八話: 巫女さんからの指名
「なんだよアルハルトって」
[この国で一番大きい神社です]
[え、マジか、出雲大社とか伊勢神宮みたいな?]
「いや……存じ上げませんが……まあ、この国の最大の神社でありますから、あそこに呼ばれるっとなると愈々(いよいよ)訳が分かりません」
「また馬車に揺られなきゃいけないのか? あれあんまり好きじゃなくて……」
[歩いて少しですから、まあ鼻歌歌ってれば着きますよ]
「え、マジか」
[ええ……ミルカ王国の中ではそこまで大きくないですけど]
「え、この国最大の神社って言ったばっかりじゃん、なにそれ矛盾?」
[ああ……この国ってのは、この王様が治める領内で、ってことで……]
「ああ成程……」
どうやらミルカ王国という大枠はあるけど、普段はこま切れとなった土地、領土を「国」と呼んでいるのか。「国家」より「故郷」という感じだな……。
王族すら且つこれをこう呼ぶのだから、況や民衆をや。多分「国民」という概念もないのだろう。
まあそうか……。
俺らはまた部屋を出て、今度はお付の者無しで、王宮を歩く。
――この三人のみで行くのですか?
ガイウスが心配そうに訊く。確かに王様、王女様、隣の「国」の王子様がノーガードで歩いているのは不用心かもしれない。
――なに、神の社では暗殺の心配はないでしょう。あそこでは武装解除ですから。
――確かに……。
そうなのか、神社は聖域か。と言ってもこの王宮内でお付の者がいないのは不思議だと思った。こいつらの従者が居ないのは百歩譲って理解できるが、俺の城(ガイウスの城だけど)から連れてきた奴らが居ないのは変だと思った。
――あ、でもリエナは着替えた方がいい。
――? ああ……まあ確かに……。参詣には派手すぎるかしら。
そうだな、婚約者への顔見せの服なんだからなその黄色と白の服は。
――うん、まあ、そういうこった。参詣は別に秘密事項じゃないから侍女に手伝ってもらえばいいだろう。
わかったわ、と言って彼女は廊下を一人進んで突き当りで消えた。
「おい、お前の従者はどうした」
[あ、そういえばいないな……どうしたんだろう。まったく、主人の前を離れるとは……]
――あの、うちの従者はどうしました?
――ん、ああ、あなた方の従者連は、武備の間で接待されていますよ。先程の話は余り漏れては欲しくない話でしたから部屋には入れませんでしたが、アルハルトには連れていけます。恐らく、巫女さんに説明される場所には武人は入れないでしょうが、護衛にはなるでしょう。
――これは有難う御座います。では、リエナ殿下がお戻りになるまでにこちらに寄越して頂きたいのですが。
――ええ、勿論。少しお待ちを。あ、私の部屋で宜しいですか? 今、武備の間に行ってきて呼んできましょう。
――いえいえいえいえ、陛下にそのようにさせるとは、なりません。
――いえいえ、元はと言えば私が自らも良く解っていない手紙を出したからで、ここに来て頂いたことに感謝する立場です。リエナから聞いたのでしょう、「うちではそんな災厄など起こってない」と。
――え、ええ……。
――その時点であの手紙を一笑に付し、破り捨て、ここに来ない事も出来たでしょう。ですが、こちらにいらした。それだけで望外なる有り難さです。
――そ、そうですか……。
「なんだよこの王様、めっちゃ良い奴じゃん」
[まあ、今は我が王権の方が強いですからね……]
「まったくもう、しょうがないなあ、どうしてそんな風にしか考えられないのかなァ」
――なに、直ぐに戻って参りますよ。先程の部屋、お分かりですね、そちらでお待ちください。
――はい。
彼はくるりと、背中を向けスタスタと歩いて行った。
「さてね、また本が読めるでないかい」
[またそんなこと言って……勝手に人の本を読んではいけませんって……]
王の間に戻ると、吾ら唯一人。本に挟まれるのみ。
「ねえ、いいんじゃない? ちょっとぐらい読んでも」
[駄目ですって]
「ちぇっ……生真面目な奴だなァ、まあいいや。何か謎の標本があるぞ、おもしろい!」
[あ、ホントだ……]
鳥の剥製が本棚の上に二つほど鎮座していた。鷹とか鷲のような勇ましい感じの鳥。嘴が鋭く、目つきもまた爛々として、身体も大きい。今にも空に羽ばたいていきそうな体勢のまま固められている。
[多分狩猟が趣味なのでしょう。詳しくは私は知らないのです。王侯貴族との付き合いは長兄にまかせっきりでしたから]
「マジで? 王子様なのに引きこもり属性あるのかよ……いやぁ、でも王子様なら働かなくて済むもんなァ……」
[いゃ、だから税金で喰ってるんですから働かないといかんでしょう]
「殊勝なやっちゃなあ……うちの政治家に聴かせてやりたい」
――あれっ、親父は?
