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例によって死んで転生、一つの身体に二つの精神  作者: Naroumin7
一部 龍退治
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十四話: お寝坊巫女と怪物の正体

神話とは擬人化物語だと言われている。雷の擬人化が雷様だったり、洪水の擬人化が龍だったりと。

今回も多分そんなノリなのではないかなと語る巫女だが……。

こういう時ってヒロインが朝起こしてくれるものじゃない? で、中々起きない俺にのしかかったり、或る者はフライパンとフライ返しでカンカンやって起こそうとしたりとまあ、それはそれは愛情を感じるものなんだよ。

 しかしな、今回は違うようだ。


「おーいー! 巫女! てめえ、なーにが『陽が昇ったらー』だ、起きてんのか、アッ!」

 扉をドンドン叩くが、反応がない。

 巫女なら良く知らないが禊とか朝にやるもんじゃないのか? それは日本の奴なのだろうけど太陽信仰があるならやったっていいじゃない。


――王族の身体で召使の真似をするとは……落ちぶれてしまったものだ……。

[なんだかしらんが、俺だってめんどい!]

 扉は固く閉ざされ、また応答もない。これは困ったものだ。


 まあ……別にいついつまでに森に行って魔物だか怪獣だかを殲滅せよ! みたいな命令じゃないから締切に怯えて早く起こすことはしなくてもいいのだろうけど……。

 なんだろう、抑々そんな大役だったら俺のお供にこのお寝坊巫女、酒癖悪い巫女、うるさい巫女をたった一人つけるだけだなんて待遇は無いだろう。軍人を何人か派遣するとかまあそう言った高級な手助けがあるに違いない。だからこれは、敢えて言うなら、形式だけの探検であろう。


 扉の前でうんうん唸っていると、ガタン! という酷い音がした。ああ……成程、お目覚めですね……。ガタッ、ガタッ! ドン! と部屋の中を喧しくしながら、ドアが開いた。

「あ、おはよーございまーす……」

 細く開いた扉の隙間から寝癖だらけの巫女が見えた。ああ……生気のない瞳だ。


「もう出るのではないですか?」

「あ……はい……ちょっち、待っといてくらさぁい」

 ばたんと扉が閉まる。

 声が出し辛そうだったな、まあ朝だし仕方ないね。

――まったく……乙女の姿だろうか……あんなのが……。

[まああんなもんでしょ、基本そうだよ]

――嘆かわしい。

[リエナ姫も多分ああだよ]

――それは、それは……でも強ち間違いとも言い切れないのが悔しい。

 裏表がはっきりしていらっしゃる姫様の事ですからもうひっどいと思うよ。多分。


 数十分後……。

「ああ……えはようごじゃいます……」

 未だ恢復していなかったようだ。

 所々飛び跳ねた髪、焦点の定まらない視線をした目、というか全体的にだるそうに見える猫背。着替えてくるならいっそ髪を梳かしたりすればいいのに……いかんねぇ。昼から夕方に掛けてはあんなにうるさかった……ではなく、元気だったのになあ。


「二日酔いですかね」

「いいえ、私は滅多に後に引かないのですけど……これは毎朝のことです。私は朝が弱いのです」

「ええ……成程、まあ俺も夜型だからな、気持ちは分かる」

 生前の話だけど。


「あら……殿下も? まあ蝋燭がたくさん買える人は夜型になってもさしてお金を意識しませんしね」

「それを言うならあなたもではないでしょうか」

 あれだけ床に蝋燭を並べていたじゃないか、不必要な程に。

「いえ……私は月明かりでも、星明りでも、本が読めてしまう目なのです。ですから、ずっと起きていられるのです」

「それはすごいですな」

 夜目が利くということか、成程、旅の友にはいいかもしれない。あの巫女頭、意外と気が狂ってなかったのだな。


「さてでは行きましょうか、地図を持っていますし、まあ迷う事も無いでしょう」

 欠伸をしながら気だるげに出発を宣言した。

 

