ダーシーの母、登場!
今回の登場人物名の出典は「ハリー・ポッター」です。諸事情によりネットカフェから書いてます。
ウィッカムの話によると、エルザとセシルを連れ帰り、二人をシェルターに入れたところ、エルザはシェルターの生活に半日で飽き飽きしたらしい。
「あんな退屈なところ、あたしには無理だね! なんで交代でトイレ掃除とかやんなきゃいけないの? なんで男がいないの? なんであんな豪勢な飯をタダで食わなきゃいけないの!! 働かざるもの食うべからずでしょーが。あたしは一日の糧は泥棒家業で食いつなぎたいんだよ。だからこの色ボケ男にかけあって、それなりにスリルのある仕事を紹介してもらうようここにお世話になったってわけさ」
平らな胸を張るエルザ。
ダーシーは、
「ん……そうか。まあ、一応君も聞いたところによると元ジョーカーズでギフテッドなんだろう……? お茶汲みと言わず戦闘要員として活躍してくれると嬉しいな」
「ホント? いやあ、嬉しいなぁ」
「買いかぶりすぎなのであーる。こいつは私に助けられたか弱きひよこなのであーる」
「むきー! なんだとー!」
「そうではないーか。私の胸の中で泣いたのは誰だったかーな」
「あんたねぇ……!」
ベネットはエリザベスに耳打ちする。
「デキてんのか、こいつら?」
「お似合いですよねー」
コリンズ女史は話題を変えようとして、
「と、とりあえず、ウィッカム。あなたに尋ねたいことがあるの」
「うむ?」
女史はエリザベスのほうを向いて、
「はっきり言うわ。《オリジン・イヴ》って何?」
ウィッカムは笑みを崩して、真剣な顔つきになり、
「うーむ。私も興味深いと思い、インターネットでいろんな国の学者の文献を漁ってみた。だが」
厳しい表情をして、
「エリザベス氏のためを思い、あえて多くは明かさぬことにしよう」
「ハァ!? 何よそれ!?」
「いいじゃないか、女史」
「チェアマン……!」
ウィッカムは舌打ちをし、
「チェアマン、エリザベスを丸腰にしておくのは問題があると思うのであーる。そこで、私のこの特殊な拳銃──もっとも、ビングリーが作ったものに過ぎないが、これを持たせるのはどうだろーか?」
「断る。エリザベスは俺一人で事足りる」
ベネットがエリザベスの前に出る。
「いやベネット。無人島の件もあった。ジョーカーズはエリザベスに焦点を当ててきている。おそらくエリザベスがオリジン・イヴとかいうやつに該当するからだろう。彼女に武器を持たせることは、彼女の護衛をお前にやめさせることと同義ではない」
「俺を舐めてんのか?」
「あん? てめえこそ自信過剰になってんじゃねぇのか?」
張り詰める空気。あたふたするエリザベス。
そう、二人はかつて犬猿の仲でもあった。
そんななか、電話が鳴った。
「出ろや」
「言われなくても」
ダーシーは乱暴に受話器を取った。
「もしもし……え、え? は、はい、すぐそちらに伺います……ご足労ありがとうございました……」
彼は受話器を置いた。
「ベネット、この話はまた今度にしよう。俺は客人を迎えに行ってくる」
「ふん」
ダーシーは駆け足でドアを開けて出て行った。
「やけに焦っているのであーる」
「あいつが頭を下げるやつなんていたかしら」
数分後、ダーシーは戻ってきた。
まだ若々しい、きれいな着物を着た女性を連れて。
「こちらです」
「どうもありがとうね、ダーシー」
女性はお辞儀をし、きちんとした佇まいで事務所に入った。
紫がかった長い髪に、大きくパッチリした目。白い肌に、整った顔立ち。イヴのなかでも、特段美しい女性だった。
「紹介する。俺の母親の、ジニー・カリカチュアだ」
一同は絶句した。
「マジなの?」
「マジです」
「え……年齢は……」
「今年で48……」
「えええええええ!?」
エリザベスは驚いた。
どう見ても、日本人女性で言うなら、20代前半にしか見えない。
「エリザベスちゃん、あなたはあまり教育を受けてないから知らないかもしれないけど、これはそんなに珍しいことじゃないのよ? イヴは個人差はあれど年をとる速度がアダムに比べて遅い上に、一定の年齢になったら一生若い女性のままの姿になるの。それもみんな、美しい容姿に」
「そうであーる。だから女史も100歳のババアになっても麗しい女史のままなのであーる」
「殴ったらいいのか褒めたらいいのか困るコメントはやめなさい」
なんだかすごくややこしい。
「お母様、おかけください。本日はどのようなご用件でしょうか」
ソファにジニーは腰掛けた。そしてエリザベスがさっとお茶を差し出した。
「あら茶柱。縁起がいいわね。まあそれはいいとして、結構厄介なことになったの」
お茶を啜るジニー。
「あなたのおばあ様の、ハーマイオニーおばあ様のことはご存知よね?」
「ええ……空賊になって、飛空艇で大暴れし、各地の財宝を集めているとか……」
「空賊ですって!? あんたの家庭どうなってんのよ!?」
