幕間 ~王と小娘~
『……ば―――っかみたい』
『うるせえクソガキ。俺だって必死だったんだ』
『あんなとこに壁作って。むちゃくちゃだよ』
『あー。あー。聞こえねぇ』
『あの人まで巻き込んでさ』
『ぁあん?俺はちゃんと言ったんだぜ!碌なことにならねえってよ!なのに力になるだの、放っとけるかだの、暑苦しくて煩いのなんの』
『え、あれ、そんな人、だっけ?』
『お前の知ってるアイツは、壊れちまったあとだよ。だから、お前を作ったんだ』
『……』
『そんな顔すんな。少なくともお前のおかげで、アイツは安らいで逝けただろうさ』
『ねぇ。なんで私は、あなたになれなかったの?』
『切り取った指から人形作って、本人になるかアホらしい。十人も作って、まともに動いたのはお前だけ。ナタリーだって、そんなもん作らされて最悪だったろうさ。だから逃げ出したんだ』
『そんなもんってなにさ』
『そんなもんはそんなもんだよ。なんだよその貧相な身体。真っ平らじゃねえか』
『あなたも同じじゃない!』
『俺様は男だからいいんだよ!』
『……でもついてないじゃん』
『ってめえええええ!クソガキぶっ殺す!!』
『やってみろ!!』
『あーあ……っこの、クソっ』
『あなたほんとに王さま?なんか弱い』
『うるせぇこちとら消えかけだぞ』
『あの大っきい身体使いなよ。強そう』
『いや、ありゃオマケだ。その頭らへんに生やしてるイケてる方がメインだな』
『……結局どれが本物なのさ』
『ホンモンも何もねえよ。俺もお前も群体だ。粘土こねるみてえに、好きな姿になるんだよ。アイツは、今のコレがお気に入りだった』
『だったら、そのままでいいじゃない』
『アイツの前ならな。でも人前だと恥ずいだろうが。王なら偉大じゃねえと』
『あー、だからキール気がつかなかったの』
『アントラーのじじいには見せてねえ、この姿は。北で知ってんのはアズールくらいだった』
『ゴメンね、身体。壊しちゃって』
『いいさ。アレは元から自爆用でな。お前の使い方は間違っちゃあいない』
『そうなの?』
『おう。国がフロイストに奪われそうになったら全部吹っ飛ばして、クレバスも塞いで通れなくして、ついでに全員埋めちまうための爆弾だ』
『埋める……』
『一人でも残すと火種になるからな。綺麗さっぱり滅ぼして、難民なんて作らねえのが一番だ。わかるだろ?』
『そう、かもしんない』
『ただテメエが無理に抑え付けたのだけは心配だ。ちゃんと崩れてくれたか――それとも、か』
『うん?』
『なあガキんちょ』
『なにさオッサン』
『お前の影、あれは大事にしとけよ。ホントは俺のもんなんだからな』
『……?』
『会って数日とは思えねえだろ。枝角に探させといた俺専用が、お前にもぴったりだ。よろしく言っといてくれ。壊してくれてありがとよ、ってな』
『何をどうやって言うのさ。私死んだんでしょ?』
『はぁ?』
『天国っていうところじゃないの?ここ』
『ばっか、無えよそんなもん。あったとしてテメエも俺も門前払いだ』
『じゃあ、なあにこのお花畑』
『俺の、あれだ、記憶だよ。魂の残滓、残り滓。アイツと最後に別れた場所だ』
『みれんたらたらだね』
『うっせ』
『あれ、消えちゃった』
『ああ、そろそろ時間だ』
『何の?』
『ガキの門限さ。家に帰れ』
『消しちゃった』
『じゃあ新しく作るんだな』
『あなたも帰るの?』
『いーや。世界に溶けて消えるだけ』
『私もそうなる?』
『いつかな。だが甘く見んなよ。死ぬに死ねねえ身体だ』
『――今更、後悔しても遅いぜ』
『……何を?』
『――そうかい。ま、いずれわかるさ』
『あばよ、レナーシア』
『ばいばい、ヒアリクス』