表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベネット遠征伝~女を汚す奴は、許さねぇ!~  作者: 神羅神楽
第二章 ソーネチカ~コリンズ女史の優雅な七日間~
6/42

眠れる令嬢、ソーネチカ

ソーニャもソーネチカも同じ罪と罰のソーフィア・セミョーノヴナの愛称ですが、別の名前として扱っています。

クローバーズ一行は飛行機でアネモネ国際空港に降り、そこからクルーザーで海峡を渡ってマゼンダ公国の領地に上陸した。彼らは領事館に行き、ポルフィーリィが役人と話をつけ、ダーシーたちの入国を許可してもらった。

 まさにそこは近代の都市で、見るものすべてが珍しかった。旧式のディーゼル車が走り、街灯には人がはしごを使って灯をともし、エプロン姿の婦人がちらほらみかけられた。

「ここはずいぶん、女性が多いんですねぇ……」

「彼女らはああ見えて、かなり高いレベルのギフテッドで、ジョーカーズが逃げ帰るほどですからねぇ……この国の女性は、全部で28名です。ソーネチカお嬢様を含めてね」

 ダーシーの問いに、ポルフィーリィがどこか申し訳なさそうな口調で返す。

「あなた方の事業は聞いております。男爵に事情を話せば、国王にかけあって、国民中のイヴにあなたのシェルターに入れてもらうようお触れ書きを出すことも可能です」

「それは、話が早いですなぁ」

 ダーシーは胸をなでおろすように安堵した。

 コリンズ女史はローブを纏って顔を隠し、自分がソーネチカと勘違いされないようにしていた。ウィッカムは、ビングリーの作った玩具を見せつけて子供たちを集めながら歩いていて、エリザベスはベネットの腕にしがみつき、ベネットは堂々と歩きたばこを愉しんでいる。

 ポルフィーリィは馬車を二台手配し、片方にダーシー、コリンズ女史、ポルフィーリィ、もう片方にベネット、エリザベス、ウィッカムを乗せて走らせた。やがて高級邸宅地にさしかかり、ここではいろんな財閥や政界人、そして貴族の豪邸や別荘が立ち並んでいる。

「着きました。ここが私の仕えるタランティーノ家の邸宅でございます」

 大きな黒い鉄門が聳え立ち、その向こうには広大な敷地が広がっており、向こうに豪勢なレンガ造りの館が立っている。

 ポルフィーリィに招き入れられ、中に入る五人。ゆったりとした広いラウンジには、暖炉とソファーがあり、高級そうな瀬戸物、金や銀の置物、獅子のはく製、それから勲章や額縁に入った賞状などが飾られている。五人はソファーに向かい合って座った。

 ここに座るようポルフィーリィが促し、呼び鈴を鳴らした。すると、一人だけ、美しいメイドが奥の部屋からやってきた。

「ソーニャ、お茶を用意してあげなさい」

「はい」

 ソーニャと呼ばれたメイドは暖炉の脇に置かれたティーポットに、水筒の水を入れると、パチンと指を鳴らし、ごぼごぼと沸騰させたかのような音を鳴らした。盆に人数分のティーカップを棚から載せ、そっとテーブルに乗せると、あろうことかポットから紅茶が出て来た。

「すごい! どうやったんですか?」

 エリザベスが拍手した。

「彼女もギフテッドなのですよ。《アトム》という、粒子を自在に操る異能です。茶葉はこのポットにあらかじめ入っており、分子を高速で振動させるよう操り、沸騰させたのです」

