赤い糸
「僕はキミの運命の相手なんだ。
だって僕には運命が見える。
キミの小指から伸びる糸は僕のものと繋 がっているんだ」
僕がそう言うと彼は訝しげな顔をし、まるで珍獣を見るような目で僕を見た。
中二病だとか電波だとか。言われ慣れた言葉だ。誰にも信じてもらえなくても僕はこの能力を信じていた。実際、僕の両親の小指の糸はお互い別の人に繋がっている。彼らは夫婦関係が破綻していて、現在は離婚調停中だ。ちなみに僕は父親に引き取られることが既に決定している。
彼は僕のでまかせだと思ったようで、今時そんな口説き文句を使う奴がいるんだなと笑った。
「心外だ、僕は事実を述べただけな
のに。」
そう反論しても彼は聞く耳を持たない。
「ごめんね、俺にはもう恋人がいるんだ。君とは付き合えない。」
そんなことはわかっている。彼は校内で1番美人な女子と付き合っているという噂は知っていた。2人きりで下校している姿を見たこともある。
しかし、これは決定事項だ。君は僕から逃れることはできない。
僕の小指から伸びる糸を引っ張ると彼の体はバランスを崩しよろめくと、僕を押し倒した。状況を把握できず、混乱している彼。僕は顔を近づけ、無理矢理口づけを奪った。男子高校生らしからぬ石鹸の香りがした。これは僕のファーストキスだった。
レモンの味はしないんだね、とつぶやくとお前の感性は古いなと返された。混乱していると思われた彼は意外に冷静な反応をした。そんな彼の不自然な様子をおかしく感じて吹き出した僕に、彼はため息をつき諦めたような笑みを浮かべ降参だと言った。