姉の死
「もう、彩は食いしん坊ね!そんなにお菓子食べたら太るわよ」
そう言ってふわりと笑うやさしいお姉ちゃん。私は小学生、お姉ちゃんは高校生。年の離れた姉妹だったが仲のよさは親があきれる程だった。私はお姉ちゃんが大好きで、ずっと傍を離れなかったし、お姉ちゃんもそんな私をかわいがってくれた。
「大丈夫だよ!私はお姉ちゃんと違って若いから太らないもん!」
「言ったなこいつぅ!」
お姉ちゃんはおどけて私に抱きついてきた。いつもの戯れ、そう、いつもの・・・。
激しくドアをノックする音が桃色の幻想を粉々に打ち砕いた。
「彩ちゃん?入っていいかい?」
私は不機嫌にうなり声を上げて拒否の意思を示したが、奴は「失礼するよ」と言って勝手に入ってきやがった。
「調子はどうだい?」
奴は医者だ。たしか名前は林田とかいったはず・・・。まあコイツの名前なんてどうでもいい。というかお姉ちゃん以外の人類なんてみんなどうでもいい。
「いい加減私の治療を受けてくれないかな彩ちゃん?確かに玲奈さんは気の毒だったが・・・」
うるさい!お前ごときがお姉ちゃんの名前を気軽に呼ぶな!
「いいかい彩ちゃん、玲奈さんは死んだんだよ。死者を想うのは大切だがそこで立ち止まってしまってはいけない!」
オネエチャンハシンダ。その事実を再認識した瞬間、ギリギリ平静を保っていた私の心が崩壊した。
「玲奈さんも、君には前を向いて生きて貰いたい筈だ」
うるさい。やめて・・・。
「君は玲奈さんを悲しませたいのか?」
ヤメロ・・・お姉ちゃん・・・・嫌だ。
「あああああああああああああああああああやめろやめろやめろやめ・・・・嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダァ!」
(そう、彼女の姉は二年前に死んだ)
(自殺。クラスメートのいじめに耐えかねての事だった。最愛の姉、玲奈の自殺を知らされた瞬間、彼女は壊れた。以来、彼女は精神病院で暮らしている)
大好きなお姉ちゃんが死んだ。その事実を私は受け入れる事が出来なかった。
(そう、彼女は受け入れられなかった)
もうどうしていいのかわからない。
(林田医師の手を振り払った彼女はうめき声を上げながら廊下に飛び出る。驚いた表情のナースを突き飛ばし彼女は走る)
私は走る
(彼女に行き先は無い。ただただ闇雲に走り続ける)
私は階段を登る。屋上へ通じる扉を押し開け、さんさんと日の注ぐコンクリートの床へ寝そべった。急激な眠気に襲われる。
(そして彼女は闇に意識を委ねた。物語のバトンは僕に受け渡される)