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ベネット遠征伝~女を汚す奴は、許さねぇ!~  作者: 神羅神楽
第六章 ドロシー~エルザのトキメキ☆クリスマス~
21/42

プレゼントは奪えばいいのであーる(挿絵あり)

すごい短い章でした。オマケみたいなもんですね。つーかクリスマスとか季節外れにもほどがあるなぁ。

「……厄介なことになった」

 午後7時前、パーティを終えるとき、ダーシーのパソコンにメールが送られて来た。

『HAHAHA! メリークリスマス、憎っくきクローバーズの諸君! 私はロールキャベツ、ジョーカーズの幹部である! この写真のイヴの命を預かった! 返して欲しくばエリザベスをこちらによこしたまえ! Byロールキャベツ 追伸:寒いです、早くしてください』

 赤いレザーコートを着てサングラスをかけ、サングラスをかけ、ピースサインをしているロールキャベツと、窓の向こうに、か弱き美少女がベッドに横になっている写真が送られてきた。

「……赤ベネット」

「なんか言ったか?」

 コリンズ女史はため息をつき、

「今年のクリスマスは中止かもね、さて、どういう布陣を敷こうかしら、チェアマン?」

「まぁ、またベネットに任せるか……俺も戦前に出ようか……」


「あたしがやるよ」


 エルザは胸を張ってそうはっきり言った。


「エルザ、勝算はあるのか?」

 ダーシーが言う。

「ロールキャベツ、覚えてるよ。厄介な奴さ。空間を自由にすり抜ける、《バタフライ》という異能持ち。でも、皆には……」


「皆には、大事なクリスマスを過ごして欲しいから……」


 ダーシーとコリンズ女史は顔を見合わせた。

 ベネットは退社の準備をして、

「やってみろや。お前ならできそうな気がするぜぇ」

「ベネット……」

 ダーシーはため息をついた。そして。

「行ってこい、エルザ。だけど何かあったら必ず俺たちを呼べ。すぐ駆けつける」

「ラジャ!」

 エリザベスはエルザの手をとり。

「エルザちゃん、また……私のせいだね。ごめんね」

「そんなこと言わないって約束したでしょ? パパっとやっつけちゃうから、ベネットと楽しんできて!」

 エルザは敬礼をし、笑顔でドアを開けに行き、出て行った。


……………………


 ドロシーは、クローバーズの事務所からそう遠くない場所に住んでいる。

 エルザは夜の街を、自慢の跳躍力で、建物から建物へ飛び移り、駆け抜けていった。

(ウィッカムが帰る前に、終わらせたいな……)

 そんなことを胸の裡に思いながら、敵陣へ赴くエルザ。


 ドロシーの家。

 ドロシーは相変わらず電気をつけて読書をしていた。

 窓をこつこつ鳴らす音が聞こえた。

 ドロシーは、

「えっ……サンタさん!? こんな時間に!?」

 顔色を明るくして窓を開けた。

 が。


「HAHAHA! メリークリスマス!」

「……あなたは、サンタさん? 赤い服を着ているよね?」

「HAHAHA! そうだよ。サンタだよ。プレゼントを持ってきた、ほら」


「受け取れぇ!」


 あろうことか、窓のサンタ──ロールキャベツは、いたいけな少女を手加減なしに殴った。


「痛……い……なに……するの……?」

「お仕置きのプレゼントさ。君は悪い子だからねぇ」


 じりじりと距離を詰めてくるロールキャベツ。ドロシーは腰をぬかして後ずさりして、


「《……ハウス》!」


 天井がぐにゃりとひしゃげ、ロールキャベツを潰そうとした。

 だが、ロールキャベツは、

「《バタフライ》!」

 と、天井をすり抜けて、まるで水中を潜るようにドロシーの家を泳ぎ回った。

「え……やだ……怖い……!」

 そして床からロールキャベツが出てきて、ドロシーの足を掴む。

「さーて、二回目のお仕置きは何にしようかなぁ?」

「いやああああ! 助けてぇ!」




「メリー、クリスマス!」




 窓から少女の声がした。

「その声は……エルザ!?」

 ロールキャベツは声の方を見やった。

 エルザが、開け放たれた窓のサッシに座っていた。

「助けに来たよ!」

「あなたは……?」

「本当の、サンタクロースだよ!」

 ロールキャベツはぬっと地面から這い上がり、エルザに相対した。

「HAHAHA! 出来損ないの貧乳戦闘員! 久しぶりだな!」

「貧乳は今関係ないだろ! それにあたしはまだ発展途上だ!」

 小競り合いを始める二人。困惑するドロシー。

「戯言はいいでしょ!? 始めるよ! 《ワイヤー!》」

 エルザはロールキャベツの腕をワイヤーでつかんだ。

「何をする気だ!」

「こうするのさ!」

 エルザはロールキャベツを窓の外に放りなげた。場外乱闘をするつもりだ。

 エルザも飛び出した。

 外。トラックが高速で一台迫ってきている。

「HAHAHA! 自縄自縛とはこの言葉だエルザ!《バタフライ》!」

 ロールキャベツは地面に潜り、エルザは地面にワイヤーが埋め込まれ、動くことができない。

「く……くそっ!」

「そのままトラックの餌食になるがいい! HAHAHA!」

 エルザに迫るトラック。運転手は人がいることに気づいたのか、ブレーキをかけようとするも、エルザに衝突する。

「きゃあっ!!」

 エルザは弾き飛ばされ、転がる。《ワイヤー》を解除するタイミングを見誤った。

 ぬっとロールキャベツは地面から出てきて、エルザの顎を掴み、首元にナイフをあてがい、

「言え。エリザベスはどこだ?」

「絶対に言わないね!」

「なら、死ね!」

 するとドロシーの自宅から、食器棚が飛んできて、ロールキャベツに激突した。

「痛ってぇ……! 小娘ぇ!!」

 ロールキャベツはドロシーの方を睨んだ。そしてドロシーの家に潜りこみ、攻めて行った。

(何か秘策は……そうだ!)