 前から気になっていたのだが、この世界にはきちんとした時計が無い。歯車やぜんまいを用いた時計が無いということだ。巫女にどうやって時間を計るのか、と訊いたらものすごく怪しまれると思ってガイウスに聞いた。だいたーい、ほんとだいたーい日の出と日没との間を十二等分したもので、季節によって変わることがある。という話が出てきた。すごい、古代感ある。


 時計という装置は無いのか? と訊いたら、そんなもの要るのかしらと例の如く言うからさっさと答えよと急かすと、日時計で十分では? と言う。ま、まあそうだな、反論できなかったね。一分電車が遅れたらマジ切れするような世界ではないし、そもそも分という単位が無かったら認識できまい。平和な世界だなあ。


 定刻ごとに鐘がなるという習慣もないようだ。だから、彼らの時間指定は実に曖昧なもので、「この日の日没位に行く」とか「三時頃行く」と言って「五時頃着いたよん」というものありがちだそうだ。ああ平和な世界。


 早起きは神の試練! という感覚も無いようで、というか大体神話の中の神もぐうたらしているからその血を受け継いだ人間も当然のようにぐうたらしているものだ、という認識らしい。すばらしい世界。

 ま、まあね、ここ温かいからね、ほおっとけば植物とか生えてきそうだし、厳しい思想になる必然性とかなさそうだね。昨日の夕食では小麦粉料理が出たし、きっといい気候なんだろうな。


――昨日と同じ服なんですけど……こまったなあ……。

[まずいか?]

――ええ、そりゃあね、僕は清潔好きなもんでねぇ。

[そういえば昨日、メイドとかに寄ってたかって着替えさせられたぞ、あれ毎回そうなの?]

――そうですね、それが仕事なので。

[着替え位一人で出来るだろうに、なんでそんな謎の用途で人を雇っているのやら……]

――それが伝統ですからかねぇ、実利的な事を言ってしまえば彼女達の父母も同様に仕えてきたので、それ以外の仕事を知らないと言う事もあるのですけどね。

[あーなるほど? 親子代々お前の家に勤めてるというか]

――そうですねー。で、使用人同士で結婚したり、しなかったりとかで。

[メイドさんと結婚できたりしない?]

――そりゃあ、あなたなら出来るでしょうが僕は出来ないですねぇ、婚約者いますし。それに結婚というのはアレですよ、親戚を増やす行為でしてー、親戚が少ないうえに影響力が乏しい人と結婚してもしょうがないというか……。

[成程、一理ある]

――でしょう? 好き同士で結婚するのも結構ですけど、それは庶民でお願いしたい。

[そういうもんかー]

――そうですそうです。だからニシカワ殿もお相手をいづれ見つけてご結婚なさってください。

[ぐぬぅ……]

 俺を完璧に庶民扱いしているな、いや、そうなんだけどさ。


――というか、ニシカワ殿の来歴を知らないですね……。聞いてもいいですか?

[ん、そうだなぁ……。まあ……なんだかなぁ、一度も労働者となった事が無いすんごい奴だ]

――それは真で? したら貴族階級でしょうか。

[え、あ……うーん、ともいう、かもしれない、いや、どうなんだろう]

――でなければそんな生活を送れないでしょう。若しくは大商人か。

[いやー]

 只の引きこもりの糞ニートです☆ 言わなかったけど。


 隣で地図を見つつ歩く巫女が唐突に話しかけてきた。さっきまで街道沿いのお店とかを楽しそうに眺めていたのだが、ここまで来ると民家も少なくなって見る物がなくて暇になってしまったのだろうか。

「殿下はかの森の事についてどれぐらいご存じですか?」

「そうですねぇ……どうもあまりよく知らないのです、お教え願いますか?」

 知らざるを知ると為す。これ知るなり。


「はい、あの森は、奥行きと幅が約五ニホの巨大な森です。一度這入ったら出られないという恐ろしい噂があるのです。現代の技術を以てしてもきちんと目的の方向に行くことが出来ません。真っ直ぐ行けば出られるのは確かですが、真っ直ぐ進めないことがあるため、迂回したり、蛇行したりして体力も奪われ、中に生息している謎の獣に食われたりするそうです」

「……えっ、ええ……」

――隣の領土の事だから知らなかったです……。

[三十ニホってどれぐらい?]

