喋る絵
もうベネットも今月で終わるだろうなぁ……。
木林じいさんは、桃介たちを迎え入れた。
桃介たちは、靴を揃えて玄関を上がった。
木林じいさんの家は、かなり広い木造建築だった。
桃介たちは縁側を通って、書斎まで通された。
縁側の脇では、池で鯉が泳いでいた。
「これなんじゃがの」
老年80、老人ホームに妻を預けたつるっぱげの木林じいさんは、得意満面にある絵を見せた。
「なんだこれ、ただの絵じゃねぇか」
桃介がそう毒づく。
そこには一人の美しい女性が描かれていた。蒼い艶のある髪で、目がぱっちりしていて、美人だ。
「ところがどっこい、おい、オリジン・イヴちゃん」
木林じいさんが突然誰かわからない人物に話しかけると、
「ちゃんづけはやめなさい、キバヤシ」
なんと、絵が喋ったのだ。
「「ええええええ!?」」
桃介と小夜は驚いた。
「これな、海外旅行していたときにオークションで落としたんじゃよ。初めは何もしゃべらないただの絵だとずっと思ってたんじゃが、家に持ち帰って一人で酒を飲みながら眺めていたとき、話しかけてきたんじゃ。まぁ、家内がおらんからの、わしは。寂しさがまぎれるんじゃ」
木林じいさんは額縁をやさしく撫でた。
「あの……オリジン・イヴさん、おっぱいは何カップですか? うぐっ」
スケベな桃介が尋ねると、小夜がエルボーを喰らわせる。
「本当に、不思議だよねぇ。ねぇじいさん、彼女とはどんな話をしたの?」
竜一が尋ねる。
「誘われたんじゃ。何度も、ユークリッド大陸という所に来ないか、と」
「ユークリッド大陸?」
「見ぃつけた」
突然縁側の方から声がした。
「誰じゃ!?」
木林じいさんが声を張り上げる。
すると書斎の戸が開いて、
「世紀の大怪盗、イジワール紳士様の御出ましだ」
サングラスをかけた、蝶ネクタイの目立つ、黒いシルクハットを被ったタキシード姿の長身男、イジワール紳士が立っていた。
「あんた……誰よ!?」
「だからイジワール紳士様だって言ってるじゃないか。その絵を頂戴にきた」
すると木林じいさんは顔を顰めて、
「やらん! 絶対にやらん! これはわしの大事な友達なんじゃ!」
「はぁ……? 呆けてんのかじいさん」
「呆けてねぇよ! じいさんはこの絵が喋るって言うんだ!」
「こら、桃介……!」
小夜がたしなめる。
「ほう、ますます欲しくなったねぇ。ではいただくとしよう。どこからでもワイヤー!」
イジワール紳士は指先からワイヤーを飛ばし、その絵を絡めとって、ワイヤーを収縮させて奪い取った。
「こいつはいただくぜ」
「待て! イジワール!」
野太い声がまた外から聞こえた。
今度は大柄なコートを着た中年の外国人男性が現れた。
「お前ら、人の家出は靴を脱げと教わらんかったのか?」
「す、すまない。ニホンの風習ではそうでしたな。私はICPOのボルボと申します。私が来たからにはもう安心、今すぐイジワールを確保いたします!」
「ICPOってなんだ竜一?」
「まぁざっくり言えば、国際警察だよ」
すると、絵が突然強く発光した。
「──モモスケ、リュウイチ、サヨ、そしてイジワール。私の聖剣が狙われています……助けてください……」
「……絵が喋った!?」
イジワールは動転した。
そして絵はぴかりと光り、みんな目を瞑った。
残されたのは、木林じいさんとボルボ警部。
「あれ……?」
しりもちをついているボルボ警部。
「……とりあえず、お茶でもいただきませぬか?」
「……は、はい、お構いなく」
絵はもう、喋ることはなかった──。




