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現れた南軍

「……!」

 爪先に当たった「それ」が何であるか、ジェフは瞬時に判断した。だが――狡猾で冷静沈着な彼でも、やはり人間的部分は、その頭脳のどこかに格納されていたらしく――口から出たのは、その判断を否定するようなものだった。

「は、……ハワード。冗談はやめたまえ。大の男がこんな夜道で遊んでいるものじゃあない」

「F! おい、F!」

 アーサーが背後から、ジェフの肩をつかむ。

「落ち着きたまえ! コードネームで呼ぶのがルールだろう?」

「……っ、……あ、ああ」

 ジェフは冷静な声を作り、混乱を無理矢理抑え込もうとする。

「H、H、どこにいる? まさか、地面に転がっている、これが、まさか、君だとは、そんな馬鹿なことは、まさか言うまいな? こんな冗談を、いや、冗談は、その、決して愉快ではないし、それに、その、面白く無いし、それにだ、そう、あの、つっ、つまらん。だから、その、……その……」

 だが、その口から出てくる言葉は支離滅裂で、やがてジェフは口をつぐんだ。

「……F! 危ない!」

 と、アーサーが彼の襟をつかみ、無理矢理にしゃがみ込ませる。

「うわっ……!?」

 倒れ込むと同時に、パン、と銃声が響く。

「げぼっ」

 水音の絡んだ、誰かの悲鳴が続き、ジェフとアーサーの側に誰かが倒れてきた。

「……S!」

 暗いながらも、自分の目の前に落ちた眼鏡から、ジェフは誰が倒れたのかを察した。

「ハァ、ハァ、……F……」

 ジョナサンの切れ切れとした声が聞こえ、ジェフは倒れたまま、すがり寄る。

「大丈夫か、S!」

「……げぼっ、……え……ふ……」

 わずかに返事が返ってきたが、すぐにそれも、沈黙に変わった。

「S! S! ……ぐっ」

 ジェフは腰に挿していた拳銃を抜き、膝立ちになって周囲を見回す。

「どこだ! 出て来い!」

「ひゃひゃひゃひゃっ」

 怒りに満ちたジェフの声に、笑い声が応じる。

「なんだよ、腰抜かしてんのか? ひっひひ、いいトシしたおっさんがビビらされて、ろくに立てもしねえのかよ? まさか漏らしたんじゃねえだろうなぁ? だとしたら傑作だぜ、いひっ」

「……!」

 そこでようやく、ジェフは後ろに南軍の士官服を着た、まだティーンに見える若者がカービン銃を肩に掛け、立っていることに気付いた。

「貴様かッ!」

「ひゃははは、そうだよマヌケ。2人やられて、ようやくかよ」

「口の利き方に気を付けろ、小僧」

 いつの間にかアーサーが銃を構え、若者に狙いを定めている。

「お前は南軍の兵士か? 何故士官服を着ている?」

「あ? 見て分かんだろうが。俺が南軍の下士官だからだよ。んなことも一々ご丁寧に説明差し上げてやらなきゃ分かんねえのか? ちょっとくらいアタマ使えや、おっさん」

「お前が? まだ20前の小僧に見えるがな」

「ああ、16さ。だが歳食ってるだけの、そこいらのバカより有能だからな。南軍は北なんかより見る目が多少ばかりあるってこった」

「人手不足とも聞いてるけどね。君みたいなのを雇うんだから、ヤケクソなんだろ」

 リロイも銃を構え、若者を牽制している。

「名前と階級は?」

「ジョン・ドゥとでもなんとでも。いずれは将軍サマになる予定さぁ」

「ふざけるなッ」

 アーサーが声を荒げ、尋ね直す。

「貴様と問答する理由など無い。まともに答えねば、撃ち殺すだけだぞ。真面目に答えろ」

「こっちだって無いさ」

 そう返し、若者はいきなり発砲した。

「うっ……」

 直後にリロイのうめき声が聞こえ、ジェフが叫ぶ。

「L!?」

「だ、大丈夫、大丈夫。ちょっと、その、……肩を、かすっただけだから、あはは、……いててて」

 明るい声で返されたが、ジェフはそれが嘘であることを見抜く。

「……死ぬなよ!」

「う、うん、頑張る」

 ジェフもようやく立ち上がり、拳銃を若者に向け、発砲した。

「おっとと」

 が、若者には当たらず、相手はそのまま隠れてしまう。

「逃がすなよ、F!」

 アーサーが怒りのこもった声をかけ、そのまま駆け出す。

「分かっている」

 ジェフも怒りをこらえ、その場から離れた。

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