「一応、おばあ様の写真も持ってきました」
ジニーは写真を見せた。一同は密集し、目を丸くした。
金髪のナイスバディの美女が、はちきれんばかりの胸をブラウスのボタンで留め、空賊特有の派手なコートをまとい、勇ましい姿で腕を組んでいる。
「ちなみにハーマイオニーさんの年齢は……」
「78だ」
「えええええ!?」
自分で聞いて驚くエリザベス。
「それで、お母様。おばあ様の問題というのは……」
「おばあ様が、空賊界の最大勢力の、ヴァルキリアと戦争をしたらしいの。そこにジョーカーズが介入し、おばあ様が囚われてしまったらしいのね」
「な、なんですって!? ご無事なのですか、おばあ様は!?」
「分からないわ……ただ、拷問などは受けていないらしいの、そして厄介なことに……」
「ジョーカーズが、エリザベスという少女と引き換えにおばあ様を解放するというの」
このとき、エリザベスは言葉を失い、そして、ある衝動に駆られた。
「ウィッカムさん……例の銃、貸していただけますか?」
「あ、ああ……構わないであーるが」
ウィッカムは地面にCUBEを落とし、銃を出し、エリザベスに渡した。
すると。
「伏せて!」
と叫び、エリザベスは窓ガラスを銃で乱射した。
「キャアアアアア!!」
エルザは絶叫し、ウィッカムはエルザを抱きかかえて伏せた。
そしてエリザベスは穴の開いた窓の前まで立ち、
「ベネットさん、ごめんなさい。変なまねをしたら、この銃でわたしはこめかみを撃ちぬきます」
「何やってやがんだエリザベス! てめえ、気でもふれたのか!?」
「だって……」
「わたしがいると、みんなに迷惑がかかるから……」
そう言って、エリザベスは。
「さよなら……」
倒れるようにして、窓の外に落ちていった。
「《ワイヤー》!!」
エルザの手から放たれたワイヤーが、エリザベスを追いかける。
だがエリザベスの落下速度は増していく。
そして地面に──。
しかし、すんでのところでエルザのワイヤーは彼女を捕らえた。
引きずりあげられたエリザベスに、ウィッカムは、
「馬鹿野郎が!」
と叱りつけた。
「その銃はしばらく俺が預かる。いいか、エリザベス。黙っておこうと思ったが、こんな馬鹿な真似をするんなら話してやる。いいか、オリジン・イヴってのは……」
「イライザを超える史上最強の異能を持つ、俺たちの最後の希望なんだよ」
「最後の……希望……」
いいか、エリザベス。この世界には最初オリジン・アダムとオリジン・イヴという男女がいて、オリジン・イヴは神を騙した。怒った神はイヴに永遠の若さを授けた。一見、イヴが優遇されたかのように思えるよな。だが神は今のこの世界情勢を見抜かれていた。そうだ。アダムとイヴの人口バランスの偏りさ。アダムは次々と死に、イヴだけが生き残る。そうしたら、アダムは危機を感じるのは容易に思い至るだろう。だからジョーカーズのようなイヴを虐殺・性奴隷化するような連中が現れるのは自然なことなんだ。で、話を戻すと、オリジン・アダムとオリジン・イヴは神に愛され、《ギフテッド》ではなく《ヴァルハラ》という《ギフテッド》の比にならない異能を持たされた。だが《ヴァルハラ》の子は、しかるべきときに異能が使えるよう、異能の覚醒速度が《ギフテッド》よりはるかに遅い。
「何がいいてえか分かるな、エリザベス。ギフテッド最強のイライザを倒すのは、オリジン・イヴの血統を引くお前になるかもしれない。だからお前が死ねば、この世界のイヴの希望は絶たれる。つーか、そんなこともどうでもいい」
「エリザベス。お前の《ヴァルハラ》は、人を笑顔にする能力じゃねぇぞ」
「いつもいつもただお前がいるだけで、みんな、幸せになってる。それは《ヴァルハラ》の能力じゃ、ねぇんだぞ」
ウィッカムは笑顔を見せ、拘束を解かれたエリザベスに手を差し伸べた。
エリザベスは、泣かなかった。
しっかりとウィッカムの手を握り、立ち上がった。
「みなさん、ごめんなさい。ガラス代は弁償します……」
「いいよ。エリザベス。お前の命でおつりがくるよ」
「お願いよエリザベスちゃん。私たちがあなたを守るから、絶対守るから!」
「エリザベス、命助けたのあたしだけど、そんなん関係なく、友達になろ!」
「おまえさぁ……もっと頭使って行動しろ。俺の子、産みてえだろ?」
みんな、エリザベスの肩を抱いて励ました。
(こんなにやさしい人たちを悲しませることは……二度としちゃいけない……)
エリザベスは心に固く誓った。
「さあみんな、おばあ様を助けに行くぞ! エリザベス、お前も行くよな?」
「はい! 行きます!」
「安心しろエリザベス。てめーの命は旦那の俺が、命に代えても守るからよ!」
「はい、旦那様!」
「ウィッカム、見直したわよ!」
「私はいつもこんな感じであーるが?」
「よく言うわ、あたしの前だからカッコつけてんだよ」
ウィッカムとエルザはまた喧嘩を始めながら、六人はビルを出て、仕事へ向かった。




