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反対の女   作者: 白黒 赤
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5日前 4日前

 

 どうしてこうなった。。


 今でも鮮明に頭に焼きついている。裏表反対の真っ赤なドレスを着ている彼女をーー





【5日前】


 大学を卒業した俺は、今年から母校で教師として働く事になっていた為に大学がある東京から地元に戻ってきていた。


「ここら辺は全然変わらないな。」


 呟く俺は、陽に照らされ咲くにはまだ少し早い桜の木を見つめた。思い返せば感慨深いものだ。自分が母校に教師として戻ってくるとは思ってもいなかった。久しぶりの地元に懐かしさを感じ当時の思い出がよみがえる。


 夜から高校の同級生と会う約束をしているのだが、まだ時間があったので、とりあえず地元を散歩する事にした。


 暫く歩いていると高校時代によく行っていたカラオケ店を見つける。どうやらここも潰れていないようだ。よくこのカラオケ店のフリータイムで友人と歌いまくったっけ。24時間耐久カラオケとかしてさ、あの時一体俺達は何と戦っていたんだろうな。


「ププッ、はっはっは。」

 思わず1人で思い出し笑いをしてしまった。それを恥ずかしく感じ、誰かに見られていなかっただろうかと赤面した顔で周囲を見回したが周りには誰もいなかった。


 1人で笑っている姿を見られなかった事は良かったのだが、少しだけ寂しい気持ちになった。何故なら数年前までこの辺りは結構賑わっていたからである。少子化の影響と上京する人が増えたからなのだろうか。。東京の大学に行った俺が言える立場では無いが、街としての活気が薄れていくのを悲しく思った。


 その後、友人と会う前にシャワーを浴びたくなった俺は一度家に帰る事にしたのだが、、、、その帰路にて初めて彼女を見る。






 ーーー


「いや、本当なんだって!!まじで!!」


 俺は約束通り友人の拓海と居酒屋にきていた。ビール片手に夕方見た出来事をオーバーリアクションで伝えていた。


「嘘つけよー!そんな奴いるか?流石にドレスを裏表反対に着てたら気づくだろ。で、その後はどうなったんだ?間違えてますよーって教えてあげてついでに連絡先交換しちゃったりして。」


 拓海は何でも気軽に話し合える数少ない高校時代の友人だ。高校卒業後、地元で美容師をしている。


「お前じゃないんだから、そんな簡単に連絡先交換なんて出来ないわ!というか、いきなり連絡先交換とか相手も怖がるだろ!」


「だから健斗は彼女ができないんだぞ。チャンスを逃している!そんな君に俺の教訓を教えてあげよう。ポジティブ、アクティブ、エグゼクティブ!!今の時代はこれよ!!」


 ???最後何か違くないか?


「拓海さ、お前エグゼクティブの意味知らねーで言ってるだろ!」


「細かい事はどうでもいいんだよ!何かよくわからないけど、かっこいいだろ?」


 お互いの顔を見つめ笑いあった。


「で、そのドレスの女とはどうなったのよ。」


 その女が気になるのかテーブルから身を乗り出してきて話しかけてくる拓海。その期待に応えたいがこれ以上の進展は無かった。


「いや、見ただけで話しかけてすらいないわ。十字路の反対側にいたし少しだけ教えてあげようとしたけど、違う方向に歩いて行っちゃってな。まっ誰かが教えてあげただろうよ。」


「それは残念。次もし見かけたらエグゼクティブだぞ!!いいな!」


「だから、、もーいいよ!エグゼクティブで!」


 その後も久しぶりの再会に拓海との会話は盛り上がった。同級生の現況やら思い出やらを話した気がする。

 酒に酔った俺は、いつのまにか家で寝ていた。




【4日前】


「いてててて。」


 プロレスラーにヘッドロックされているような頭痛で俺は目を覚ました。どうやって帰ってきたのだろうか。。途中からの記憶が全くと言っていいほど無い。最後に思い出せるのは、、、、駄目だ。考えると頭が痛い。とりあえず、拓海に電話するか。いや、LINEだけにしておこう。きっとあいつもこの痛みに苦しんでいるだろうからな。


