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プロローグ~戦いの始まり~

五里霧中で書き始めました。最後まで書き切るよう頑張りたいです。お楽しみください。

 

 とあるスラム街。

 朝だというのに、そこの民は惰眠をむさぼっている。

 犬の散歩をする老人。

 彼の変わったところといえば、緑色の屈強な皮膚をし、鋭い目つき、尖った耳。そして2メートルはある体長。

 亜人である。さらに分類するなら、オークといったところか。

 そのオークは杖を突きながら歩き、腰を曲げて巨大な体躯を重たそうに起こしながら、ゆっくりと進んでいる。

 シャッターの閉まった店の前に、麻のローブを着た髭面の中年がいる。彼はオークに軽く挨拶する。

「ザムさん、リウマチのほうはどうすか」

「けったいな」

「ザムさんもこいつ、抱きません?」

「お前も犬の散歩か」

 ザムと呼ばれたオークが視線を下に向けると。

 青いさらさらした髪をし、袖なしのレースを纏い、胸を覆う蒼い布にパンツをはき、へそをろ露出している、美少女が、首輪をつけられ、四つん這いで歩かされている。豊かな乳房をしており、膨らんだ胸もとからは谷間がくっきり浮き出ている。少女は頬が痩せこけ、煤けている。

「風呂に入れてないのに、随分綺麗な髪をしているのだな」

「それが不思議なんですよね。まあ、イヴなんてのはそういう人種ですから、おかしくないでしょう。もうすぐ連れがきますよ。ま、朝一発、連れが来たら、出すもん出して、今日も職探しっすよ」

「わしは断る。寒そうではないか。そんな薄着だとかわいそうだろうに」


 この世界──ユークリッド大陸は、アダムとイヴの二つの性を持つ人間と、このザムという老人のようなオークをはじめとする亜人が共存している。

 アダムは知恵と力にあふれ、イヴの知恵はアダムに勝り、力はアダムに劣る。アダムは雄々しく、イヴは慈愛に満ちていた。また、アダムは肉によるものとされ、老いて死ぬが、イヴは霊によるものとされ、成人になると美貌を崩すことなく永遠の命が約束されていた。

 しかし《ジョーカーズ》と呼ばれる巨大マフィアの出現により、イヴの乱獲が始まった。それに味をしめたアダム達の間で、イヴの価値が全大陸で軽視され、大陸国際法でイヴの奴隷化が認められた。反抗したイヴたちは蜂起したが、能力者ギフテッド集団でもあるジョーカーズが右翼集団としてイヴたちを虐殺、拉致し、残されたイヴは全大陸で99人にまで減ってしまった。その99人のイヴのほぼ全部は高い能力のギフテッド持ちで、ジョーカーズに対抗する者、あるいはこの少女のように奴隷になってしまうものに二別された。


