プレゼントは奪えばいいのであーる(挿絵あり)
すごい短い章でした。オマケみたいなもんですね。つーかクリスマスとか季節外れにもほどがあるなぁ。
「……厄介なことになった」
午後7時前、パーティを終えるとき、ダーシーのパソコンにメールが送られて来た。
『HAHAHA! メリークリスマス、憎っくきクローバーズの諸君! 私はロールキャベツ、ジョーカーズの幹部である! この写真のイヴの命を預かった! 返して欲しくばエリザベスをこちらによこしたまえ! Byロールキャベツ 追伸:寒いです、早くしてください』
赤いレザーコートを着てサングラスをかけ、サングラスをかけ、ピースサインをしているロールキャベツと、窓の向こうに、か弱き美少女がベッドに横になっている写真が送られてきた。
「……赤ベネット」
「なんか言ったか?」
コリンズ女史はため息をつき、
「今年のクリスマスは中止かもね、さて、どういう布陣を敷こうかしら、チェアマン?」
「まぁ、またベネットに任せるか……俺も戦前に出ようか……」
「あたしがやるよ」
エルザは胸を張ってそうはっきり言った。
「エルザ、勝算はあるのか?」
ダーシーが言う。
「ロールキャベツ、覚えてるよ。厄介な奴さ。空間を自由にすり抜ける、《バタフライ》という異能持ち。でも、皆には……」
「皆には、大事なクリスマスを過ごして欲しいから……」
ダーシーとコリンズ女史は顔を見合わせた。
ベネットは退社の準備をして、
「やってみろや。お前ならできそうな気がするぜぇ」
「ベネット……」
ダーシーはため息をついた。そして。
「行ってこい、エルザ。だけど何かあったら必ず俺たちを呼べ。すぐ駆けつける」
「ラジャ!」
エリザベスはエルザの手をとり。
「エルザちゃん、また……私のせいだね。ごめんね」
「そんなこと言わないって約束したでしょ? パパっとやっつけちゃうから、ベネットと楽しんできて!」
エルザは敬礼をし、笑顔でドアを開けに行き、出て行った。
……………………
ドロシーは、クローバーズの事務所からそう遠くない場所に住んでいる。
エルザは夜の街を、自慢の跳躍力で、建物から建物へ飛び移り、駆け抜けていった。
(ウィッカムが帰る前に、終わらせたいな……)
そんなことを胸の裡に思いながら、敵陣へ赴くエルザ。
ドロシーの家。
ドロシーは相変わらず電気をつけて読書をしていた。
窓をこつこつ鳴らす音が聞こえた。
ドロシーは、
「えっ……サンタさん!? こんな時間に!?」
顔色を明るくして窓を開けた。
が。
「HAHAHA! メリークリスマス!」
「……あなたは、サンタさん? 赤い服を着ているよね?」
「HAHAHA! そうだよ。サンタだよ。プレゼントを持ってきた、ほら」
「受け取れぇ!」
あろうことか、窓のサンタ──ロールキャベツは、いたいけな少女を手加減なしに殴った。
「痛……い……なに……するの……?」
「お仕置きのプレゼントさ。君は悪い子だからねぇ」
じりじりと距離を詰めてくるロールキャベツ。ドロシーは腰をぬかして後ずさりして、
「《……ハウス》!」
天井がぐにゃりとひしゃげ、ロールキャベツを潰そうとした。
だが、ロールキャベツは、
「《バタフライ》!」
と、天井をすり抜けて、まるで水中を潜るようにドロシーの家を泳ぎ回った。
「え……やだ……怖い……!」
そして床からロールキャベツが出てきて、ドロシーの足を掴む。
「さーて、二回目のお仕置きは何にしようかなぁ?」
「いやああああ! 助けてぇ!」
「メリー、クリスマス!」
窓から少女の声がした。
「その声は……エルザ!?」
ロールキャベツは声の方を見やった。
エルザが、開け放たれた窓のサッシに座っていた。
「助けに来たよ!」
「あなたは……?」
「本当の、サンタクロースだよ!」
ロールキャベツはぬっと地面から這い上がり、エルザに相対した。
「HAHAHA! 出来損ないの貧乳戦闘員! 久しぶりだな!」
「貧乳は今関係ないだろ! それにあたしはまだ発展途上だ!」
小競り合いを始める二人。困惑するドロシー。
「戯言はいいでしょ!? 始めるよ! 《ワイヤー!》」
エルザはロールキャベツの腕をワイヤーでつかんだ。
「何をする気だ!」
「こうするのさ!」
エルザはロールキャベツを窓の外に放りなげた。場外乱闘をするつもりだ。
エルザも飛び出した。
外。トラックが高速で一台迫ってきている。
「HAHAHA! 自縄自縛とはこの言葉だエルザ!《バタフライ》!」
ロールキャベツは地面に潜り、エルザは地面にワイヤーが埋め込まれ、動くことができない。
「く……くそっ!」
「そのままトラックの餌食になるがいい! HAHAHA!」
エルザに迫るトラック。運転手は人がいることに気づいたのか、ブレーキをかけようとするも、エルザに衝突する。
「きゃあっ!!」
エルザは弾き飛ばされ、転がる。《ワイヤー》を解除するタイミングを見誤った。
ぬっとロールキャベツは地面から出てきて、エルザの顎を掴み、首元にナイフをあてがい、
「言え。エリザベスはどこだ?」
「絶対に言わないね!」
「なら、死ね!」
するとドロシーの自宅から、食器棚が飛んできて、ロールキャベツに激突した。
「痛ってぇ……! 小娘ぇ!!」
ロールキャベツはドロシーの方を睨んだ。そしてドロシーの家に潜りこみ、攻めて行った。
(何か秘策は……そうだ!)