ガッチャリと金具の音を立てて入ってくるはリエナ姫。
――あ、陛下なら少し武備の間に。
――ふぅーん。
彼女は凄く地味な服に着替えてきた。ヒラヒラフワフワの先程の服に比べれば、という話であるが。
生成りのザラザラしたシンプルなワンピースであるが、仕立てが良いのか、身体によく合っている。
――なによ。
――あ、いや、ええ……っと。
「なんやねん、綺麗すぎて言葉にできないか、えっ」
[少し黙っててください]
分かった黙ってる。
そうすると、どうも時計がこの部屋に存在しない筈なのに、チッチッチッという音がどこからか聞こえてきそうな程に部屋が静かになった。
いや、えっ、なにか会話をして間繋ぐとかしないんですか。そうですかしないんですね。
彼女の方もガイウスに一瞥呉れることもなく、よっこいしょと口に出して玉座に坐り(質素な木の椅子だったが)適当に机の上にある本を読み始めた。
[沈黙って怖いですね]
「そうか? まあそう思うなら、対策したらいいんじゃないですか、殿下」
[いや、でもなんか焦って話しかけてもなんていうか、変じゃないですか]
「確かに。何かキモイ」
[キモイってなんだか知りませんが、罵倒語だというのは雰囲気で解ります]
「ほ、ほら……あれだよアレ、ど、どんな本を読んでるの……タハハハ。みたいな感じで話しかけたらいいんじゃないかな」
[何か無理矢理話題を作ろうとして滑ってる人みたいじゃないですか]
「みたい、じゃなくてそうなんだろ……。俺だってこの状況ならそうするわ」
[あなたねぇ……、じゃあまた交換しましょうか……]
「え、マジ……?」
[口だけ大臣じゃないなら出来る筈です]
「いや、確かにそれは一理ある。しかしな」
[問答無用、はよ交替]
彼が白い壁から
「ぬおおおおお」と酷い声を発しながら出でた。
どうやら、この白い部屋の中では彼の力の方が強いようだ。俺はまた手を引かれ、壁に叩きつけられ、ガイウスとなった。
「まったく人をなんだと思ってんだよ……」
俺がぼやくと、彼女は耳聡くそれを拾ったらしい。
「ごめんね、私もそう思うわ。親父があんなに迷信深いとは思わなかったもの」
「あ、おお……」
別にお前に言った訳ではないが、別にそれをバラす必要も無かろう。
――ほらほら、会話続けて。
[糞王子め……]
しかし、俺が彼を散々っぱら焚き付けたのも事実。ここはひとつ会話位造作もないと言う事を見せつけてやろうではないか。
「何読んでるの?」
「ん、ああ……なんだろうね、只の時間つぶしだから良く解らないわ」
なんだよそれ。まあ、文字を追っているだけでもいいってやつか。意味も無くお菓子の包み紙の栄養表示を読んでしまうみたいなものかもしれん。
「本読むの好きなの?」
「そうでもないわ」
「ほ、他に趣味は……?」
「ん? 狩猟かしら、よく親父についていくのよ、たまにお忍びで独りで行くけど……まあ、内緒ね」
弓を引く真似をする。
「へ、へぇ……」
………………
――あれっ、ニシカワ殿も微妙ですね、大変だぁ。
[うっせえ殺すぞ]
――はーい。
