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ベネット遠征伝~女を汚す奴は、許さねぇ!~  作者: 神羅神楽
第二章 ソーネチカ~コリンズ女史の優雅な七日間~
8/42

コリンズ女史(彼氏いない歴7年)のロマンス

RTをした人の小説を読むハッシュタグ効果怖すぎ……。でも創作仲間が一気に増えて嬉しいです。読むものにも困らなくなりすぎるほど困らなくなったし。順番に読んで感想書きますんでお待ちください。うちの小説も可愛がってやってください。


あ、ツイッターの話です。使ってない人はごめんなさい。

 お見合い初日。


 コリンズ女史は恋をしばらくしていなかった。

 高校の時に少しお付き合いをしていたが、相手が浮気をしたため、1年で別れた。

 余計なことを言えば、処女である。


 ギルドパクト邸に招き入れられた五人。ベネットは優雅な立ち振る舞いで館に入った。

 だだっ広い応接間に通され、高級品のアンティークに囲まれて、女史はロージャと向かい合わせでソファに座った。

 やばい、すごく緊張する。

 コリンズ女史の心臓は高鳴っていた。

 曇りのないまっすぐな目、目立ちすぎず均衡のとれた鼻、手入れの行き届いた、少し長めな茶髪。アダムの中でも、類まれなる美男子だ。にっこりと微笑みかける表情は眩し過ぎる。

「ソーネチカさん、楽にしてください」

 柔らかいトーンの声で、優しくロージャは語りかける。

「は、はい」

 従者たちは場をなごまそうと、笑い声をあげた。

 男爵が身分の下の娘を娶ることは、それほど珍しいことでもない。当然、逆は決してないのだが。イヴは皆美しい容姿をしているため、男爵のような高位の貴族の嫁ぎ争いはし烈だ。女の闘いということもあり、悪いゴシップを広めたり、家柄の悪口を吹聴したりして、こきおろすことなど茶飯事であった。

 しかしジョーカーズによるイヴ乱獲により、難を逃れたソーネチカは、ジョーカーズの呪いにはかかってはしまったが、競争相手がいなくなってしまったこともあるし、ロージャのお気に入りであったため、見合いの機会を設けることができた。

 コリンズ女史は、なるべく手を震わせないように紅茶のティーカップに口をつけ、男爵との談話を愉しんだ。コリンズ女史は教養がもともとあったので、文学、神学、史学、音楽、絵画、政治、歌劇など、全ての貴族の話題にオールマイティーに対応した。

 だが緊張をしていて、ぎこちないため、

「ちょっとトイレへ」

 と場を離れたダーシーが戻ってきて、こっそり気づかれぬよう女史の首筋を羽根でくすぐり、冗談の場面で自然に笑えるようアシストした。彼は部屋の外で、《フライング》の異能を発動させ、羽根を抜きとったのである。

 そんなこんなで、女史の一日目の見合いは終わった。

 タランティーノ家に着くやいなや、コリンズ女史はソファーに倒れ掛かった。

「お疲れさまでした」

「ありがとうソーニャ。紅茶はもう飲みたくないから水を持って来てくださらない?」

「かしこまりました」

 ソーニャは台所に行って、グラスに水を注いで女史に渡した。

「お前って、可愛く笑うんだな」

「なっ……うるさいわね! あれはダーシーの羽根がくすぐったかっただけよ!」

 ベネットの冗談に、コリンズ女史は頬を赤く染めた。エリザベスはそれが面白くなかったらしく、ベネットのわき腹をつねった。

「とりあえず初日は無事に終わったようだーね。しかし女史にあそこまで教養があったとはーね」

「あなたには負けるわよウィッカム。うちは家庭教師がついてたから」

 コリンズの出身国では裕福な家庭は子供に家庭教師をつけるのが当たり前で、大学に行けるのはごく一部だった。近代日本のような社会である。

「本当にご苦労さまでございました。どうぞ服を着替えて、ベッドに横におなりになってください」

 ポルフィーリィがねぎらう。コリンズ女史は好意的に受け取り、ソーニャが戻ってくると水を飲み、二人で寝室へ向かって、着替えを手伝ってもらい、ベッドに横になった。

「それにしても、まさかこの私がコルセットをつける日が来るなんてね……」

 昼間だというのに、女史はそのまま眠りについた。


 二日目はロージャと街を歩いた。公園のベンチでのんびりと日向ぼっこをし、談笑した。二人っきりになるのは心細かったが、なんとかうまくいった。


 だが問題は三日目だった。タランティーノ家に、ロージャが来るのだが、父である退役したマルメラードフ・ギルドパクトがやってくるのである。彼は非常に気難しく、嫌味や皮肉を好む紳士で、ポルフィーリィは頭を少し痛めていた。

 車に乗ってやってきたのは、ロージャと、父親のマルメラードフの二人きりであった。

「お初にお目にかかります、マルメラードフ様。こちらは当家の当主、ソーネチカ・タランティーノ様でございます。この度はこのような縁組をよこしていだだき、誠に感謝しております」

