野党
僕は目を覚ました。
ゆっくり開いたその目に映ったのは野営用簡易テントの天井だった。大きな伸びをひとつ、何気なく隣を見ると・・・・・・・・・半裸の幼馴染がそこにいた。
寝起きで半分眠っている頭がパニックになる。どうしてレベッカがここに?
僕が驚きのあまりフリーズしているとレベッカがムクリと起き上がった。
「んー?あ、おはようカイン。なんで固まっているの?」
「え、あ、いや、レベッカ。なんで僕の隣に?」
僕の問いに対してキョトンとした表情を浮かべるレベッカ
「寝ぼけてるのカイン?荷物がかさばるからテントは二人でひとつ使おうって話したじゃない」
そうだった・・・確かに昨日その話をした。向こうの世界の記憶が強烈すぎて忘れていたようだ。
「ごめんレベッカ、ちょっと寝ぼけてた。さ、朝食にしようか」
僕は荷物を入れた大型のリュックから干し肉と乾燥したパンを取り出す。食料は僅かしか持ってきていないから本当は現地調達をしなくてはいけないのだけど、今朝はそんな気分になれなかった。
「はい、レベッカ」
「うん、ありがとカイン」
もくもくと朝食を食べながら僕は姉さんのことを思い出す。優しかった姉さん。美しかった姉さん・・・僕は姉さんの笑顔が大好きだった。
(彼は気づけなかった。ここはすでに危険地帯西の森。しかしカインは気を抜いてしまった。故に気づけなかったのだ。簡易テントを取り囲む賊たちの気配に)
(テントに火がつけられた。そのときになってやっと自分達に向けられた悪意に気づく二人。慌ててテントから転がり出た二人をしたたか殴りつける賊たち。彼は朦朧とする意識で自分がどこかに運ばれるのを感じた)
僕は体が強く揺さぶられるのを感じた。
「カイン!ねえカイン!大丈夫?」
「ん・・・レベッ・・カ」
「よかった!意識が戻った!」
レベッカの声によって意識を取り戻した僕は体を起こそうとする。全身に激痛が走った。
「じっとしていて、ひどい怪我だよ」
レベッカの言うとおり、実際ひどい怪我だった。どうやら武器を持っていた僕はレベッカより念入りに殴られたらしい。
周りをそっと見回してみる。乱雑に作られた木造の小屋、強風が吹いたら壊れてしまうのじゃないかと思うほどボロボロである。
突然、小屋の扉が乱暴に開かれた。強面の賊たちが入ってくると隣のレベッカがビクッと震えたのがわかった。
「立て、場所を移動するぞ」
一切感情を感じさせない冷淡な声。ぼさぼさの黒髪に三白眼の無表情が恐ろしく見えた。普通の盗賊なら持ち物を盗んで後に殺すだろうから、たぶんこいつらは奴隷商だ。僕達は売られるのだろう。
体が動かない事を訴えると三白眼の男が面倒くさげに舌打ちをして後ろに控えていた巨漢に僕を担がせた。巨漢に命令していたところを見るにコイツがリーダーだろう。
外には大型の荷車が数頭の馬に繋がれており、荷車には複数の人間が両手足をしばられて乗っていた。僕とレベッカも両手足を頑丈な縄で縛られ荷車に乗せられる。
馬が動き出す。賊たちは各々が馬に乗って荷車の横を並走していた。
しばらくすると僕は周りが騒がしい事に気づいた。なぜか賊たちが慌てている。
「くそ!なんでこのタイミングで・・・」
三白眼の男の言葉は最後まで続けられなかった。奇声を発しながら馬を追う無数の獣が現れたのだ。
「ぎゃあ!」
僕の隣を並走していた、体格の良い賊が悲鳴を上げた。狼に似た獣に噛みつかれている。その賊は落馬して獣どもの餌食にされた。後方から男の断末魔が聞こえる。
「落ち着け!冷静に対処しろ!」
三白眼の男の声で冷静さを取り戻した賊たちは所持していた食料を放って獣の気を引いたり、それでも襲い掛かってくる獣に対しては剣で斬りつけたりしながら上手く獣の追跡を逃れた。
しかし何名かは獣に噛みつかれて命を失ったようだ。リーダーである三白眼の男が苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「ついたぞ、降りろ」
そういいながら荷車に詰め込まれた人間達の足の縄を解いていく賊たち。逃げ出さないように剣を突きつけて威嚇している。
足の縄を解かれ、乱暴に突き飛ばされた僕はよろめきながら立ち上がる。いつの間にか見知らぬ街の外れに来ていたようだ。呆けていると後ろから髪の毛を引っ張られた。頭皮が引きちぎられるような痛みに顔をしかめつつも抵抗はしない。布切れを口に押し当てられ、グイっとばかりに頭の後ろで結びつけられる。どうやら猿轡の代わりだ。
僕達は何かの建物の地下に連れて行かれた。地下にあった薄暗い牢屋に放り込まれる。
(そして賊たちが扉を閉めると地下の牢屋は真っ暗になる。地下ゆえに窓はなく、僅かな光さえも届かない。自分の呼吸音だけが大きく響く闇の中、彼は静かに目を閉じた)
(物語のバトンは私に引き継がれる)