――え、ニホ……知らない……あ、この国の単位です。八ホムトが一ニホだと思いますよ。

[ニホもホムトも解らんのだが]

 しかも度量衡統一してないのか。曲がりなりにも一つの国の癖に。


――ええっと……確か一日で歩ける距離が一ニホだと思います。

[成程……つまり、時速四キロメートルで一日八時間歩いたとして、一日に三十二キロメートル歩く。それが五ニホだから……奥行と幅がそれぞれ百六十キロメートルってこと……? ハァっ? 巨大ってレベルじゃないだろ……]

――何やらよく解らない事を仰ってますが、まあそうです巨大なのです。

「なんでそんなに大きいのに誰も開拓しなかったんでしょう。有史以来ほっぽらかしってのも変じゃないですか?」

 というか、こんな大きな森を放置しておけるだけの余裕がこの国にはあるのか……。商人の国だと言っていたからそれでいいか?


「そうですねぇ……土が固く、岩石ばかりであったため耕作に向かないとのことで放り出されているという話ですね、それでも樹木はしっかりと根を張って生きているのですから凄いですよねー。それに、謎の生き物が住んでいるという話もありますし、畏怖の対象であるからとも言えるかもしれないです。神話だと、あそこは凶暴な神が住んでいる土地らしいですし」

「住んでいるというか巣食っている感じかも知れませんね」

「あはは、確かにその通りですね。原文だと『バゾニ、土より出でて草を茂らせ、身を隠し、神々を食いぬ』とありますから神様でさえ食べてしまうバゾニという神様が住んでいるからちょっと通るのやめよっかとなる訳です」

「今回の件もバゾニという神の所為だとお考えなんでしょうか、巫女頭殿は」

「恐らく違うとお考えでしょう、バゾニは人の形をしているそうですから……まあ尤も、存在していたらの話ですけど」

「巫女さんがそういう表現をするとは……」

「ま、まあ……神話というのはアレです、歴史の一形態ですから字義通り受け取る必要はないのかなという感じですから。昔は原理主義者がいましたけどねー。例えば、人の心を読むことが出来る神様が神話に出てくるんですけど、実際に読んでたんじゃなくて、人の仕草や声色とか表情を観察して結論を出してたんじゃないかなと」


「成程、理にかなってますね」

「でしょ? というかこの考え方はハルミシ様の本の受け売りですけどね」

「あ、そういうね……ハルミシ様って凄い人なんですねー」

「ええ、当代の巫女頭たるミシオ様は少し系統が違うんですけどね、彼女は実際に神様はいて、人間に不可思議な影響を与えることがあるんだと信じているんです」

「それってあなたの言う原理主義では?」

 俺が問うと少しばかり彼女は考え込んで、


「うーん、違うかも、いや、そうかもって所です。と、いうか私だって全部の不思議を否定している訳ではないですよ。ミシオ様は実際に神降ろしされて、預言を行うわけですから。そしてそれは大体当たります。星の観察では知り得ないような事でも。それでも先代までの巫女は『たまたまかなぁ、勘が冴えてる』という感じなんですけど、ミシオ様は『これは神の宣託なのだから当然』という感じなんですよね。ちょっと今までの系譜では無い考え方をしてるみたいです」


 説明になってるようでなってない回答だった。恐らくアニリンの中でもキチンとした答えが出ているわけでもないのだろう。ミシオ様が固陋極まる伝統主義者かと聞かれればそうでない面も見えるし、かといってアニリンを含む多くの人々と同じように、星読みは……天文学は科学であって、決して神秘の術ではないという考え方をしない訳でもないと。折衷派なのかな。


