ベネットの失態(挿絵あり)
登場人物(一名)の出典は「若きウェルテルの悩み」から。
最近挿絵描きまくってんな俺。
クローバーズ本社。
年末の決算などでダーシーたちはすごく忙しい。
「ああああクッソ仕事がスライムみたいに増殖して終わらねぇえええ!」
「ダーシーさん、お茶です」
「うん、ありがとう」
エリザベスは申し訳なさそうに、
「ごめんなさいね。私、お茶汲みしかできなくて」
ダーシーはパソコンの画面に向きながら、
「じゃ、悪いけど書類のコピー頼める? おい女史、使い方教えてやってくれ」
「わかりましたわ」
女史はエリザベスにコピー機の使い方を教えた。
ベネットはずっと喫煙室に入り浸り、煙草を吸っていた。
ウィッカムは喫煙室に入って来て、
「お前はのんきでいいのであーる」
「まーな。ここんとこジョーカーズも動きねぇしな」
「ベネット」
「なんだ」
「イライザを倒す方策は、考えてあるのか?」
「……毎日考えてるさ。憎い奴だから、イメージトレーニングは毎日やってる。ただ奴のLEVEL3以降の異能が厄介なんだ」
「ほう……私は、お前のLEVEL2すら見たことがないのであーるが」
「そのうち使う日が来るんじゃあねぇかなぁ……」
するとダーシーが喫煙室にズカズカ入って来て、
「おいクソベネット、郵便だ。てめえはいいよなぁ戦闘員はのんきで」
「無駄口が多いんだよ。用件だけ言え」
昔の二人ならここから乱闘が始まったであろう。
ダーシーは。茶封筒をベネットに渡した。
ベネットはペーパーナイフでそれを開け、中身を出した。
「DVDじゃねぇか」
「……何?」
宛名が書かれていない。どうやって送られてきたのだろう。
「ダーシー、再生できる機械ねぇか?」
「なんだよクソ忙しいときに。プロジェクターがあるからそれ使え。カーテンは自分で閉めろ」
「うぇーい」
ベネットはウィッカムにプロジェクターをセットしてもらい、部屋を暗くした。
「なに、なに? 映画でも見んの?」
エルザがはしゃぐ。
「……心当たりあるの? ベネット」
「まぁ、俺を殺してえと思ってる連中は数えきれねぇからな……」
そして映像が再生される。
一人の12歳くらいの、お団子頭にリボンをつけた少女が、椅子に縛り付けられている。アイマスクと猿轡をされ、その光景は衝撃的だった。
更に、そこへまさか、イライザ・サグラダファミリアが現れた。
「「!?」」
『ごきげんようクローバーズ社員の諸君。久しぶりね。いいクリスマスは過ごせたかしら。悪いけれど、人質をとらせてもらったわ。なに、今回の要求はエリザベスじゃなくて、ベネット、あなたよ。あなたと対決がしたいの。だからこの子を救いたければ、今すぐレプリカント自治区のサイバーシティにいらっしゃい。さて、すこし余興を見せてあげるわ』
そう言ってイライザは、釘バットを取り出し、少女の頭をぶんなぐった。
「……!!」
エリザベスは口を手で抑えて心を痛めた。
エリザベスは、何度も少女の体を、容赦なく釘バットで痛めつける。
少女の頭は血だらけになり、イライザは高笑いした。
「うふふ……いいこと? レプリカント地区のサイバーシティ、詳しい場所は封筒に入れてあるわ。それを頼りに行くことね。それじゃあ、せいぜい年末の仕事、頑張ってちょうだいね」
そこでDVDは終わった。
クローバーズ一同は絶句していた。
「……ベネット。どうする」
「行くしかねぇだろ」
そう言って、コートを羽織り、出かけに行く。
「待つのであーる」
ウィッカムが声をかける。
「行くのなら用心することーだ。これは罠かもしれーぬ」
「ベネットさん……」
エリザベスがベネットを見上げる。
ベネットはほほ笑み、エリザベスの頭に手を置き、
「大丈夫だ、必ず帰ってくる」
そう言い残し、一人、出かけていくのであった。
サイバーシティ。
オーリリア帝国のような近未来都市である。
高いビルがそびえ、空気は汚れ、どこかスラム街のような印象を受ける。
空はデジタル広告がホログラムで映っており、車が飛び回っていて、人々の大半は亜人であった。
ベネットは地図を頼りに、廃工場へ辿りついた。
ボイラー室に行くと、ダクトの下に例の少女がロープで縛られていた。
「お兄ちゃん……誰……?」
「名乗るほどのものじゃねぇ。今助けてやる」
ロープを解き、少女に手をかした。
「さあ、早くいくぞ」
「うん、お兄ちゃん。お兄ちゃんの名前はなんていうの?」
「あぁ? ベネットだよ。さっさと行くぞ」
「そう。私はロッテ。ありがと」
そして少女はベネットの腕をつかみ──。
「捕まえたぁ♡」
「!?」
少女はギロリとこちらを鋭い目で睨み、黒いオーラを放った。
このときベネットは、想像を絶する恐怖心で、てんかんの症状が一気に悪化し、ひざががくがくして、崩れおちて四つん這いになり、息をあらげた。
(……なんだこれ? 体が動かねぇ……言葉も口にできねぇ……)
「まんまと騙されたわね、ベネット」
ヒールの足音が聞こえる。間違いない。
イライザ・サグラダファミリアのものだ。
「て……め……はぁ、はぁ……何を……」
「彼女はロッテという少女ではないわ。ジョーカーズ幹部の、トロイメライという少女よ。最年少なのよ」
「そんな……ことは……」
どうでもいい、と言いたかったが、恐怖で口にすることができなかった。
「無様ねぇベネット」
イライザはベネットを足蹴にし、腹部を蹴り飛ばした。
「ぐはっ……」
「ジャーリジャリジャリジャリ! 馬鹿な男だ。あたしに名前まで名乗っちゃってねぇ。あたしはトロイメライ。ギフテッド名は《ホーンデッド》。触れた相手を恐怖で戦意喪失させるのよ、ジャーリジャリジャリジャリ!」
少女は大きい口をめいっぱい広げて笑い、
「イライザ姐さん、この間抜けを陥落させた褒美に、拷問は私に任せてもらっていいでしょうか?」
「構わないわ。自由になさい。さぁベネット。ゲームをしましょう」
「……ゲーム?」
イライザは首輪のようなものをベネットの首につけた。
「二週間、あなたをこの近くのジョーカーズレプリカント支部のアジトに閉じ込める。そこから自力で脱出してみなさい。ただし、二週間後の午前0時、そのリングは爆発し、あなたの首はぶっとぶ。そうねぇ。それを解除する鍵はトロイメライに渡そうかしら。トロイメライ、失くさないでちょうだいね」
「ジャーリジャリジャリジャリ! 子供扱いしないでくださいよぅ」
いや、お前はどこからどう見ても子供だろ。
そうして、長く苦しいベネットの捕虜生活が始まったのであった。




