白タキシードを血に染めろ!
早いですが、今章最終章です。ウィッカムが完全に主役です。ちなみに次回、水着回です。お楽しみに。
「あ、あ、あーっ、あっ、あっ、エンプティの分際で私にたてつこうなど、い、い、い威勢がいいじゃないか? よ、よ、よ、よろしい、嬲り殺してやろう」
アラカルトは後方に跳び、ウィッカムと距離を取ってから、
「《パニッシャー》!」
と、鞭を伸ばしてウィッカムにふるった。ウィッカムは腕で防いだが、
「くっ……!」
彼の腕のスーツが見事に裂け、血がしたたり落ちている。
「ウィッカム、気を付けて! そいつの鞭はただの鞭じゃない!」
「わかってる! そんなこと!」
エルザの忠告にも、苛立つウィッカム。
ウィッカムはCUBEから短剣を取り出し、
「てめえを倒すにはこの剣一本で十分だ。この剣はビングリーの最高傑作のひとつ、『エクスカリバー』だ」
「あ? エクスカリバー? その剣が? は、は、は! 仮装大賞よりわ、わ、笑わせてくれるわ!」
アラカルトは鞭をまた振るった。
しかしウィッカムはそれを短剣で切り払う。
「なっ……あーっ、あっ、あっ、や、やるじゃないか」
ウィッカムの短剣はただの短剣ではない。使用者の反応速度を速くさせたりする効果がある。他にも効果はあるのだが、あえて伏せておこう。ビングリーの武器のなかでも、最強クラスの短剣なのだ。
鞭を切られても、アラカルトは鞭を元通りに再生させる。
「では、す、す、少し本気を出そう、うおおおおおおお!!」
アラカルトは雄たけびを上げ、全身に力を込めた。
すると、黄色い光の柱が彼の周りを包んだ。
「まずいウィッカム! こいつ、第二形態に能力値が上がるぞ!」
「上等だ、見せてもらおうじゃねぇか!」
アラカルトは光が消えると、にやりと笑みを浮かべ、
「わ、わ、私の第二形態をみ、見せてやろう。もっとも、私の能力値はこれ以上は上がらないのだがね」
アラカルトの鞭は白くなり、ダイヤモンドが埋まっていた。
「《パニッシャー》!」
アラカルトの鞭がまた伸びた。ウィッカムはすかさず切ろうとしたが、切れない。鞭はウィッカムに巻き付き、そして、
「ふ、ふ、嬲り殺してやる。エンプティのぶ、ぶ、分際で私たちギフテッドにた、た、たてついたことを後悔するがいい、あーっ、あっ、あっ」
アラカルトは胸元から鉄製のナイフを10本床にばらまいた。
「《パニッシャー、LEVEL2》!」
するとナイフが引き寄せられるように、ウィッカムの方に向かっていった。
「危ない、ウィッカム!」
ビングリーはすかさず道具で、ウィッカムを縄の中から転送させようとした、が。
「き、き、貴様も邪魔なんだよ!」
アラカルトはビングリーも鞭を放ってしばりあげ、
「わ、わ、私の第二形態の鞭は、超強力な磁力を持つのだ。そのナイフが、き、き、貴様らを貫いてくれるわ!」
ナイフは彼らの方に飛んでいった。しかし、何故か全部ビングリーの方に飛んで行った。
そう、ビングリーはCUBEを密かに落とし、さらに強力な磁石を出したのだ。
ビングリーは10本のナイフで貫かれた。
「ビングリー!」
ウィッカムは叫ぶも、ビングリーは縄から解放され、血を流して倒れた。
「あーっ、あっ、あっ、次はき、き、貴様のば……おい、そんな目で私を見るな、怖いではないか」
ウィッカムは刺し殺すような視線をアラカルトに向け、
「言ったはずだ……俺はこの剣だけでてめえを倒すとな。なーに、安心するのであーる。まだ俺はてめえを生かして帰るつもりはねぇんだよぉ!」
ウィッカムは短剣をぽとりと落とすと、短剣は光輝き、大剣に変わった。そして大剣はひとりでに動きだし、あろうことかアラカルトの鞭を切った。
「ば、ば、馬鹿な!? わ、わ、私の鞭が!?」
これがエクスカリバーと呼ばれる剣の由縁である。ビングリーはギフテッドに対抗できる武器はないかと長年研究していた。その数少ない成功品が、この、エクスカリバーなのである。収納しやすいように短剣の状態から、大剣に変身し、その大剣はすべてのギフテッドの異能を無効化するチート能力を持つ。
「おら? 笑えよ? おもしれえんだろこの剣が?」
ビングリーの作品を馬鹿にしたことに対し、ひどく怒っているウィッカム。
「はっ、じょ、上等だ。この鞭はさっきの鞭よりも、い、い、威力があるんだぞ? 痛いぞ、なにせ、あーっ、あっ、あっ、ダイヤモンドが埋め込んであるのだからな!」
アラカルトは鞭を振るう。しかし、エクスカリバーがそれをいとも簡単に弾く。
距離を詰めていくウィッカム。そして彼の前まで迫って来ると、アラカルトは崩れ落ち、手を組んで震え、
「ど、どうかお慈悲を……」
「そうか、なら5秒待ってやる」
(しめた!)