 おそるおそるダーシーが紅茶に口をつけると、

「おいしい……」

 するとメイドのソーニャは、

「これでも、あまり上等な茶葉ではないのですが……あ、もうしわけありません、お気を悪くさせるようなことを言って」

 ソーニャはぺこぺこ謝る。ダーシーはほほ笑んで手を振って、いいですよ、と謙遜する。

「しばらくここでくつろいでいてください。ソーニャ、こちらのコリンズさんという方を、更衣室にお連れなさい」

「はい、セバスチャン」

 女史はわけのわからぬまま、ソーニャに外に連れていかれた。

「これで今日からコリンズさんにはソーネチカお嬢様になっていただきます。では、私はお嬢様のところへ行って、結界の確認に行ってから、また戻ってまいります」

「待ってください、あなたも《プリズン》のギフテッドなのですか?」

 こほんとポルフィーリィは咳ばらいをし、

「そうです。今の私の能力値は第二形態(LEVEL2)です。強固な結界を長時間張ることが可能です」

「えっ、《プリズン》は、ヨシキチさんの能力じゃなかったんですか? どうしてポルフィーリィさんも同じ異能を?」

「エリザベス氏よ、ギフテッドには同じ系統の異能持ちがいるのであーる。ただ、同じ名前でも、能力値がなかったり、能力の特性が異なったりすることがあるのであーる」

 ウィッカムが紅茶に遠慮なく5個角砂糖を淹れてまぜまぜしながら答える。

「だけどよ、ソーネチカを元に戻すにはどうすりゃいいんだ? ま、どうせまたジョーカーズの仕業で、そいつを倒せば元通りになるんだろうがな」

 ベネットは煙草に火をつけようとしているのだが、腕が痙攣してなかなかライターで火をつけられない。エリザベスはそれを見て、ライターを取って火をつけてあげた。このやりとりは彼らの間でよく交わされている。


 しばらくして、ポルフィーリィが戻って来た。

「結界は問題ありませんでした。お嬢様のところへご案内いたします」

 ドアを開けると、非常に長い渡り廊下が続いていた。外は薔薇がたくさん咲いている美しい庭園が広がっていた。プールもあった。水がよどみ、緑がかっていて、枯葉がたくさん浮かんでいたが。こうしてみると、没落貴族の悲壮感を感じさせられ、しんみりとなる。

 廊下を渡り切ると、非常に規模の大きい洋間が広がっており、そこの寝室の鍵をポルフィーリィは開け、中に迎え入れた。

 白い枠のキューブのような結界の中のベッドに、コリンズ女史とうり二つの、長い金髪の美女が眠っていた。青白い顔をしていて、生命力が感じられない。

「おいたわしや、ずっとこのままなのです。ソーネチカ様は《ドレイン》の異能をお持ちのギフテッド。ですから微量の生命源を窓の外の木々から吸い取られ、生きながらえていらっしゃるのですが、実質植物人間となられているのです……」

 四人はじっとソーネチカを見た。

「可哀そうなソーネチカさん……ベネットさん、なんとかしてあげましょうよ」

「っつってもなぁエリザベス、そうのこのこジョーカーズが現れるとも限らねえし」

「のこのこ現れなくて悪かったわね」

「「!?」」

 全員が体をびくりと震わせ、背後を振り返ると。


 イライザ・サクラダファミリアの登場だ。これで二度目になる。


「てめえ、また死にに来たのか」

「笑わせないで? 前回無様に私から逃げたのは誰だったかしら」

 ベネットは激昂し、レザーコートを脱ごうとしたが、

「おやめください! 闘うなら外にしてください!」

 とポルフィーリィ。しかしイライザは鼻で笑って、

「今回は宣戦布告じゃないわ。あなたたちにスリルを味わせてあげようと思ってね」

「あ?」

 敵意をむき出しにした声を出すベネット。ぴくぴく体を痙攣させながら。

「ひとつだけ知らせておきたいことがあってね。コリンズとかいう浮かれきっている馬鹿女が、ソーネチカ嬢に化けてロージャ・ギルドパクト男爵とお見合いを七日間にわたってするようね。私たちの部下が集めた情報によると、その七日目にはギルドパクト邸で舞踏会をするみたいなのね。そこで」

 イライザは手に持っていた扇子を広げて口元を隠し、

「私の刺客をひとり、舞踏会に混ぜ、コリンズを殺すように命じてあるの」

「なんだと?」

 あははははとイライザは高笑いし、

「どうする? コリンズにこのことを伝えたほうがいいかしら。でも彼女はお嬢様を演ずるのに専念したいみたいだから、やめといた方がいいかもね。じゃ、私はこれで帰ります。ソーネチカお嬢様にごきげんよう」

 閉じた日傘を杖代わりにしながら、優雅に去っていくイライザ。後を追おうとするベネットの肩を、ダーシーが掴んで制止する。

「今はタランティーノ家にとって大事な時期だ。問題を起こすのはよそう。イライザの話が本当だとしたとしても、女史には黙っておこう。それがいいですよね、ポルフィーリィさん」

「誠に申し訳ないことだと思っております……。どうか、その通りにしてくだされば、当家はきっと救われるに違いありません」

「じゃあ、女史を見殺しにしようってのか!」

 ベネットは激しく怒鳴りつけた。

「おちつくのだベネット氏。なーに。我々だけがその事実を知っておればいいだけのこと。我々が舞踏会のときに女史の傍にいて、いつでも刺客を討てるようにすればいいではないーか」

「でも、どうやって……」

 エリザベスが口元に手を当てて困り顔をする。

「お願いがあります」

 ポルフィーリィが口火を切った。

 彼は少し、ためらってから、

「どうかみなさんには、臨時のメイドと執事として、コリンズさんに仕えて、常におそばにいていただきたい」

 四人は顔を見合わせた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