方がより詳しく知っている可能性が高い。自己紹介の時に生徒にその話を切り出せそうなら切り出してみよう。
そっと教室の扉に手をかけ、扉を開けた。中は、教室の外と比べ生徒の声で五月蝿かった。
生徒達は、いったいどこからこんなパワーが溢れているのだろうか。きっと俺の高校時代もそういう風に先生に見られていたのかもしれないな。そんな事を考えながら教壇の前まで歩く。
「起立、礼、着席!」
生徒全員が一礼して席に座っていく。
「菅原健斗といいます。これから1年間あなた達を受け持つ事になりました。どうぞよろしく。」
簡潔すぎたか。でも特に何か言いたい事があるわけでもないしな。そう思いつつ生徒の反応を見回した。
すると、またあいつが立っていた。赤いドレスの女、いや反対の女だ!
先程の階段から移動してこの教室に入ってきていたのだろう。クラスの後方、ドア側では無く窓側のロッカーがある前に立っている。階段の時は心臓が飛び出るほど驚いたが、今回は二度目ともあり驚きはそこまで大きく無かった。
人なのか。人じゃ無いのか。保護者だという可能性を念のために消しておかねばならない。
「すいません。赤いドレスの方、誰かの保護者さんでしょうか。」
周りから生徒の笑い声がした。
「うけるー!あれだよ!生徒と交流深めようとして、反対の女について勉強してきたんでしょ。」
「真面目すぎるよりはマシじゃない?」
「ちょっと先生が話してるんだから、静かにした方が。。」
「あー、朝からかったるいなー。」
どうやら、生徒達には反対の女は見えていないようだ。俺にだけ見えているらしい。
「皆んなは、見えないんだよな。そこにいる女性。」
俺が反対の女を見つめながらそう言った瞬間、反対の女が消えた。文字通り”消えた”のである。
「もう先生いいよー!わかったから。反対の女とかよく知ってたね。結構ローカルな怪談だよこれ。」
1人の女子生徒が席から俺に話しかけてきた。
「その怪談について、朝のホームルームで聞かせてくれないか?」
生徒全員に俺はそう伝えた。はっきり言ってこんなホームルームは前代未聞だろう。後々に生徒から教職員に伝わって誰かから怒られるかもしれないが、気になって仕方がない。情報は早く知っておかねば。
「簡単でいいなら、反対の女について教えてあげられるよ。」
生徒の中から突如として声が上がった。
これで反対の女について、少しわかるかもしれない。