叛逆のベネット
ベネットで貴重な感想・意見をいただきました。厳しい意見でメンタルに結構きましたが、たまにはこういう意見をもらえると励みになります。ありがとうございました。
そこは白いタイルで敷き詰められた部屋で、拘束具のついた椅子が中央にぽつりと置いてあった。大きな窓があり、その向こうには椅子が並んでいる。
一目でわかった。ここは処刑場なのだ。
「ジャーリジャリジャリジャリ! いい度胸だ! 鍵はあたしのネックレスに繋がれている。あたしを倒して、奪い取ってごらん。まぁ、首輪を掴む前にあたしの《ホーンデッド》でお前は終わりだろうがなぁ! ジャーリジャリジャリジャリ! 来いベネット!」
ファイティングポーズをとるトロイメライ。だがベネットは動じない。
「……なんだぁ? 来ねぇのか? ならあたしから行くぜ!」
瞬間移動し、ベネットの眼前に来る。
「《ホーンデッド》!」
ベネットの首を掴もうとするも、ベネットはバク転してよける。黒いオーラを纏ったトロイメライは、黒いオーラを纏ったまま、ベネットに素早く接近し、パンチを食らわす。
それをベネットは、受け止める。
「んぐぐ……ぎぎ……」
ベネットは歯を食いしばり、《ホーンデッド》の恐怖に耐える。
がくがく震えるベネット。
「ジャーリジャリジャリジャリ! ……ほう、あたしの異能に耐える奴はあんたが初めてだよ。だがね……」
手をひねり、捻挫させようとするトロイメライ。ベネットはいっそう苦虫を噛み潰したような表情をする。
「《ポインター》!」
ベネットは壁に矢印を突き刺し、トロイメライごと反対側の壁に飛び移り、トロイメライの頭を壁に叩きつけた。
「ぐはっ……」
苦痛に声を上げるトロイメライ。
「それで勝ったつもりかっ……《ホーンデッ……》」
異能を倍増させようとするトロイメライ。しかしベネットは素早くトロイメライから離れる。
「逃げるんじゃねぇ!」
トロイメライは瞬時にベネットに馬乗りになり、ボコボコに殴った。
「ジャーリジャリジャリジャリ! 怖いだろう、怖いだろう? あたしの《ホーンデッド》は今最大限で……」
このとき、トロイメライは恐怖を垣間見た。
ベネットの目の色が、違う。
(こいつ……あたしを怖がっていない……だと……?)
「ガキ。ツケを払ってもらう時だ」
ベネットの感情──。
長い監獄生活で溜まっていったストレス。
拷問による苦痛と屈辱。
ジョーカーズの腐ったやり口。
彼に今残された感情は──。
──【怒り】
「《ポインター LEVEL2》」
トロイメライは思わず上を見上げた。
空間にいくつもの切れ目が現れる。
「なんだ……なんだってんだよぉ……!?」
「てめぇの異能は、触れなきゃ発動しねぇ」
ベネットはトロイメライに蹴りを食らわせ、間合いを取った。
「なら、触れないで攻撃するまでだ」
切れ目からいくつもの黒い矢印が顔を出し──。
あらゆる方向から、トロイメライの体へ突き刺さり、彼女の体を切断した。
「か……はっ……」
トロイメライは全身から大量の血を流し、倒れた。切断面からは内臓が飛び出ている。
「てめえと俺の違い、それは能力値の有無。それだけだ。鍵はもらっておくぞ」
ベネットはトロイメライのネックレスから鍵を奪い取り、自分の首輪を外し、部屋を出て行った。
──廊下には、イライザ・サグラダファミリアが腕を組んで壁に背を預けて立っていた。
「……こうなることは、予想できてたんだろ?」
「当然よ。ここで死なれたら面白くない」
「てめえらジョーカーズは何がしてえんだ」
「さぁね。忘れたわ」
それだけ言い残して、イライザはヒールの音を鳴らして廊下を歩いていった。
「出口はあっちよ。帰ってエリザベスに傷を癒してもらうことね」
「おせっかいな悪党さんだ」
ベネットはイライザと反対方向に歩いて行った。
──クローバーズ本社。
みんな、肩を落としていた。
「ベネット……いなくなって何日経つ? 女史」
「そうですね。もう12日かと」
エリザベスはベネットがいない間ずっと泣いていて、カウンセリングルームで泣き疲れて寝ている。その傍にはエルザがいた。
電話が鳴った。すかさずダーシーは受話器を取った。
「──ベネットか。ご苦労さん」
その言葉に、コリンズ女史はダーシーのデスクへ身を乗り出した。
「ふむ。やはりゴキブリのような生命力なのであーる」
ウィッカムは笑い飛ばした。
そしてダーシーはベネットを迎え入れ、ドアを開けた。
女史は急いでエリザベスを起こし、ベネットの前に立たせた。
「……ベネットさんなんか……」
エリザベスは、泣いていて、
「……ベネットさんなんか……ベネットさんなんか……」
「なんなんだよ」
「うわああああああん!!」
エリザベスはベネットに抱き付き、号泣した。
ベネットはエリザベスの頭に手を置き、
「ただいま」
と一言述べた。
彼の右手には、公園で摘んだ四つ葉のクローバーが握られていた。
第七章 完




