東城塞の弟子
世界を南北に分断するメディウス山脈には、たった一カ所だけ山越え可能な巨大渓谷がある。
そんな唯一の裂け目――ソル=クレバスに作られた国家『クレヴァシア』は、その地理的要因から非常に豊かだった。南から北へは植民団が、北から南へは資源の山が必然と通過し、税という莫大な利益を落とすのだ。
通る人も物も膨大であるため、検問を本国ではなく行路上の城塞で分散するのは、この国特有の工夫だった。
その内の一つ、東城塞。
尖塔に設けられた執務室。
埃っぽい空気を石材で囲んだ部屋は、調度は粗い木の机と椅子とみすぼらしい。頑丈なだけが取り柄の腰掛けに、潰れて固くなった布をこれでもかと重ねて、城塞のたった一人の女史、クレア=シュタインは腰を掛けていた。
「………」
ピンと伸びた背筋がブラウスを着こなし、揃えられた膝は丈の長いスカートで覆われる。服飾は身体にピッタリの寸法で、小柄ながら重厚な印象を与える娘だった。
「………」
分厚い眼鏡の向こうで、ハシバミ色のじっとりとした半眼が手にした書類を睨みつける。部屋は薄暗く光源は小さな蝋燭一本。壁掛けの大きなランプに光は無かった。
それでもなんとか読み取って、ペンを翻し何やら書き込むと、判を叩き付けて傍らの箱に放り込む。一連の挙動は機械のように直線的で、机上にそそり立つ書類の束と「処理済み」の山、紙に湿気を吸われてかさついた手、大きなペンだこ、どれもが彼女の長く単調な時間を物語っている。
東城塞の全ての事務処理をたった一人で、黙々と延々とこなしてゆく。
彼女の動きは淀みなく、このまま変わらぬ作業が続くと思われた――が、
「クレアちゃぁん!」
「っ――」
突然の腑抜けた呼びかけに、女史の腕はギッと不自然に停止した。声の主へと投げかけられたクレアの視線は投げつけるかのように冷えきったものだ。
「……兵士長。何度言えばよろしいのでしょう。下の名前を呼ぶのはお止めください」
起伏無く、他人行儀で排他的。そんな声音はしかし、壁に背を預ける男にはほとんど通用しないようだ。だらしなく伸ばされた髪の毛の下で、ほお骨の目立つ細い顔がへらへらと笑う。
「おおっと。今日も厳しいねぇ。クレアちゃぁんは」
無精髭をなぞりながらの道化じみた対応に、クレアの視線はさらに鋭く軽薄男に突き刺さる。
いつ洗ったのか分からないズボンも、あちこち留め金の緩んだ鎧も、腰でぶらぶらと落ち着かない剣も、全てが全てだらしがない。
そんな男の肩書きは、兵士長――このような身なりでありながら、ここ東城塞の長だ。
「厳しい評価が嫌ならば、もっと『らしく』振る舞ったらいかがです」
「育ちの悪さは変わらねえさ。それに、東城塞『らしく』ていいじゃねえか」
「ええ、本当に。不本意ながら」
東城塞――狭い谷間にぎゅうぎゅう詰めの悪地――繋がる行路は、メディウスの山壁に走る切り立った危険域――一日の通過が十を超えることも稀。
そんな現場に送られてくる兵は、本国で「できそこない」のレッテルを貼られた下級兵士ばかりだ。東城塞の大半には規則もへったくれもなく、目の前の軽薄男はその筆頭。身格好の指摘など今更だろう。
クレアも改善を期待しているわけではない。何度目かも知れないやり取りは、もはやただの挨拶に過ぎない。
「それで、ご用件は?」
「変な男と、ついでに変な荷だ。どっちもこの辺りのじゃあねえな。頼む」
時期柄この類いの仕事は多い。息を吐いて立ち上がるとキシキシと骨の悲鳴が聞こえて、そういえば今日は一度も席を立っていなかったな、とクレアは初めて思い出すのだった。
……
………
…………
「ところで、鎧の更新について問題があります」