この王子様は気弱と見えて実はそうでもないらしい。手出しされないような場所では強い。
「……あ、別に無理して話そうとしなくていいわ。婚約者と言えど、会ったばかりみたいなもんだしさ」
本を閉じて俺を見据える。その翡翠の瞳には一点の曇りもない。
「はい……」
なんだこいつイケメンかよ。有り難い。
「なんだよ、気持ち悪いな……」
「いや、なんだろう。あんまり女と話すのは苦手なんだよ」
「そうなんか。次第に慣れていくよ。気にすんなって」
「お、おう……」
「でも不思議ね。馬車の中では普通に喋れてたじゃない」
「あ、確かに……」
あれは何故か、そうか、話題があったからだった。何でこの国に呼ばれたか、とかそういう感じの共通の話題があったから何とか応対できたが、何もないところから引っ張ってくるのは難しいのか。
ギィィと音がして王様がいらした。
「では、行きましょう」
扉の向こうに吾の従者が二人見える。きちんと連れて来てくれたんだな……感謝。
王宮内の階段を降ったり、昇ったり、はたまた渡り廊下を渡ったり……けったいな移動を繰り返し漸く空の下に出た。芝生と飛び石とのコントラストの庭を横切り、人ひとり通れるぐらいの門を潜って敷地外に排出された。
「普段もここから出入りするのか?」
リエナ姫に小声で訊く。俺が思い描く王侯貴族のお出かけシーンではこんな勝手口みたいな場所は映らないものだ。
「うーん、まあ、行く方角によって違う門を使うかな……今日は北に行くから北門から出てるだけよ」
「あ、成程……」
ってことは東西南北最低一つづつは門があるのか……豪気なものだ。もしかして東北門とか南東門とかも存在するかもしれん。王様はやはり三日やったらやめられないというのは本当かも知れんぞ。
背の高い植物が両脇に生い茂っている小路を進むこと十分程度。視界が開けてきた。
おお……なんだこれ、活気溢れる街並みじゃあないかい。石畳に屋台が腰を下ろし、美味しそうな香りが辺りを漂う。それを求めて幾つもの行列が出来、商人は我が屋台にも人あらんことを願って更に声を張り上げる。
大きな籠を背負った者、裕福そうな商人、襤褸を纏った者が区別なく市場を流れている。
その誰も彼もが王様と姫様に気づいて親しそうに声を掛ける。
「おお、陛下、お出かけかい!」
「姫殿下も奇麗になったなァ」
等々。街道の両脇にすっとんでいって土下座する者は一人とて居らず、友達の様に挨拶を交わす。勿論、王と姫もこれを無礼と怒らず、ニコニコと手を振ったり、握手をする。
こんな感じなら暗殺に怯えることも無いだろうな。彼ら自身の従者を連れて行かないのも頷ける。
――ここの王は民衆に好かれているんですね……。
[お前の所は違うのかい]
――ええ、こことは大分違います。誰も父……王に近づく者は居ません。というか、近づけさせないのです。民衆はもしかして王の顔も知らないかもしれません。
[成程ねェ、それは統治の仕方の違いかもしれないな。ミルカ王国って言ってもその実、六個の小国の連合王国みたいなものなんだろう? だったら法律とか慣習が違うのは当たり前なんじゃないか?]