「おーい」

 街の隅々から荒くれ者が、5名ほど集まって来た。そのうち2名は屈強なオークで、残りの3名は屈強な人間だった。彼らは少女を取り囲んだ。

「おい、やるなら路地裏に逃げた方がいいんじゃねぇか? 秘密警察に密告されるぞ」

「おいじいさん、絶対に上に報告するなよ。いいな、そんなことしたらてめえを別の罪をでっちあげて密告してやる」

 ザムはひどく呆れ、肩をすくめた。飼い犬がわんわん噛みつくように吠えている。

「もうイヴをむやみに犯すことはこの地域ではとっくに許されている。わしも密告するほど慈善的ではない」

「それなら、遠慮なくやるか」

「そうだな、街のみんなに見せつけてやれ!そうら、脱げ、エリザベス!」

 エリザベスはその声にびくんとすくみあがって、立ち上がると、麻のローブの男に頬を叩かれた。

「誰が立っていいっつった!? てめえは俺の犬だ、喋ることも、立つことも許されねえんだからな!?」

 五人は笑い飛ばし、ザムはとっくに向こうに行ってしまった。エリザベスと呼ばれた少女は、悔しさを噛みしめ、四つん這いになりながら、ズボンを下ろそうとした。


「喋ることを許さねえってのは、ちとひどすぎるんじゃねぇか?」


 とつぜん、別段低い男の声がした。その声はほどよくしゃがれており、女性が聞いたらコロッといってしまいそうな、耽美的な声であった。

 佇んでいたのは、身長の高く、黒いレザーコートに身をやつした、サングラスの、ウェーブのかかった金髪の馬面の男。腕が少しぴくぴく震えていた。

「なんだぁてめぇ、ぴくぴく腕震わせやがって、ビビってんのか? まあいい、兄ちゃんも混ざれや。上玉だぜ、この女、馬鹿のひとつ覚えに犬になりやがってごぶぅっ!」

 赤い皮膚のオークの男を、レザーコートの男は殴り飛ばした。オークは3メートルほど飛ばされた。

「女ってのはな、喋らせないで犯したってつまらねえんだよ、と俺ぁ思うんだがねぇ。せめてセックスすんなら、愛してるの一言でも聞きたいからな」

「てめえゴルァ、死にてえのが望みなら叶えてやんよ!」

 リーゼントの男が殴りかかるも、レザーコートの男はひょいと屈んでかわし、そのままひじうちを喰らわせた。

「ひいい、逃げろぉ!」

 残りのオーク一人と人間一人は逃げ出した。途端、レザーコートの男は、人差し指を逃げた方向に向け、そこから黒い矢印を触手のように放ち、二人を捕まえた。

「わりいわりい、間違ってたら刺し殺すところだったわ」

「てめえ……ギフテッドか」

 少女を繋いでいた麻のローブを着ていた男が呟いた。レザーコートの男は、捕まえた二人をプレハブ小屋に叩きつけた。

「だがよ……残念だが俺もギフテッドなんだよぉ!!」

 麻のローブを着た男は指先から蜘蛛の糸のようなものを放ち、レザーコートの男の両手をそれで絡めた。これで矢印はもう出ない。そう踏んだのだ。

「終わりだな、このままてめえを壁に叩きつけて骨へし折ってやんよ!」

 麻のローブを着た男は、高笑いをした。

 次の瞬間。

 麻のローブを着た男は、胸を貫かれていた。

 レザーコートを着た男の、背中から放たれた矢印によって。

「あ……」

 レザーコートを着た男は矢印を抜くと、胴体を抉られた麻のローブを着た男は倒れ、血を大量に垂れ流して、息絶えた。

「んー、計画では、こいつをビビらせて裸踊りでもさせて許しを請わせてから殺すつもりだったんだが。つまらねぇ死に方しやがったな」

 レザーコートを着た男は、視線を少女の方に向けた。少女は怯えていたが、四つん這いになることは忘れていなかった。

「あ、そうそう、最後はお前の番だったな」

 にやりとレザーコートを着た男はほほ笑む。少女は悲鳴を上げたかったが、目をぎゅっとつぶり、この男に蹂躙されるのをぐっと待った。

「動くんじゃねぇぞ」

 レザーコートを着た男はゆっくり歩みより。

 指先からまた、矢印を出した。そして何をするかと思えば。

 少女の首輪の鉤に、小さい矢印を入れ、かちゃかちゃと弄り、首輪を外した。少女は目を丸くした。

「命令だ。喋れ。あと、立て」

 冷たい声に、少女は凍りついたが、今の状況を整理した。

 自分を拘束していた主人は、殺された。

 目の前の男が、主人を殺した。

 目の前の男は、首輪を外してくれた。

 そして、自分に喋ること、そして立つを許してくれた。


 普通の人間の女、イヴとして生きることを、許してくれた。


「う、あ、あああああああ!!」

 少女は男に抱き付き、大声で泣き喚いた。

 男は少女を腕に抱き、決して汚れることのない艶やかな神秘の青い髪を撫で続けた。


 少女が落ち着くと、男はパンを少女に与えた。少女は夢中で食べ、男は水筒の水もまるごとあげた。

「俺はベネット・フランクリン。どこにでもいるごろつきだ。あんまり仲良くしない方がいいぞ」

 少女は、あ……と声をもらし、恐る恐る口を動かし、

「あの……わたしは、エリザベスって言います。生まれたときのことはよく覚えてないんですが、気づいたらあのサイって人の奴隷になってました。それからは、よくわかんないけど……毎日エッチなことされて……」

