ベネットの本気
剣はベネットを貫通し、ベネットは倒れた。
「こんの……クソ野郎……」
ベネットを攻撃したのはダーシーではない。
スパイサーの幻覚であった。
スパイサーは元の姿に戻り、
「大天使を侮るからこうなるのだ」
まだ剣は突き刺さったまま。ベネットは地を這っている。血の海が地面にどんどん広がっている。
「ベネット!」
本物のダーシーが駆け寄ってきた。
「降りろ。降参しろ。お前マジでヤバイ……」
「……外野は黙ってろってんだよ!」
ベネットは腕を立てて起き上がろうとする。しかし力尽きて倒れる。
「過ちを認めれば貴様らを地上に帰しても構わぬ」
スパイサーの高笑いが聞こえる。
その刹那。
ベネットの中に再び怒りの炎が燃え上がる。
「これだけ言っておく。剣抜いたら、てめえ死ぬからな」
「フハハハハ、何をおっしゃっているのか意味がわからぬな。遠慮なく抜かせてもらう……」
「《ポインター》」
「《LEVEL 3》」
「!?」
スパイサーは剣を抜いた。
すると。
剣にはいくつもの矢印が絡みついており。
それが一気に、爆発した。
スパイサーは、爆風で庭園の外まで遠く飛ばされてしまった。一瞬しか見えなかったが、顔は黒こげだった。
細くおびただしい数の血管のような矢印は、ベネットの傷口を塞いでいった。
「……今のはどういうことだ、ベネット」
ベネットはおもむろに立ち上がり、
「俺のLEVEL3のポインターは、危機を察知すると爆発を起こす。利点は二つ。まず攻撃の反応速度が速い。人間は普通脊椎から大脳を通って感覚を察知する。これは反応という奴だ。しかし俺のこの異能は脊椎を通った途端感覚を察知し、勝手に攻撃を繰り出す。反射という奴だな。もう一つの利点は、どんなに傷を負っても修復できる点だ」
「お前という奴は……4段階目もあるのか……?」
「それは今は内緒にしておこう」
そんなやりとりをしていると、スパイサーが庭園の縁に手をかけ、捕まって登って来た。
「貴様……この大天使を敵に回すということがどういうことか分っているのか……?」
「さぁな。馬鹿だから分からねぇ。《ポインター》」
ベネットの矢印はスパイサーの指を切断し、おまけに羽根もズタズタにした。
「があああああああっ!!」
スパイサーはどこまでもどこまでも奈落の底へ落ちて行った。
「おのれベネット……うぬぼれるな、次は私が相手だ……」
キャルドンはマントを広げ、ベネットの眼前まで近づき、にらみ合った。
かと思えば、にやつき始め、
「教えてやろう、ベネット」
「私は、強いんだよ?」
ベネットは、このときふと、愛するエリザベスのことを想っていた。