――それはそうですけど……。なんだか、同じ王という位置にありながら、アルト陛下は、この国の王は随分楽しそうにしていらっしゃいます。勿論、民衆には見せない気苦労があるのでしょうけど、あのように笑う事は、我が王にはありません。
ガイウスは哀しそうに喋った。彼の表情は解らない。只音声が脳内で流れるのみだから。だけど、きっとその表情は荒びきっていただろうな。
少し歩くと大きな屋根が見えてきた。煌びやかな金属の光は見えないが、その屋根自体が真っ白の石か何かで出来ている様で、太陽の光を受けてギラギラと辺りを照らす。
「ここが、例の神社、アルハルトです。予約は取っていませんが、まあ、例の件で……と切り出せば通してくれるでしょう」
アルト陛下が腕で示す大神殿は実に豪華絢爛たる出で立ち。白の石門。奥まで続く石畳。
石畳の両脇には細長い建物。そして、奥には先程見えた屋根を持つ社殿。そして境内は生垣で囲われている。こう書いていると凄く日本の神社っぽいと思えるだろう。大枠は本当にそうなんだな。色彩が全て失われ、白と黒で出来ている以外は。
神社内も人がちらほらいて、それらもまた、王と姫に挨拶して帰って行く。こんなんで秘密の接見が巫女と出来るのかね……。
心配していたら、びゅーんという効果音が付きそうなぐらいの速度で生成りの貫頭衣と細い袴を纏った栗色の髪の女性が走ってきた。
なんだろうと見守っていたが、どうやらこいつはここの巫女らしい。王も心得ている様で、ちょっと巫女頭に会いたいのだがと頼むと、栗毛は大丈夫です、喜んで。と居酒屋みたいな返答をして奥の偉大そうな社殿……ではなく、そのななめ後ろの幾分小さな建物を指さして「あちらでお待ちです」と言って俺らを案内した。
さっきから巫女、巫女と言っていたが、どうやら宣託をしたのは巫女頭と呼ばれる人なのだそうだ。その頭のおかしい人は小さな建物に居ると言う。隔離されているのの間違いではないのか。まあ、ひとつ宣託の真意を訊きたいだけなのだからちょいと行くだけである。
石門から数十歩進んで小屋に着く。
こういう神社っぽい場所だと引き戸が標準だと思い込んでいたのだが、これは蝶番の付いた扉だった。
装飾もないシンプルな扉を開けると蝋燭が沢山並べられた明るい空間があった。そとから見ると小さい小屋の様だったが、入ると意外と広く感じた。天井が高いからだろうか。奥の壁に白い布の掛かった膝位までの高さの台があって、それの上に赤い布の掛かった何かが置いてある。
そしてその台の前を守るかの様に床にマットを敷いてこちらを見上げる者あり。黒蜜のような長い髪が蝋燭の光を受けてキラキラと存在を主張する。ぼおっと定まらない黒い目で以て彼女はこちらを見た。先程の栗毛の巫女曰く彼女が巫女頭だという。吾々とその巫女頭なる者との間に御簾のような仕切りは無く、直接彼女に相対している。
ここの巫女も緋色と白の服を着るのだなと思った。尤も、日本の所謂着物に似た雰囲気は少ない。彼女も先程の栗毛と同じような貫頭衣を着ていた。四角い布に頭が通るだけの穴を開け、両脇を縫うという単純な服だ。しかし色が違った。上は緋色、袴は生成りでは無く白。位が高くなると服の色も鮮やかになるのは色んな文化圏で共通していることだが、ここでもそうなのかと少し安心した。どうも、自分の理解の及ばない世界にいると、自分で納得できることが少なくて困る。
「陛下よくぞお越しに、こなたが、くだんの王子様であらせられるか」
透き通るような、しかしながら力強い声。唇の色素、形共に薄いのにこれは驚いた。
「左様でございまする」
ちら、と従者を見る。彼らは察して扉から出て行った。
「御足労、誠に忝のうございます。さて、今日はガイウス=リウス殿下に宣託こそあれ。わらわは神より聞きしことを唯告げるのみ。どうかどうか、お耳貸ませ」