 拓海へ連絡する為にスマホを触ると不在着信が18件もきていた。


「ん?なんだこれ?誰か俺に急用でもあったのか?」


 見てみると着信は全て拓海からであった。どの着信もほぼ同時刻にきており、その事からも急用に感じる。何か紛失したのだろうか。酔って帰り道に交通事故等にあってなければいいが。。続けて俺はメッセージが来ていないかを確認した。


 24件の新着メッセージがあった。これも全て拓海からだった。拓海への連絡は一旦置いておき、とりあえず来たメッセージを確認する。


 1時〜1時10分頃


 ・今日は楽しかった!また飲みに行こうぜ!

 ・既読にすらならないな。もう寝てるのか?

 ・まぁいいや。明日はお互い二日酔いに悩まされそうだな。

 ・そういや帰り道、本当にいたな。案外運命だったりしてな!笑

 ・おやすみー!


 1時30分頃


 ・やばい。。カツンカツンうるせ〜ヒール音すると思って後ろ見たら、さっきの女がいるんだけど。裏表間違えてるよって話しかけたの1時間以上前なんだけど。。。

 ・電話でてくれよ。何か怖いわ。

 ・家に無事着いたわ。着信多く残しちまってすまん。


 1時50分頃


 ・窓閉めようとしたら家の下にあいつがいるんだけど。。。今からでもいいから来てくれないか?絶対あいつやべーよ。

 ・やばい!やばい!やばい!

 ・目があっちまった。。あいつ何がしたいんだよ!!話しかけた時にシカトするものだから、喋る事できないの?とか言ったのが癇に障ったのかな。


 2時頃


 ・階段登ってきてる。あのヒール音が聞こえる。。徐々に音が近づいてるのだが。。

 ・俺の家のドアノブ回して引きまくってるんだけど。鍵もかけてるし流石に入って来れないだろ。

 ・とりあえず警察に電話する事にしたわ。


 3時頃


 ・ゑとさるやうへろるきみく

 ・をはわ□ほのゑとわきあよろ゛えみゑく

 ・りゑよむのとも゛らほゑ

 ・わきのたうも゛ちも゛まわたう

 ・のほゆらまたみ゛れほるほむみゑく

 ・り゛□けのさるおろこほゑろ゛おろむもらまろ゛をく

 ・の□もゑほ□も゛

 ・ゆに゛みろ゛の□もゑ

 ・わやこるらはたえ゛のむもおこほゑも゛かう

 ・をゑむまをむもこゆる゛へへり゛か


(□=空白のスペース)


 3時からはスマホでも壊れたのであろうか何を言っているのかわからない奇妙な文章になっていた。

 警察に電話するって書いてはあるが、3時以降のメッセージが気になる。流石に気になった俺はメッセージじゃなく電話する事にした。


 トゥルルルル、トゥルルルル


 暫く電話を鳴らすものの拓海が出る事は無かった。


 さてどうするか。

 こうなると直接拓海の家に行くべきか。。それしかあいつの無事を確認する方法が無い。


 二日酔いで頭が朦朧としているし正直家で寝ていたいのが本音なのだが、数少ない友人を放置もできない。


 気持ちを切り替えた俺は、ベットから降りてフラフラの足で地面に立った。


「よし!!行こう!!」


 自分に気合いを入れ、服を着替え玄関を出る。この時はケロっと玄関から拓海が出てくるのだろうななんて思っていた。


 拓海の家までは、電車で一本だ。各駅停車で6駅で着く。駅を降りたら商店街を通り抜け、そのまま道なりに真っ直ぐ進むとコンビニがあるのでそこを左折。車一台がやっと通れる程度の細い道を進んでいけば到着である。