螺旋の石段を降りながら、クレアは男の後頭部に声をかける。当てつけのように開けられた距離も気にせず、兵士長は気怠そうに首を回した。
「なんだぁ。予算は通っただろ」
「鎧の方は。難点は動力の方に。このまま採用すると大幅な光彩の不足が見込まれます」
「……そんなに燃費悪いのか」
「払い下げ、型落ちの品ですから」
『光彩』――今や「燃える石」や「小さな雷鳴」に取って代わり、必要不可欠なエネルギーだ。各地に生産施設があり、東城塞も河川から引き込む水流で賄っていた。しかし――
「ここの施設自体、建国時の骨董品。なのに装備の更新更新で消費は増える一方。そろそろ節約では限界かと」
クレアのため息交じりの進言は、相応の努力の跡がみられるものだ。
本国は防衛力強化を名目にするが、しかしできそこないの組織に潤沢な予算が下りるはずもない。光彩のランプを諦め蝋燭を点すほどには、困窮して長かった。
「どうにかならねえかなぁ。このままだとまーたクレアちゃんの目が悪くなっちまう」
「……ひとまずは鎧の回路を組み替えて凌ぎます。どこの馬鹿野郎が組んだのか、無駄だらけの構成でしたから」
「お、おおぅ」
軽口をさらりと受け流されたことも、さりげなく混ぜ込まれた見知らぬ誰かへの暴言にも、兵士長は思わず引き笑いをする。彼が戦慄するのは、言葉とは裏腹にあくまで静やかな女史の表情だ。
「歩くならちゃんと前を見てくださいな。着きましたよ」
兵士長のお為ごかしに対応するのもいつものクレア日課だ。軽くいなすうちに、両名は監査室に辿り付いていた。
持ち込まれる荷の如何によっては牢獄にもなる一室だ。分厚い扉をくぐる直前に、兵士長がさりげなく剣の留金を外したのをクレアは横目で捉えていた。
(完全に悪人のソレですね)
もちろん監査対象が下手人だったときの備えだ。
しかし事情を知らぬ者が目にすれば――
(牢で女を手込めにしようとする暴漢の類、でしょうか。我が上司ながらひどい評価)
クレアはいつものため息を嘆息程度に抑えつつ、監査室に足を踏み入れた。
(髭に髪……もう少し身なりさえ整えれば、本国からの評価もまともになるでしょうに。まだ挽回できる不興であればよいのですが)
東城塞がクレヴァシア国内で孤立している現状は、望ましくない。
もっともその原因は軽佻浮薄な現代表だけのものではなく、むしろ「創設者」にも要因があって……
「――っ?」
そんな物思いに耽っていたクレアの肌に、ふと、チクリと刺激が走った。
兵士長の所作にいちいち目を付ける癖が祟ったか。クレアは禄に室内を見ることなく入室したのだが――
(空気が……冷たい?)
いつもは無い奇妙な雰囲気だった。ぞわりと背を這い昇る寒気は、例えるならば闇夜の墓場に覚えるもの。気温の低さではなく空虚さがもたらす寒々しさに、クレアは気が付かぬうちに包まれていた。
(――かげ?)
そして妙に狭い視界に、クレアは怖気の起源を捉える。
部屋の最奥、採光窓を背にした影――いや、人だ。
まとう外套も鋭い髪もことごとく黒く、微動だにしない立ち姿が錯覚を与えている。影そのものが胡乱に立ち上がって、こちらをじっと見つめているかのような幻を。
「っ……」
動かぬ影を前にして、クレアもまた歩みを忘れる。いつの間にか指先がかじかんだように曖昧になって、足裏から床面すら消え失せているようだった。
離れているはずなのに、この鼻先が触れそうな冷たさは何だ。
意識だけがふわふわと一人歩きを始めて、呑まれてしまう。
呑まれて吸われて、消えてしまいそう。
底のない、からっぽな、深淵のような――――目に。
バン!!!