「確かにそうでしたね……僕をいきなり怪獣討伐に向かわせようとしたり……」

「済みません……その宣託も私たちはどう解釈しようか悩んでいたんですけど、ミシオ様が強く、そう……『王子を悪辣なる神の討伐に向かわせろ』と仰ったので……まあ、こういっては何ですけど……『一応行っとけば気が済むんじゃね?』という感じでしたので……」


「アルト陛下もそう言う感じで仰ってましたね、念のために来てほしいという感じで」

「はい……でも実際に奇怪な獣が現れたのはびっくりしました。あれを悪辣なる神と呼ぶならその通りです。またしても宣託は当たったみたいですね」

 あんなの見たことないですよと漏らす。やはりこの世界には恐竜は存在しないのという認識らしい。

「こうやって的中するから無碍にも出来ないんですね」

「はい。でも宣託通りのことが字義通り起こるかと言ったらそこはまた微妙なので、解釈が必要となりますね……」


「いつもならどう解釈なさるんですか? 『悪辣なる神』とかを」

「いつもはですね……なにか災害が起こるんじゃないか? という考えになりますね。結構この辺地震あるんで、それのことかもしれないと。で、それによって沢山の人が死ぬんじゃないかなと」

「ああ、地震についても神が設定されているのですね?」

「そうです。まあ……地震の神が暴れてしまうんではないかという解釈でしたけど、そこに異議を唱えたのが、ミシオ様って訳です」

しかしすごい奴なんだな、神話を科学にした奴じゃないか。

「でもきちんと、陛下に書状を渡すことに成功してるんですね」

「まあそこは……自分の国の王様に渡すぐらいなら簡単なんですけど……一番大変だったのはあなたです。殿下」

 目を見てはっきり言われると少したじろぐ。

「外国の王室に届けるのがどれだけ面倒だったか……。アルト陛下は理解のある方ですから何とかなりましたけど、その……言いたくはないですけど……そちらのは……」

「あ、あははは……」

 良く事情が分からないので笑って誤魔化す。ふむ、これでこそ日本人だ。


――そうですねぇ……うちはそういう奇怪な物は信じないと言うか……曽祖父が蜂起したのもそう言った迷信で民衆を惑していた王に憤りを感じていたから……とは聞きましたけど……。

[これはアレだな……最悪の組み合わせってことだな]

 俺が言うとガイウスは溜息で返した。


「という訳で、アルト陛下が直々にそういう警告文めいたものをそちらの王室へ送るのではなく、単なる私信として姫殿下に持たせたわけです」

「うちの王がご迷惑をおかけしております……」

 王族ともなれば、第二王女をメッセンジャーにすることも厭わない様だ。


「い、いえ、あの、そういう恨み言とかそういうのではなく、事実をお伝えしただけなんで別に大丈夫です。まあ面倒だなーあの国は、という感想を持っただけですし」

 あははと困ったように彼女も笑った。もしやこいつも日本人なのではないだろうか。それにしても……。

「あの国とか外国とかそういう言い方なさいますけど、やはり一つのミルカ王国という考え方は無いのですか?」


「ええ、草の根ではそれぞれの領地を一つのものとして考えています。生まれ育った地域に一番強い愛着を持つのは当然でしょう? 良く知りもしない地域や人も同じ国で、同じ国の人だよと言われても困る訳です。これはあくまでも法律上のことで……実務上便利だからという話であって……。あ、別にこれは政治批判とかではなくてですね……」


――税を納めている人間は、政治に意見を言う権利はあると思ってます。彼女の意見は……正直驚くが。

[中々いい王族じゃないか、お兄さん]

――まあ、庶民には連合王国のよさが分からないのだろうがな。

[前言撤回]

 やっぱ分かり合えないこともあるわ。


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