もう一つの世界
僕は目を覚ました。
先ほどまで見ていた夢の余韻を感じながらゆっくりとベッドから上半身を起こす。
「あら、起きたの?おはようカイン」
「・・・ああ、おはよう母さん」
二年前に姉さんが死んでから母さんは痩せた。今では立っているのがやっとだ。
(そう、彼の姉も私のお姉ちゃんと同じように二年前に死んだ。街のはずれで薬草を摘んでいるときにモンスターに襲われ、死んだのだ)
「朝食が出来てるわよカイン」
母さんは柔らかく微笑むと作った朝食をテーブルに運ぶ。
「きゃっ!」
足を滑らせた母さんが皿を落とす。陶器の割れる鋭い音と共に割れた皿の破片が床一面に飛び散った
「母さん!」
僕は母さんに駆け寄る。
(彼は母親に駆け寄る。幸い母に怪我は無かったが抱き上げた母のその軽さに今更ながら驚く。姉の死はここまで母を追い詰めていたのだ。そして、彼自身も・・・)
「母さん、僕、西の魔女の所へ行ってくるよ」
前々から考えていたこと。西の魔女は代償と引き換えに死者を蘇らせてくれるという。僕は姉さんが死んだときからずっと心に決めていた。
(そう、彼はずっと前から心に決めていた。しかし西の魔女は国の辺境に住んでいる。そこに行くためには凶暴なモンスターの住む西の森を抜けなくてはならない)
下手をしたら死んでしまうかもしれない。もし僕が死んでしまったら母さんはどうなる?姉さんが死に、残った僕まで死んでしまったらそれこそ救いようが無い。だから今まで決心がつかなかった。
母さんは僕の言葉をに悲しげな顔で頷くとフラフラと立ち上がった。おぼつかない足取りで物置まで行くと中をごそごそと探り、やがて一振りの剣を取り出した。
「カイン、これを持ってお行き。我が家に代々伝わる魔法剣があなたを守ってくれるでしょう。」
「僕を止めないの?」
母さんは聖母のような笑みを浮かべて言った。
「あなたは誰よりもレイナを慕っていたものね。レイナが死んだときから考えてたのでしょう? あなたは優しい子だから母さんを気遣ったんでしょうけど・・・いいのよお母さんのことは気にしないでいってらっしゃい」
「母さん・・・」
言葉が出なかった。この気持ちをどう伝えたらいいのかわからなくなった僕は、ただギュッと母さんを抱きしめた。
(彼は旅に出る。大好きな姉を蘇らせるために)
(彼の話を聞きつけた幼馴染のレベッカが自分も同行したいと申し出てきた。最初は渋っていたカインだったが彼女の熱意に負け、同行することを許可した)
(旅支度をし終えたカインはベッドに横になる。明日からの旅に備えて体力を蓄えておかなくてはならない。彼は静かに目を閉じた)
(物語のバトンは私に受け渡される)