「!?」
背を叩いた扉の音に、クレアはビクリと身体を震わせた。
(え、何?)
夢から覚めたように目を瞬かせると、先の寒々しさはどこへやら、いつも通りの一室が目の前に広がっていた。見張りの兵士が適当に寛いでいるのも凡俗で、墓場の影などどこにもない。
改めて影を――いや、男を見ても、何の変哲も無い成人男性だ。
ただし、
(黒だ。髪も、目も。一重に、薄い唇。低い鼻。平らで……見ない顔立ち)
クレアが知るどんな人種的特徴にも嵌らない、齟齬がある――ように感じられる。
もしこのズレこそ自失の原因ならば――
クレアはキッ、と眉根を寄せて後ろを振り返った。
「んんん~?」
すると案の定、先ほど扉を必要以上に強く閉めた兵士長が、実に嫌みな笑みを浮かべていたのだ。
(……っこんの)
クレアは今の現象が、兵士長からのしょうもない辱めであることに気が付いた。
いくら口賢しかろうが、未だ齢十八。狙い通り、始めて目にする相手に「らしい」反応を見せてしまったクレアは、心中、上官へありったけの罵倒をぶつけてなんとか平静を保つ。
(覚えてなさいよ)
さて、と。
クレアは悪戯小僧から意識をきっぱりと切り替えて、客人に向き直る。やはり珍しい顔立ちというだけで、先の奇妙な怖気は跡形も無かった。
(……当然です。クレヴァシアにはどこからでも人が来る。外見なんて、何の問題にもならない)
一昔前ならともかく、耳長や鼻無し、曲がり背や黒鉄までもが同胞とされるこの時代。肌の色や顔の造形に、いちいち偏見など抱いていては始まらない。
(そう。『北の民』でなければ、何の問題もありません)
クレアは失態の名残を振り払うように、やや大仰に、しかし丁寧な一礼をする。
「鑑査士、クレア=シュタインと申します。お名前とご出身、ご職業、入国目的を」
「キール。出身は……特に名もない東の土地から来た」
返された男の声はまさに一見の印象通り、感情の色をべったりと塗りつぶしたものだった。かすれた雑音にでも例えられるだろうか。初めて耳にする名の響きも、どこか頑ななものに感じられる。
「仕事は、狩人をしている。目的は――祝祭だ」
「商談が目的で?」
「いいや。荷は帰りの路銀にして、買い付けはしない。ただの観光だ。国宝が公開されると聞いている」
「ああ、確かに。『北の旧き王』ですね。中央広場で公開される予定です」
初めて公開される「国宝」を一目見ようとする者は多い。
しかし整備された行路がない東から、わざわざ観光目的で来る者はこれまでいなかった。今日日に東城塞を通る者も、祝祭に商機を狙う商売人ばかりだ。
「随分遠くからいらっしゃったようです。東とは、ウラルの辺りでしょうか?」
「もっと向こうだ」
「向こう?ウラル以東はまだ開拓が……」
クレアは思わず会話を切って、いそいそと卓状の男の荷へと歩み寄っていた。男への疑義ではなく、純粋に湧き上がる興味に背を押されたのだ。
未だ神話に支配される領域からやってきたと言うならば、そこから持ち込む品といえば――
「――すごい」
女史の鉄面皮は変わらずも、感嘆は自然と漏れ出てくる。
目にした品々は、まさに奇怪の一言であった。
ギラリと金属光沢のある革、美麗に組まれた菱形の鱗、植物繊維のような毛の束。そして黄金の粒子が散る、赤黒い液体の子瓶。どれもこれもが――
「神代の獣の品ですね」
「分かるのか」
「ええ、事典以外で目にするとは思いませんでした」
キールの口ぶりに驚きが混じるのも当然と、クレアは首肯する。
「ここに来て正解でしたね。他の城塞では出所不明で没収だったかもしれません」
ならば男を包む漆黒の外套も、そういった由来なのだろう。見れば背に担いでいる歪んだ棒は加工を見る限り弦の外された大弓らしく、しかし木とは違う独特の光沢がある。
「よくこれだけの数を。確かに東の地には、神代専門の猟団がある……と聞いております……が…………?」
言葉もまばらに品を確認するうち、クレアの視線はふと、品の一つに引き込まれていた。
異彩を放つ荷の内では注目するほどでもない、むしろ地味な類のものだ。
(掌サイズの黒い――何?)