正座したまま彼女は頭を下げた。
「あ、はい」
全ての動作が緩慢で俺は、じれったくて彼女を正視できなかった。もたもたしている感じ。
栗毛が吾々に座布団をくれた。西洋風の文明なのに座布団とはこれいかに。有り難く頂いて彼女に相対す。
「さて、神より聞きしことをそのまま真っ直ぐ伝えましょう。この地に獰悪なる獣が降りてきます。まもなく、直ぐに」
「は、はぁ……」
獰悪なる獣ってなんだよ、ジェウォーダンの獣みたいなものなのかな。王も、姫も俄かには信じられないよ、という顔をしている。というか、ここに来たのも単なる儀礼上の「振り」みたいなものだし。
「それはどんな獣なんですか、オオカミとかそういう感じのものなんでしょうか」
俺が訊くと彼女は頭を横に振った。これは否定の意味なんだろうか。縦に振るのが肯定という文化圏なのかどうかは知らないから、更に訊く。
「熊……とか?」
「わらわにも分からぬ……ただ神降ろしの時、わらわに神が宣うのみ。『獣来たりて、民を殺す』と」
「あ、はぁ……」
バリバリと頭を掻く。成程これには王族も呪術者の扱いに困るのも頷ける。災厄が来ると知れるけれども、それがいつで、どこで、どんな風に起こるか分からないのなら、もうお手上げ。国民軍という概念はあるのだろうかは知らぬ。然し有れども、商業、工業、農業を営む者を四六時中拘束も出来まい。
対策出来て王の私兵だろう。それも有限。
[この宣託って当たるのか?]
――当たるそうですよ。先代のここの巫女は戦争の勝敗をも見抜いたとか。
[先代はでしょ……]
失礼な脳内会話の後、彼女に更なる質問をする。
「もう少し詳しく教えてくれないと何にも出来ないと思うんですけど」
「詳らかに知らしめたいのはわらわも同じ。されどここまでが神の思し召し、知らぬより良きことか、知らぬ方が心安く暮らせるだろうかと迷ったものの、こればかりはこの地の……」
その時だった。いきなり、木戸が開かれ、さっきの従者が血相を変え、叫んだ。
「失礼いたします! 謎の化け物が!」
化け物!?
小屋の扉を壊さん程の勢いで俺らは外に出る。しかし、何も見えない。が、神社の敷地外から聞こえる悲鳴。そして遠くに見えるは何かから逃げる人々。何人かが石門を潜って境内に逃げ込んできた。
それらの手を取って奥へ逃げる巫女たちが見える。それとは入れ替わりに薙刀のようなものを携えた巫女が門の周りに集合し始める。
――なんなんですか、アレは!
[知るかよ! これマジで予言当たっちまったんじゃねーのか!?]
――と、とにかく、見に行かないと! 『高貴さは強制する』んです!
[よくわかんねーけど行くことには賛成だ!]
と、駆け出そうとすると、王様に腕を掴まれる。凄い力で。
「殿下、なりません! ここの領土での問題でございます。吾々が解決せねば」
「あ、ああ、そ、そうですね、んで、どうするんですか!」
「先づ、これを使いに回しますから、さすれば、城から兵が出るでしょう」
「な、な、なるほど」
――なんでそんなにどもってるんですか。
[脳内がパニックになったから]
陛下が命ずると陛下の従者の内の一人がマジで高速で境内の裏口に駆けて行った。まあ、あの城までは徒歩十分も要らなかったから、速攻で軍は動いてくれるだろう。知らんけど。
いつの間にか外に出て来ていた巫女が吾々を前にする。
「大王、ここは結界の張られる所。姿かたち無き災厄は来られませぬが、人、獣の類は易々とここの門を潜るでしょう。ここは危のうございますから、どうぞ近習に任せてお逃げくださいまし」
巫女頭はさっきの栗毛に命じて陛下と姫さんを連れて何処かに逃げろという。というか、俺もその対象になった訳だと思っていたら
「しかし、この殿下は戦わなければなりません」
しっかり、はっきりした声でそう言った。俺を指さして、彼女はそう言った。
「え、俺?……」