眠らない月
いろいろマンネリ化してきたなぁ……と、思う。
桃介は、意識を取り戻して、仰向けに倒れている状態から起き上がった。
「ん……なんだ、ここ?」
そこは白い大理石の円盤の上で、円盤と円盤の間にいくつも橋がかかっている、空中庭園のようだった。
そして彼の前に、一人の美しい女性が座っていた。彼女は羽衣を着て、天使のようだった。桃介は一気に緊張した。
「あ、あ、あなたは?」
女性は手を羽衣の袖で覆い、
「みなさんを招集した、サイフォスという者です。第七天使です」
次々に小夜や竜一、そしてイジワール紳士も起き上がる。
「なんだ、ここは?」
イジワール紳士はぽつりとつぶやく。
「助けて欲しいのです」
サイフォスが言った。
「詳しい説明は省きますが、神の御計画に必要な、『オリジン・イヴの剣』が、ジョーカーズという悪の組織に狙われているのです」
「ほーう」
イジワール紳士はあくどい笑みを浮かべて聞く。
「どうかその剣の封印を解き、それを『エリザベス』という女性に渡していただきたい。私の要求は、それだけです」
「報酬は幾らだ」
イジワール紳士がすかさず口に出す。
「あなたの望みのものを何でも差し上げましょう」
小夜はその言葉を受け、
「そんなことより、私たちを元の世界に帰してよ!」
サイフォスはほほ笑み、
「ええ、剣の封印を解いたら帰してあげましょう。それではみなさんを遺跡へとご案内します」
サイフォスは手を掲げた。
すると上空に巨大なワープホールができて、桃介たちはそこへ呑み込まれた。
「「わあああああ!!」」
気が付くと、みんなは砂漠に転がっていた。
「うぇっぷ! 口に砂が入りやがった!」
桃介がぺっぺっと砂を吐き出した。
そこは青空と地平線、そして砂以外、何もない、太陽の照りつける砂漠。
水も何もない。
「こりゃあ……大変なことになりそうだねぇ……」
竜一は呟く。
「遺跡なんてどこにあるのよ! つか、大体アンタ誰よ!?」
小夜がイジワール紳士の方を指差す。
「うるせえガキ共だ。俺様はイジワール紳士。世紀の大怪盗さ。それ以上の質問は受け付けねぇ」
イジワール紳士はごく簡単に自己紹介した。
桃介たちも自己紹介した。
「で、遺跡なんてどこにあるのよ」
「さぁな、どっかに埋まってんじゃねぇか?」
桃介はぼんやりと呟く。
「まぁ……手分けして探すしかないようだねぇ……」
そうして照り付ける太陽の下、四人はひたすら砂漠を探索した。
が、微塵も見つけられず、どんどん陽が沈んでいった。
「うぇ~ん!! おうち帰りたい! ママのごはんが食べたいよぉ! 喉渇いたよぉ!」
小夜は大声で泣き出した。
「確かにこのままじゃ、野垂れ死にだな」
「そんなんやだよ! 星空愛花ちゃんのDVDまだ全巻揃えてねぇのに!」
桃介も半泣き状態。
そして、夜を迎え、みんなは砂の上で眠り始めた。
ただ一人、イジワール紳士は目を覚ましていた。
「やはり夜の砂漠は寒いな……」
そして砂漠の砂をひとつまみした。
「やけにガラス質が多いな……」
不思議に思っていると。
「!?」
月明かりを反射して、硝子でできた巨大な建物が聳え立っているのが見えた。
「嘘だろ……」
これが、オリジン・イヴの邸宅『眠らない月』であることを、彼らは知らない。