「《パニッシャー LEVEL2》!」
すると後部に展示されていた、王族の剣が、アラカルトの鞭の磁力に引き寄せられ、彼の背中に飛んできた。
「ウィッカーム!!」
ファビアンは叫んだ。
剣はものすごい勢いで、ウィッカムの背中に到達した。
次の瞬間には、アラカルトののどぶえは、エクスカリバーに切断されていた。
ウィッカムは、背に手をまわし、手から血を流しながら、王族の剣の刃を握っていた。
「あ……が……きさ……ま……」
そう口にするも、声帯が切断され、傷口からひゅうひゅう息を漏らしているので、それは声にならなかった。
ウィッカムは剣を引き抜き、もう一度、アラカルトの心臓を貫いた。
アラカルトは、完全に死んだ。
白いタキシードは、みるみるうちに血で赤タキシードへ。酷い光景である。
ウィッカムはエルザの元へ行き、ロープを短剣に戻したエクスカリバーに戻すと、
「う、うわああああ!」
エルザは号泣し、ウィッカムの胸の中にうずくまった。ウィッカムは、彼女を抱きしめ、
「まったくちょっと怪我しただけだというに、本当にてめえはガキだな……」
「が、ガキっじゃないっ……!」
「はいはい、可愛い可愛い」
「可愛いって言うなっ……ぐすっ、ぐすっ……」
エルザは顔を真赤にし、しばらくウィッカムの中でえずいた。
ウィッカムは自分の持っていた痛み止めでビングリーとファビアンを癒し、彼らを自動担架に乗せて病院まで送るようコマンドを入力した。
「すまねえな……ウィッカム」
「大丈夫であーるか、ビングリー、ファビアン、特にビングリー、お前は早く治した方がいいのであーる。致命傷を負っているのによくもずぶとく生きていやがるのであーる」
「へっ、やっぱてめーはその口調が似合ってるぜ、この野郎」
ビングリーは力なくウィッカムを小突いた。
「それでは、私はセシル王女を助けに行くので、お前らは早く病院で怪しまれないように事情をうまく嘘を交えて話し、治療を受けるのであーる。ファビアン、お前の飯を楽しみにしているのであーる」
「へへっ、特上の肉を喰わせてやるよ」
「ったく、ウィッカムは平気でそういうフラグの立つようなことを言う……」
担架は宙に浮かび、すさまじいスピードで二人を病院へと運んで行った。
「さてエルザ。私に考えがあるのであーる」
「なにさ?」
「これはひとつの賭けでもあるのだーが……」
──オーリリアハウス。
「くそがっ……! アラカルトめ、いともたやすくやられおって、その上紋章まで奪われてしまった! くそっ、くそっ!」
思わずくすりと笑ったセシルに、
「貴様……今、笑ったな?」
「い、いえ……そんな……」
セシルは顔面蒼白になった。
「貴様は最近調子にのっておるな。いいだろう。拷問部屋に行って部下共に教育してもらうがいい。なに、貴様は可憐だから、奴らのザーメンを浴びても似合うだろう」
「陛下……お願いです……お許しを……」
すると、
「うぎゃあっ!」
ダジュールは叫んだ。
彼の足に、王家の短剣が刺さっている。
窓の方を見ると、開け放れた窓のサッシに、ウィッカムとエルザが立っていた。
「てめえは自分の妻を平気で慰み者にするのか。そうか。それも帝王学か。だったら俺はぜってぇ帝王だけにはならねぇ」
ウィッカムは相変わらずマジギレモード。
するとダジュールはピストルをセシルのこめかみにつきつけ、
「ふん。いいな? それ以上近づいたらこの女を撃つぞ」
「好きにしろ。だが、人様のものは返さねえとな」
エルザは、紋章をちらつかせた。
「そ……それは、紋章! は、早くこっちに持ってくるのだ!」
「いいだろう。エンプティの俺が持ってきてやる」
そう言って、ウィッカムは歩み、帝王の元に近づくと……。
「《ワイヤー》!」
と叫び、帝王をしばりつけた。
「なっ……貴様ら!」
ふたりは顔を見合わせてほくそ笑むと、ばっと変装を解いた。
そう。彼らはビングリーの変装キットで入れ替わっていたのだ。
そしてエルザは、紋章をセシルに渡した。
「いいかいセシル。これであんたも異能持ちだ。どんな異能か知らないが、発動させてみな」
「は……はい……」
ダジュールは怪力でワイヤーを引きはがし、
「今すぐ部下と憲兵を呼んでやる! いいか!? セシルも含めて貴様らは袋の鼠だということをわすれるな!」
「勇気を出して、セシル! 今異能を発動させるんだよ!」
セシルは目を瞑り、精神を統一させ……。
「……《ジャッジメント》!」