輪郭はゴツゴツして石のようだが、光の反射がなく立体感が欠けて、目を凝らしてもまるで形が掴めない。ただ黒いだけでなく極彩色の粒子がチカチカと瞬いて、まるで切り取られた星空のようだ。
(黒羅金――違う。彩無石、でも、ない。セリオンの一種?)
頭の中の図鑑をめくっていくが、特徴が合致してくれない。かつて学んだ知識を掘り起こそうとするも……どうも教わった形跡が無いようだ。
クレアの知見の大半はかつて師から与えられたものだが、無念にもその教鞭は時間切れによって中途に終わっていた。やはりこういった空白が見つかることも見越して、あの賢人は今わの際に言い残したのだろうか。
――弟子同士で埋め合え、と。
「兵士長。セロンは今どこに?」
……
………
…………
重厚な扉を体全体を使って押し開けると、吹き込む風が身体の熱をさらってゆく。
クレアが踏み入ったのは城壁上に設けられた歩廊だった。天日を遮るものも無く、薄暗さに慣れていた眼に鋭く陽光が突き刺さる。
「……まったく、こんなところに」
眩い帳の向こうでも、彼の姿を見つけるのは容易かった。日照りで蒸される鉄兜を規則通りに被る者など、不良だらけの東城塞では彼以外にない。
手すりに腕をかけ下界を見下ろすのは、痩せた長身の青年だった。鎧は革張りの軽装で、腰に携えた剣もまた細く、兵士としては頼りなく見える。
しかしクレアはその青年、セロン=フィロスタリアが、振るう剣の種類を問わないことを知っていた。
「やあ、クレア」
セロンは目も向けず、しかし来訪者の名を当ててくる。クレアの小さなぼやきが届いていたはずもないが、しかし驚くようなことでもない。
いつものことだ。
「ちょうどよかった。少しこちらに来てくれるかい」
「………」
クレアは以前人が、セロンの声を木漏れ日に例えたのを耳にしたことがある。優しく染み入り、心地の良い安堵感をもたらすのだと。本国の町娘が彼とのおしゃべりに興じたがるのは、きっと顔の造形だけが理由ではない。
しかし、
「何が、ちょうどよかった、ですか。探したんですからねまったく」
付き合いの長いクレアにとっては毎朝の鐘より聞き慣れたもの。特段の感慨もなくぶっきらぼうに歩み寄るだけだった。
「まずはこちらの仕事を優先して頂戴。見て欲しい荷があるの」
「まあ、そう言わずに」
「神代の品です。貴重な機会なんだからとっとと来なさい。そもそもあなた、こんなところで何してるの。今日の巡回経路は屋内でしょう」
一向に動こうとしないどころか一瞥もくれないセロンに、クレアは痺れを切らして手を伸ばした。
すると――
「ごめん」
「え?」
す、と唐突に、そして自然に伸びてきた腕に、クレアは驚く間もなく抱きかかえられていた。腰に長い腕が回されて、すっぽりとセロンの懐に収まるように。
「っ、っ」
たたらを踏んだクレアの目の前を、ふわりと、柔らかな金髪が流れる。
セロンの顔との距離は、互いの息のかかるほどだ。
整った顔立ちが――兜の下で風に揺れる髪が――空よりも青々とした瞳が――絵画じみた造形美を成して覗きこんでくる。
「……なあに?突然」
突然の抱擁に、しかしクレアに抵抗する様子は無い。バランスを崩した身体を、むしろ支えられるがまま任せているかのように。
「ずいぶん大仰な挨拶。ここはフロイストじゃありませんよ」
