不運
不快な悲鳴で僕は目を覚ました。
夢の余韻を引きずりながらだんだんと思考が覚醒していく。・・・悲鳴?何事だ?
「レベッカ、起きてる?」
僕は小声で幼馴染に呼びかけた。
「起きてるよカイン」
暗闇の中、声の聞こえた方向から見当をつけてレベッカに向き直る。
「この悲鳴は何だろう? 賊たちに何かあったんだろうか?」
「わからない。私も今起きたところなの」
しばらくして悲鳴は止んだ。静寂が訪れる。僕達は静寂の中、息を潜めた。
突然ドアが開いた。差し込んだ強烈な光に目を細める。
「大丈夫か君達?」
そこにあったのは僕達を助けに来てくれた正義の騎士の姿だった。
僕達は騎士団に助けられた。
賊たちのアジトがここだと匿名のタレコミがあったらしい。ちなみに賊のリーダーである三白眼の男は騎士団との戦闘で命を落としたようだ。
そのことを騎士団の人から聞いた瞬間、僕の脳裏に夢で見た向こうの世界の事がよぎった。そう、彩ちゃんは・・・向こうの世界で三白眼の男を殺した。
笑いながら、狂気に身を染めて・・・
(役割分担だよカイン君)
背中に悪寒が走った。おそろしい。
彼女は本当に狂ってしまった。あんなに優しい女の子だったのに。
今の彼女なら、僕の・・・いや、僕と彼女の敵となる人をためらいなく殺してしまうだろう。僕に彼女を止めるすべは無い、救う事もできない。僕に出来るのはこれ以上彼女が間違いを起こす前に姉さんを生きがえらせることだけだ。
そう決心した僕はすぐに出発することにした。レベッカはぶつぶつと文句を言っていたが結局僕の意思に従った。彼女は基本的にいい奴なのだ。
街を出る。濃い森の匂いが少しだけ僕に元気をくれた。
さあ行こう。
僕は颯爽と歩みを進める。優しい風がそよぐ。木々がさわさわと柔らかな音楽を奏でてくれる。空から降り注ぐ光は森のフィルターを通り抜けて七色に姿を変えた。
忘れていた、世界はこんなにも美しかったのか。この時、僕はあらゆるしがらみから解放されてただ世界の美しさに見とれた。
ノイズ
0ガサガサと茂みを掻き分ける野蛮な雑音が僕を現実に引き戻した。嫌な予感がした。腰元の剣に手をかける。全身を緊張させて迫り来る雑音の主と相対した。
ぼさぼさの髪の毛、薄汚れた服装の男達が姿を現す。どこかで見たような顔だ・・・。僕の隣でレベッカがハッと息を飲んだ。
「カイン、この人たち・・・奴隷商人の・・・」
僕はレベッカの言葉でやっと気づく。この男たちは僕らを攫った賊たちの残党だ。
「なんだ、お前らあの時攫った奴らか」
ぼさぼさの髪をかきあげながら先頭の男はにやりと笑う
「本当に運が無い奴らだな、また俺たちと会うなんてよ!」
下卑た笑い声を上げながら男たちが僕たちを囲む。その手には武器が握られていた。多勢に無勢、正直勝てる自身は無い。
「さあ、荷物全部とそこの女を譲ってくれたら生かしてやるぜ」
「ふざけるな!」
僕はあまりの言い草にカッとなって剣を抜いた。何も考えずに近くの男に斬りかかる。咄嗟の事で反応できなかったのか、斬りつけられた男は防御する素振りも見せずにあっさりと斬られた。返り血が僕を染める。
「こいつ、やりやがったな!」
状況を理解した他の男たちが僕に襲い掛かってきた。大丈夫、みんな素人の動きだ。恐怖は無い。勝機はある。華奢に見られがちな僕だが、こう見えても幼いころから剣術を習っていたんだ。賊ごときに遅れはとらない。僕はそのまま二、三人を斬り伏せた。
「きゃあ!」
背後からかん高い悲鳴が聞こえた。そう、レベッカの声だ。
「レベッカ!」
悲鳴に気を取られた。
その瞬間背中に感じる焼けるような痛み。どうやら背後から切りつけられたようで、僕はゆっくりと力を失って地面に倒れる。
「カイン?カイン!いやぁぁぁぁ!」
属たちがレベッカを連れて去っていく。駄目だ、血が足り無い。意識・・・が・・・
(そして物語のバトンは私に引き渡される)