「妊娠は」

「一回も……」

「そいつぁ奇跡だな」

 ベネットはエリザベスの肩に手を回した。

「でも良かった。あんたの名前が聞けて」

 するとエリザベスは頬を紅潮させた。

「どうしたんだ」

「その……恥ずかしくて……」

 嘘である。

 エリザベスは、恋に関しては処女であったが、この感情が恥でないことだけはわかった。もっと彼に寄り添いたい、彼のことを知りたい。

 できることなら、彼と交わりたい。そして今まで汚された体を、綺麗にしてもらいたい……。

「お前、俺んとこ来い。嫁にしてやる」

「えっ!?」

 エリザベスはベネットの方を振り向いた。顔がすごく近く、鼻と鼻がぶつかり合いそうだ。

 しかしベネットは、エリザベスの唇に人差し指を押し付けて、

「だが、当面、キスはお預けだ」

 エリザベスは、くすぐったそうに笑った。こんなにくだけた感じで笑えたのは、いつ頃だろうか。

「じゃあ、抱きしめてもらっていいですか……」

「いいだろう」

 ベネットは、エリザベスの小さな体を、包み込むようにしっかり抱きしめた。

「これであなたは、私のもの」

「あ?」

「一度言ってみたかったんです」

「こいつめ」

 ベネットの腕がぴくぴく震えている。

「緊張してるんですか?」

「馬鹿野郎、持病のてんかんだよ」

 ふたりはしばらくずっとそうしていた。しかしベネットは知らなかった。このときエリザベスが、目から何滴も涙をこぼしていたことを。

「おーい」

 その声を機に、二人は離れた。エリザベスはベネットに気づかれないよう、急いで涙をぬぐった。

 声のしたほうを見て、エリザベスは仰天した。

「羽根が……生えてる?」

 小柄でやせこけた、スーツ姿の男が、大きな両翼をたたえ、降り立った。

「ダーシー、遅えぞ」

「お前なんだこりゃあ、4人倒れて、1人死んでるじゃねぇか。あれほど人を殺すなと言ってんのによ。あら、こちらのうるわしいお嬢さんは」

「紹介する。彼女はエリザベス。こちらは俺の上司のダーシー・カリカチュアだ」

 ダーシーはエリザベスと握手した。

「まあ死者に関してはしょうがない。なんとか誤魔化して死亡届の処理を出しておく、罪人認定もしておくよ。ああ……コリンズ女史にまた怒られる」

「コリンズ……女史」

「ダーシーの部下だが、まあ実質上司の上司みたいなもんだな」

 ダーシーは苦笑する。

「彼女、どうする。シェルターの一号機になるな」

「いや、彼女は恐らく無能力者の《エンプティ》だ。あと言っとくと、彼女は俺の嫁さん」

「はあああああ!?」

 ダーシーはベネットの肩を掴んでゆらす。ベネットはぴくぴく両腕を震わせる。

「まあいいや。これでもうお前は他のイヴを助けても愛せなくなったぞ。お前が一夫多妻制を疎んじてるのは知ってるからな。かえって事業のためにはいいかもしれない」

「事業って……?」

 エリザベスが首をかしげる。

「ああ、こちらの話。帰ってから話そう」

 ダーシーはエリザベスを抱えた。そして羽根を広げて空を飛んだ。

「おい、俺に歩いて帰れってのか」

「これ以上いい思いをさせとくと、お前の教育上よろしくないからな」

「ちっ、2つ上だってだけで偉そうに」

「忘れんなー、俺はお前の上司だぞー、俺はCEOだ!」

 ダーシーはエリザベスを抱えて飛び立ち、その様を、どこか満足げに眺め、ベネットは煙草に火をつけた。


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