と叫び、巨大な杖を出現させた。
そして……。
「……ダジュール陛下、いえ、ダジュール・ペルソナ三世、あなたの数々の罪を私は許しませんでしたが、今その罪を軽減し、最小限の罰をあたえます、《ジャッジメント》!」
杖からは稲光がはなたれ、ダジュールはそれに包まれた。
「うぎゃああああああ!」
ダジュールの巨体はたちまち小さくなり、あろうことか、鼠になってしまった。
ウィッカムはそれをひょいと捕まえると。
「離せー、離せー! 偉大なるダジュールになんという仕打ち、処刑だ、処刑だぁ!」
そう言って部下たちがやってくると、ウィッカムたちは身構えたが、ダジュールが鼠になっているのを見ると、くすくす笑い出し、
「おい、誰が陛下だって?」
「随分小さくなっちまったなぁ?」
「お? しっぽがあるぜ? ひっぱってみるか」
「痛い、痛い、やめろ! 貴様らも全員処刑だ!」
「うはは!処刑だってよ。決めた、こいつの名前は『ショケイダー』だ!」
「ふふ……ショケイダー、チーズ食うか?」
日ごろからダジュールの横暴にストレスを溜まらせていた男たちは、ダジュールを弄んだ。そうしてダジュールは、オーリリア邸のペットとして飼われ、死ぬまで見世物にされ、いじられまくったという。まさに、自業自得!
ウィッカムはエルザと共に、セシルをこっそり連れ出し、怪我の治ったファビアンの家で、パーティをしていた。
「おうビングリー、あたしにも酒注いでくれ、っておいウィッカム、なんで取り上げんだよ!」
「お子様にはまだ早いのであーる。お前はオレンジジュースでも飲んでいるのであーる」
「むきー! あんたって奴はぁ!」
「おうら、次はローストチキンだぞぉ」
「うっわ、でけえなファビアン! うまそー」
三人が料理をむさぼり、酒を飲んでいる間、ウィッカムはセシルのいる寝室に行った。
「料理は楽しまれないのですか?」
また違った口調でウィッカムは尋ねる。
セシルはくすっと笑い、
「民のことを考えていたのです」
ウィッカムは隣に座り、
「あなたが自分のことを考えた回数を当ててさしあげましょうか」
「はい?」
ウィッカムはにっと歯を見せて笑う。
「1億回、2億回、いや、それ以上でしょうな」
ええ? とセシルは笑う。
「また民のことや大事なことを考えたことも、1億回、2億回。あなたは何事も思い煩う癖があるようだ。聖書にもあるでしょう。思い煩いは、天に任せよ、と。あなたは今の生活から解放された方がいい。そうでないと、二つの思いに引き裂かれてしまう」
そうして、クローバーズの名刺を渡し、ダーシーの事業を全部話した。するとセシルは、迷った表情をした。
「できませんわ。そんな豪勢で自堕落な生活。私には民のために務める仕事が……」
「それが性処理ですか?」
「…………」
「ごめんなさい、言葉を選ぶべきでした」
ダーシーはシガレットに火をつけ、くゆらせた。気まずくなると煙草を吸うのが、彼の悪い癖。
「たしかに私は政治の経験は、ないです。偉そうなことばかり申し上げてきましたが、本音としては早く王家に帰らないと、臣下が心配しているのではないかと……」
「ご安心ください」
ダーシーはセシルの手を握った。
「確かにイヴはこの国には数名しかいませんが、ファビアンが臣下たちに話をつけてくれるとのことです。なんせ我々は、ダジュールの圧政から民を救った英雄なのですから」
「それもそうね」
くすっと笑ってセシルは笑い、
「お礼をさせてください」
「はい?」
そうしてセシルは、
ダーシーの頬に自分の唇を重ねた。
ダーシーは目を丸くした。
「私を、遠くに連れていって……」
「いいでしょう。どこまでも連れて行ってあげま……うわあっ!」
するとワイヤーでウィッカムはエルザに首根っこを掴まれ、寝室から引きずり出された。
「な、なにをするのであるーか!? 貴様、セシル女王に嫉妬しておるーな!?」
「バ、バッカじゃないの!? あんたの分際で女口説いてんのが気に入らないだけだよ!」
「いい度胸であーる、こちらにも考えがあーる、いつかお前に、『勇ましいウィッカムさん、あなたが好きです』と言わせてやるのであーる!」
「ふん、上等だね! こっちがあんたに好きだって言わせてやるよ!」
相変わらず犬猿の仲なんだかバカップルなんだかわからない二人のやりとりを、ビングリーたちは微笑ましく見ていた。
常夜の都市国家オーリリア。この夜、たった一つだけ、小さな一等星が見られたらしい。
第三章 完