エルザはロールキャベツを追い越すように、素早くドロシーの部屋に入った。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「へーき。ねぇ。お嬢ちゃん。頼みがあるんだけど」
ロールキャベツはナイフを持って、二階のドロシーの部屋に上がった。しかし、誰もいない。
「どこいきやがった……?」
すると床下にドアが浮かび上がった。
「誘ってんのか? まあいい、この下にいるのは確かだ。潜り込んでやる」
ロールキャベツは下の部屋に潜り込んだ。しかしその部屋は、ただの壁だった。
「なんだこれ。コンクリートじゃねぇか! HAHAHA! いったん元の部屋に戻ろう」
そして上のドロシーの部屋に戻る。
と。
「なっ……!?」
そこはワイヤーが部屋中に張り巡らされていて。
「《ワイヤー》!」
エルザはロールキャベツをワイヤーで確保し、部屋のワイヤーに絡めるようにし、身動きを取れなくした。
「くっ……てめえ、何がしたいんだよ!?」
「残念だがあたしの勝ちだ。あたしはドロシーに頼み、家の間取りを変え、下にコンクリートの《はずれ》の部屋にあんたを誘導し、その稼いだ時間で部屋にワイヤーを張り巡らした。そして……」
「《ワイヤー LEVEL2》!!」
「LEVEL2……だと!? お前がジョーカーズにいた頃は……ギャアアアア!!」
ロールキャベツは強力な電流をワイヤー伝いに喰らった。
エルザは部屋中のワイヤーを片付け、ロールキャベツの様子をうかがった。
「お嬢ちゃん。ありがとう。こいつは心臓を電気でやられて死んだ。君のお陰で助かったよ」
「ありがとう!」
ドロシーはエルザに抱き付き、
「怖かった……怖かったよぉ……」
と泣きついた。エルザは彼女の頭に手を置き、なでた。
「君の名前は?」
「ドロシー」
「あたしはエルザ。見てドロシー、外!」
ドロシーは窓の外を見やった。
「わぁ……!」
粉を吹いたような雪が、ぱらぱらと降っている。
落ちて、落ちて、音もなく落ちて。
「おもちゃとかは用意してないけど、あたしは君のサンタだからね! プレゼントをあげるよ! 捕まりな!」
エルザはドロシーを脇に抱え、窓の外に出て行った。
外の住宅街を駆け抜け、都市部のビル群に来た時、エルザは《ワイヤー》で、ビルにワイヤーを飛ばし、スパイダーマンのようにワイヤーを次々にビルに放ち、ビルの間を飛び移り、飛行した。
「すごい! すごい! 風が気持ちいい! 雪が冷たい!」
「あはははは! メリー、クリスマース!!」
エルザはダーシーに連絡し、ドロシーを明日シェルターに連れていくことを連絡した。
そして。
彼女は、エンパイヤタワーの前に走っていた。
時刻は8時55分。
(なんであんな奴のために、あたしは走ってるんだろう……どうせいるわけない奴なのに)
ウィッカムは確かに待つと言ったが、クリスマスパーティーでの一件で、へそを曲げて来ないに決まってる。でも期待している自分がいる。それがとてつもなく、もどかしかった。
そして、息をきらしながら、エンパイヤタワーに辿り着いた。
イヴが減ったため、カップルの姿はほとんど見られないが、スーツを着たサラリーマンが行き来する。失った妻との間の子のために、毎日懸命に働き、今夜は玩具店でプレゼントを買っているのだろう。玩具店もクリスマス商戦で、今日は閉店時間を遅くしている。
「やっぱ……いないか」
エルザは踵を返した。
「エルザ」
その声に振り向くと。
ウィッカムが、花束を持って立っていた。
「嘘……?」
「嘘ではないのであーる。私は有言実行の男であーるからな」
「……あたし、なにもプレゼント用意してないよ?」
「なーに、プレゼントなど、奪えばいいのであーる」
そう言ってウィッカムはエリザベスに歩み寄り。
「え……」
彼女の唇に、自分のそれを、そっと重ねた。
エルザは顔を真赤にした。
ウィッカムはキスをし終え、
「メリークリスマス、エルザ」
エルザは胸がいっぱいになった。
「あんたの唇、ガサガサ」
「なんだーと!? この娘、レストランはお預けであーる! キャンセルするのであーる!」
「なんだとー!? 上等だ! あたしの奢りで居酒屋だよ!」
「よろしい。飲み比べであーる!」
二人は降りしきる雪の中、腕を組んで笑いながら歩いた。
第六章 完