 エルザはロールキャベツを追い越すように、素早くドロシーの部屋に入った。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「へーき。ねぇ。お嬢ちゃん。頼みがあるんだけど」




 ロールキャベツはナイフを持って、二階のドロシーの部屋に上がった。しかし、誰もいない。

「どこいきやがった……?」

 すると床下にドアが浮かび上がった。

「誘ってんのか? まあいい、この下にいるのは確かだ。潜り込んでやる」

 ロールキャベツは下の部屋に潜り込んだ。しかしその部屋は、ただの壁だった。

「なんだこれ。コンクリートじゃねぇか! HAHAHA! いったん元の部屋に戻ろう」

 そして上のドロシーの部屋に戻る。

 と。

「なっ……!?」

 そこはワイヤーが部屋中に張り巡らされていて。

「《ワイヤー》!」

 エルザはロールキャベツをワイヤーで確保し、部屋のワイヤーに絡めるようにし、身動きを取れなくした。

「くっ……てめえ、何がしたいんだよ!?」

「残念だがあたしの勝ちだ。あたしはドロシーに頼み、家の間取りを変え、下にコンクリートの《はずれ》の部屋にあんたを誘導し、その稼いだ時間で部屋にワイヤーを張り巡らした。そして……」


「《ワイヤー LEVEL2》!!」

「LEVEL2……だと!? お前がジョーカーズにいた頃は……ギャアアアア!!」

 ロールキャベツは強力な電流をワイヤー伝いに喰らった。

 エルザは部屋中のワイヤーを片付け、ロールキャベツの様子をうかがった。

「お嬢ちゃん。ありがとう。こいつは心臓を電気でやられて死んだ。君のお陰で助かったよ」

「ありがとう!」

 ドロシーはエルザに抱き付き、

「怖かった……怖かったよぉ……」

 と泣きついた。エルザは彼女の頭に手を置き、なでた。

「君の名前は?」

「ドロシー」

「あたしはエルザ。見てドロシー、外!」

 ドロシーは窓の外を見やった。

「わぁ……!」


 粉を吹いたような雪が、ぱらぱらと降っている。

 落ちて、落ちて、音もなく落ちて。

 

「おもちゃとかは用意してないけど、あたしは君のサンタだからね! プレゼントをあげるよ! 捕まりな!」

 エルザはドロシーを脇に抱え、窓の外に出て行った。

 外の住宅街を駆け抜け、都市部のビル群に来た時、エルザは《ワイヤー》で、ビルにワイヤーを飛ばし、スパイダーマンのようにワイヤーを次々にビルに放ち、ビルの間を飛び移り、飛行した。

「すごい! すごい! 風が気持ちいい! 雪が冷たい!」

「あはははは! メリー、クリスマース!!」




 エルザはダーシーに連絡し、ドロシーを明日シェルターに連れていくことを連絡した。

 そして。


 彼女は、エンパイヤタワーの前に走っていた。

 時刻は8時55分。

(なんであんな奴のために、あたしは走ってるんだろう……どうせいるわけない奴なのに)

 ウィッカムは確かに待つと言ったが、クリスマスパーティーでの一件で、へそを曲げて来ないに決まってる。でも期待している自分がいる。それがとてつもなく、もどかしかった。

 そして、息をきらしながら、エンパイヤタワーに辿り着いた。

 イヴが減ったため、カップルの姿はほとんど見られないが、スーツを着たサラリーマンが行き来する。失った妻との間の子のために、毎日懸命に働き、今夜は玩具店でプレゼントを買っているのだろう。玩具店もクリスマス商戦で、今日は閉店時間を遅くしている。

「やっぱ……いないか」

 エルザは踵を返した。


「エルザ」


 その声に振り向くと。

 ウィッカムが、花束を持って立っていた。


「嘘……?」


「嘘ではないのであーる。私は有言実行の男であーるからな」

「……あたし、なにもプレゼント用意してないよ?」

「なーに、プレゼントなど、奪えばいいのであーる」


 そう言ってウィッカムはエリザベスに歩み寄り。


「え……」


 彼女の唇に、自分のそれを、そっと重ねた。



挿絵(By みてみん)

 エルザは顔を真赤にした。


 ウィッカムはキスをし終え、


「メリークリスマス、エルザ」


 エルザは胸がいっぱいになった。


「あんたの唇、ガサガサ」

「なんだーと!? この娘、レストランはお預けであーる! キャンセルするのであーる!」

「なんだとー!? 上等だ! あたしの奢りで居酒屋だよ!」

「よろしい。飲み比べであーる!」


 二人は降りしきる雪の中、腕を組んで笑いながら歩いた。


 第六章 完 


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