「ふむ。没落貴族の割には、いい暮らしをしているそうじゃないか」

 いえいえ、と謙遜するポルフィーリィ。しかし、女史は少しムッとした。自分のことではないのにも関わらず。

 それから屋敷を案内して、マルメラードフは屋敷の庭園の景観をほめたたえた。好印象を少しでも持たれたことが、ポルフィーリィにとっては非常に救いであった。

 そして応接間に戻ると、マルメラードフはソーニャの淹れた紅茶に口をつけ、しかめっ面をした。

「なんだこのマズイ茶葉は。ここのメイドの賃金はいくらだ?」

「父上、出過ぎた真似はおよしください」

「黙れロージャ、私は好奇心から聞いているのだ」

 ポルフィーリィはどんな悪口を言われてもこびへつらっていた。が、

「月50マクスでございます」

 ソーニャは鋭い目つきで冷たく答えた。

「これソーニャ! 申し訳ございません、教育する者が私以外なくて」

「ふん。つくづく低俗な家庭なのだな。だいたいイヴを従者にするなど、非常に遅れている。ジョーカーズの暗躍で、時代は元にもどった。男尊女卑が当たり前なのだよ、ポルフィーリィ君。私たちアダムがイヴに威厳を示していかねばなるまい。なに、イヴなどというのは、不死身ゆえに、産む機械にすぎぬのだからな」

 その言葉にブチ切れたコリンズ女史は、バン! と机をたたいて立ち上がろうとした。

 が。

 その手をロージャが抑えていたのだ。

 初めてロージャに触れられたことに対し、コリンズは怒りから羞恥に変わった。

「父上、その話は館でゆっくりお聞きいたします。ですが、どうかソーネチカ様の悪口だけはおっしゃらないでください。この方は、決して私は譲りたくないのです」

 部屋に沈黙が流れる。

 マルメラードフはバツが悪そうな顔をして、

「ふん、勝手にしろ。不愉快だ。帰るぞ」

 二人はその場を後にした。


 その夜、タランティーノ家では、皆やけ酒を飲んでいた。

 一番荒れていたのは、ポルフィーリィだった。

「なんじゃあのクソジジィは! 金にものを言わせて娼婦をたらしこめるのが趣味だと聞いておるぞ。ふん、あんなものは、着飾ることばかりを覚えたはんちくだぞ!」

「セバスチャン、お酒が過ぎますよ」

「いいのだソーニャ、お前もよく言ってくれた! はっきりと、『50マクス』とな。わしはお前のその答えを期待していたのだ! そうだ、言い値でお前の賃金を上げてやろう。高すぎるのは勘弁だが、いくらがいい?」

