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むかしむかし

 アデルがホットドッグセットを2つ手にして戻って来ると、リロイがベンチから立ち上がり、隣のベンチを動かし始めた。

「大人が4人横並びで、ってのも変だしね」

「あ、手伝います」

 ホットドッグセットをエミルに渡し、アデルはリロイと一緒にベンチを持ち上げ、向かい合わせに置き直す。

「ありがとう」

 リロイがベンチに座り直したところで、彼の猫も元通り、膝の上に収まる。

「あと50分くらいかな。……一足先に食べちゃったし、話でもする? プレゼントどこで買おう、とか」

「あたしまだ食べてるじゃん」

 娘に半分残ったホットドッグを示され、リロイは「ありゃ」と苦笑いする。

「手持ち無沙汰なのは僕だけか。新聞はセイナがカーペットにしちゃってるしなぁ」

「じゃ、聞かせてくれない?」

 エミルにそう言われ、リロイはきょとんとした顔をする。

「聞かせるって、何を?」

「局長がウィリス・ウォルトンのことで熱くなる理由よ。単に凶悪犯だって言うなら、今までに何人もいたはずでしょ? 何故『ウルフ』にだけ、そんなに執着するのかしら? まさか『狐と狼』だからってわけじゃ無いでしょ?」

「あー、それか。うーん……」

 リロイは猫の頭を撫でながら、困った顔をした。

「言っていいのかなぁ。でももう四半世紀以上も前の話だしなぁ、……じゃあ、まあ、いいか。

 君たちもアーサーと面識があるから、『FLASH』のことは聞いてるよね」

「ええ。南北戦争の時、あなたと局長とボールドロイドさんが結成した諜報チームのことよね」

「ちょっと違う」

 リロイは肩をすくめ、訂正した。

「確かに僕とジェフとアーサーは『FLASH』メンバーだった。でも2人足りない。『S』ことジョナサン・スペンサーと、『H』ことハワード・ヒューイットがね。

 ……そう、それこそが正に、今なおジェフが、ウィリス・ウォルトンを憎む理由なんだ」




 1864年、S州某市の沿岸にて――。

「まさかあれで沈むとは思わなかったねぇ」

「部品をいくつか、ブリキに換えただけなんだがな」

 彼らの視線の先には、ぶくぶくと泡を吹き出しながら海に沈んでいく艦があった。

「しかし北軍への被害は阻止できなかったな。スループ船が一つやられてしまった」

「ま、いいじゃあないか、A。おあいこってことさ」

「まったく君は楽天家だな、F。我が軍が被害を受けたと言うのに」

 眼鏡をかけた同僚に皮肉られるが、F――ジェフはくっくっと笑って返す。

「作戦の主眼は海上封鎖妨害の阻止だし、それはまったく問題無いだろう。南軍も艦が『原因不明の事故』で沈んだんだから、これ以上、この線での妨害工作は諦めるだろう。仕事は全うしたさ。何でも解釈次第だよ、S。何でもいい方に考えてなきゃあいけない」

「やれやれ、君って奴は」

 呆れるジョナサンを尻目に、ジェフは皆に号令をかけた。

「それじゃあ『FLASH』諸君、帰投するとしよう。いつまでも潮風を味わっているわけにも行かんからな」

「アイ・サー、了解であります」

 おどけた仕草で敬礼するリロイに対し、ハワードがフン、と鼻を鳴らす。

「どうせ本部に帰ったらまたすぐ次の指令だろう? しらばっくれて3、4日くらい羽根を伸ばしたいところだがね」

「そうも行くまい」

 と、アーサーがハワードを咎める。

「戦況が北軍優勢となって久しいとは言え、戦争の長期化は合衆国にとってもダメージだ。このまま2年、3年と長引けば、北軍が勝利したとて、そこで旧大陸やロシアからの攻勢を受ければひとたまりもあるまい。

 我々は北軍の、いいや、合衆国の一員として、戦争の早期終結に尽力せねばならんのだ」

「フン、ナショナリズムか。今もって俺には理解できんね」

「『俺にとって大事なのはカネと戦後の保障だ』、だろう?」

 ジェフはニヤッと笑い、ハワードの肩を叩く。

「それなら帰ってカネを受け取ろうじゃあないか。どうせ羽を伸ばすにせよ、先立つモノが無いんじゃあ仕方が無い」

「……あんたには負けるよ、いつも」

 しかめっ面をしていたハワードも破顔し、ジェフと肩を組んだ。

「よーし、それじゃ帰投だ。全員、回れ右!」

「はいよー」

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