「んー、一人で監視も飽きてきてね。一緒にどうだい?」
「こんな天気に?お断りよ。暑いもの」
「確かに熱いね。どうしてだろう」
なんとも――不届きな逢瀬だ。他の兵が見ればけしからんと怒るだろうし、本国に潜む青年のファンたちが目にすれば、きっと嫉妬の声が上がる。
……もっともクレアのハシバミの瞳は、青年に向けられてはいない。
「今夜の祝祭、相手はいるのかい?」
「ご心配なく。あなたこそ手の数は足りているの?」
近しく言葉を交わしながらも、クレアの視線が向いているのは歩廊の眼下――城塞を囲む壕だった。壕にかかる跳ね橋の前では次の監査を待っているのだろう、集団が談話に興じている。皆過酷な行路を抜けてきた商売人であり、今も稼げる商品について情報交換中だろうか。
祝祭前ということもあって数は多めだが、東城塞では見慣れた景色。
「まったく……!」
クレアは、ため息一つでセロンの頬を押し退けた。
「っそういうのは。本国の娘連中がお似合いよ。当然、勤務時間外でね」
「一応休憩時間なんだけど……」
「残念ですが十五秒も前に終わっています。仕事に戻りなさいフィロスタリア」
言い放つや否やクレアは靴裏を叩くように踵を返し、わき目も振らず歩き出す。
そんな辛辣なお断りに、しかし青年は気を悪くした様子も無く、肩をすくめて後を追った。
「そんなに怒らなくてもいいじゃないか」
「呆れているだけですよ」
「様にはなってたと思うんだけどなあ」
「どこが。外見も中身も言葉も態度もちぐはぐです。嘘でも冗談でも、兵士長の真似ごとなんてよしなさいな。似合わないことこの上ない」
生真面目な女史と懲りない青年は、言葉の応酬軽やかに城塞へと降りてゆく。石段を下り、廊下を渡り、扉をくぐってすれ違った兵と挨拶を交わして――
「でも、街の子たちにはきっと通じると思わないかい?」
「本当に本気にされますよ。だから――あの子だけに、しておきなさい」
「……困ったな。賑やかになれば、きっと来てしまう」
「呼ばないで。絶対に」
「もちろん、そのつもり。踊るなら、僕らだけだ」
二人の足取りは実にゆったりとしたものだった。
ゆっくり、のんびりと、まるで穏やかな歩み。
――両者とも示し合わせたように。待ち人があるにも関わらず、急ぐ素振りも見せない。
――まるで無理やりにでも、足を落ち着かせようとするかのように。
やがて監査室の扉は開かれる。部屋の奥では変わらずキールが石像のごとく佇んで――
「……?」
いや、変わらずと言うと語弊があろう。
戻った二人を目にした瞬間、これまで無表情を貫いていた狩人の顔が微かに、しかし確かに不審の色を付けたのだから。
「兵士長」
「おうセロン、遅かったな。こいつなん、だ…が……」
珍品を眺めていた兵士長は青年に笑いかけて――しかしその濁声は不意に途切れる。
つ、と掲げられたクレアの指に、口元を押さえ込まれたのだ。
さらに指先の向こうに、強ばった女史の表情を見ては、言葉どころか息を呑んでしまうのも当然。
クレアの肩越しに、セロンが鉄兜を外して柔らかな金髪を露にする。
「報告します」
青年の細面は今や軽薄男の擬態も脱ぎ捨て、張り詰めた緊張に満ちていた。
双眸の青に強烈な戦意を宿して、彼は端的に一言を放つ。
「『北の民』です」