「賃金を決めるのは当主であるソーネチカ様でしょう? もういいですから、お酒はその辺にして、お休みになってください、セバスチャン」

 あーはっはとポルフィーリィは高笑いして、馬のように酒を飲んだ。女史も、

「信じられない、あれが親子? よくあんなセクハラ親父から、ダイヤの原石がお生まれになったものね! ああ……本当にかっこよかった、ロージャ様」

「女史も飲み過ぎですよ。食事を楽しみましょうよ」

 ダーシーが宥め役になっている。ダーシーは飲まない。何故なら彼はめっぽう酒に弱く、それでいて酒癖が悪いので、最近は飲まないよう心がけているからだ。

「エリザベス氏よ、あなたも疲れたであろーう?」

「いえ、こういう生活も、結構楽しいです」

 メイド服のエリザベスは、無垢にほほ笑んだ。


 ベネットはというと、テラスに出て、星空を眺めながらひとり煙草を吸っていた。

「……ったくよ、皆浮かれやがって。女史の命守れるかどうか本気で悩んでんのが、馬鹿らしいじゃねぇか」

 白煙を吐き出し、柵に肘をつく。

「ベネットさんにも、そういう一面あるんですね!」

 執事服のベネットが振り返ると、エリザベスの姿があった。

「お前、宴会場はもういいのか」

 くすり、と笑って、ベネットのところまで着て、腰に腕を回す。

「あんな感じですけど、皆、コリンズさんのことを第一に考えてますよ。実際、わたしがそうですから」

 ベネットは短くなった煙草をテラスの下に投げ捨て、

「おめーが言っても説得力ねーんだよ」

 そう言って、二本目に手をつけようとしたが、またてんかんで手が震え、なかなか火を点けられなかったので、エリザベスが点けてやった。

「もう、ベネットさんは自覚すべきです。本当はわたしがいないと、駄目だってことに」

 へっ、とベネットは笑い飛ばし、

「今日も添い寝するかエリザベス」

「ええ。覚悟してください? 誘惑して抱く気分になるようさせますから」

「お前は娼婦か」

 二人はくっつきあって、星空をいつまでも眺めていた。


 そうして見合い四日目。またギルドパクト邸で、二人はチェスをしていた。

「すごくお強いですね。ソーネチカ様には負けたことがなかったのに、いつそんなに腕を上げたんですか?」

 コリンズ女史は冷や汗をかいた。どう弁解しよう。

「ソーネチカ様」

「は、はい?」

「後でテラスでお話しませんか。二人っきりになるよう、従者に言いつけておきますので。父も今頃は散歩に出かけていらっしゃるでしょうし」

「え、ええ。お言葉に甘えて」


 ギルドパクト邸は丘の上に立っていて、三階の窓からはマゼンダ公国の街並みが一望できる。

 ロージャが何を話し出すのか、コリンズ女史はもじもじしていたが──。


「あなた、ソーネチカ様じゃないでしょう」


 女史は奈落の底に突き落とされた気になった。

 どうしよう。

 計画が全部パーだ。

 どこで粗相を犯した?

 でも……私のせいだ……。

 ポルフィーリィさんたちに何て言えば……。


 しかし、ロージャはほほ笑んで、

「大丈夫、見合いを断ったりもしませんし、あなたの秘密も厳守いたしますよ」

 え……?

「私は、ソーネチカ様のことを大切に想ってるんです。他のどんな麗しい令嬢よりも。だからソーネチカ様が本物かそうでないかを見分けるなど、容易いことです」

 そう言って、ロージャはソーネチカの話を始めた。


 ソーネチカ様とは、実は、私が幼少期、こっそり何度か会っていた仲なんです。私が家庭教師のスパルタ教育に嫌気がさして家出したとき、あれは雨の日でしたね。ぬれねずみで疲れ果て、路傍で座っていると、まだ幼いソーネチカ様が傘の中に入れてくださったのです。そこでソーネチカ様といろいろ語り明かし、私たちはそれ以来こっそり逢引を繰り返しておりました。もっとも、逢引といっても、木登りをしたり、川で竹の葉で船を作って流したり、草笛を吹いたり、釣りをしたり、木の実を一緒に食べたり……当時の貴族なら絶対にしないことを、たくさんしました。しかし高等学校に入学させられてから、会うことはなくなりましたが、わたしはソーネチカ様のことはきちんと覚えていて、恋したっております。


 ロージャはそこまで説明した。そして深呼吸をし、指笛を吹くと、鷹がロージャの腕に乗った。

「実はこれも、ソーネチカ様に仕込まれた芸なんです」

 コリンズ女史はくすりと笑った。

 だが、正直ソーネチカへの敗北感で、打ちひしがれていた。

 彼女もまた、ロージャに恋していたのだから。

「あなたの本当の名は、なんですか?」

 女史は意地悪く笑い、

「コリンズ女史と申します。ちょっと腕っぷしが強くて皆に怖がられている、ね」

 ロージャは大笑いした。

「コリンズさん、いえ、コリンズ女史。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ」

 二人は握手し、屋敷に戻った。


 そうして六日目を経て、最終日、ギルドパクト邸で壮大な舞踏会が開かれた。

 といっても、アダムの相手は貴族ではなく、ほとんどが高級娼婦であった。

 ダーシーたちは整列し、目を光らせていた。

 この日のために、自分たちは今まで堅苦しい執事服やメイド服に袖を通してきたからである。

「ベネット、どいつが怪しいと思う」

「俺はあのおっぱいのでかい金髪のねーちゃんがタイプだな。いてっ」

 エリザベスに思いっきり足を踏まれた。冗談だよ、とベネットは弁解し、コリンズを見守った。

「たぶん、あの禿げ頭の男ではないーか?」

 ウィッカムは後退禿げの小太りな紳士を指差したが、どうも怪しい気配はない。


「お上手ですね、女史」

「その名前はやめてくださいまし」

「ああ、すみません」

 コリンズ女史は軽快なピアノの音に合わせ、くるくると回り、ロージャの手をしっかりつかんでいた。

「ソーネチカ様。次は私が」

「あらやだ。もうあなたの番? では、また後で、ロージャ様」

「はい、ソーネチカ様」

 そう言って彼女が相手にしたのは、背丈の高いこれまた美男子であった。黒いスーツを着た、身持ちのよさそうな紳士だった。

「ちぇ、女史の奴。楽しみやがって」

「ならベネットさん、私たちも踊りましょうよ」

 エリザベスは一回転し、スカートをひらりと舞わせた。

「馬鹿野郎、俺たちは女史を見守る任務があるだろ……って……」


 全員が油断していると。


 コリンズ女史は、相手の男性の突き出した刃物を素手で握り、手から血を流していた。


 会場の紳士や娼婦が気づくと、次々に悲鳴が上がり、ピアノの音は止まった。


「私だって浮かれてばかりいる馬鹿じゃないのよ。あんたたちを倒すために来たのよ、ジョーカーズの紳士さん」


 ぽたぽたと、床にコリンズ女史の血がしたたり落ちるのを、ロージャは唖然とした表情で見つめていた。


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