 木造3階建て。外につけられた階段。セキュリティという言葉はここには存在しない。


 拓海の家は203号室なので、俺は錆びついた鉄の階段を登った。使い古された階段は登るたびに軋む音が鳴った。


 拓海の家の前に着きインターホンを鳴らした。が、反応は無かった。


 どこにいるのだろうか。仕事に出ているのかもしれないと思った俺は昨日貰った名刺の美容室に電話をかけた。


「はい。美容室RUSHです。」


「すいません。相田拓海さんってそちらにいますか。」


「??指名でのご予約でしょうか?あいにく今日は相田の方が休んでおりますので他の者で良ければ本日対応させて頂きますが、いかが致しましょうか。」


「あっそういうことではなくて。。すいません。私、相田の友人でして相田と連絡が取れなくなってしまってそちらに電話させて頂いたのです。」


「あっご友人さんっすか。いやー、困ってるんすよ。いきなり今日来ないんだもん。相田さん何だかんだ根が真面目だからなぁ。ズル休みとかじゃないとは思うんたけど。。もし会ったり連絡着いたらこっちにも連絡するようにお伝えください。お願いします。」


「そうですか。無断欠勤ですか。わかりました。会ったら連絡するよう伝えます。ありがとうございました。」


 拓海は一体どこに行ってしまったんだ。電話を切って暫く考えていると、


 ガリガリ、ガリガリ


 部屋の中から何かを引っ掻いているような音が聞こえた。かなり小さい音ではあるが、確実に拓海の部屋から聞こえてきた。


 ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ


 もしかしたら拘束されているのか?誰かが中にいるのは音からして確実だ。犯人も中にいるのだろうか。


 ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ


 仮に中にいたとしても助けない理由にはならないな。俺はドアノブを掴んだ。そして、鍵もろとも扉を壊すつもりで思いっきり引いた。


 予想に反して鍵はかかっておらず、思いっきりドアを引いた俺は後ろに倒れてしまった。


「いててて、拓海ー!いるかー!」


 体制を立て直し部屋の中に入っていく。武器になりそうなものは無かったが、何もないよりはマシだと玄関に置かれていた靴ベラを俺は握りしめた。


「拓海ー!!いるなら返事してくれー!」


 勢いよくリビングへの扉を開いた。


 が、、誰もいない。あるのは散らかったティッシュや食べかけのお菓子・飲み物ぐらいだった。


 奥には微かに開いている襖があった。寝室への襖だ。昼間なのに、中は暗く見えない。だが、襖の間からこちらを見られているような視線を感じた。


 意を決して俺は靴ベラを握りしめ突入しようとした。


 その時である。


 ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ


 音が後ろから聞こえた。俺はすぐさま音が聞こえるリビングから玄関の方に戻る。


 そのままリビングの方に走って入ってきてしまったが、玄関とリビングの間に左に行く道があった。おそらく洗面所やトイレ、お風呂だろう。そのどこかに拓海あるいは誰かがいるという事が分かった。


 もしこれが拓海じゃなかったら。。。冷や汗が顔を伝う。自分の恐怖心を無くしたいが為に俺は強く声を発した。


「拓海ー!出てこいよー!大丈夫かぁ。」


 俺は声を発し続けながらお風呂のノブを回しドアを開いた。


 浴槽の中に拓海がいた。しかし、拓海が異常なのは見てすぐわかった。


 何故わかったかというと、口から泡を吹いているからだ。そして浴槽と拓海の手の指が血だらけだったからである。おそらく手の爪で浴槽をずっと引っ掻いていたのだろう。


「拓海!お前何やってんだよ!大丈夫なのか?」


 見るからに大丈夫に見えないが、声をかけてみた。


「・・・」


 やはり拓海からの反応は無かった。定期的に浴槽を引っ掻こうとする拓海の行動を抑止し俺は救急車を呼んだ。


 拓海は会話がままならず精神状態が不安定という事で病院に入院する事となった。


 拓海の家族から何があったのかと問い詰められたのだが、真相は俺にも勿論わからなかった。


 いったい何があったのか。あの女が関わっているのは間違いなさそうだ。








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