13話:留学生はいつになく頑張る
かなりダメージ食らったセシルですが、まだ粘ります
確かに命中した。リリアは確信していた。
恐らくこれで決着だろう。視界は遮られたが、手応えは確かだった。
「"ワール・ウィンド"」
魔法でそよ風を発生させて、砂煙を散らす。
だが、砂煙が晴れると信じられない光景が目に飛び込んできた。
「ゴホゴホ、ぐっ……」
セシルが咳き込みながら、リリアの方を睨む。
一方のリリアはセシルの手元を見て、珍しく目を丸くして驚いているようだった。
「まさか傷一つないなんて、一体どうなってるの……その銃?」
後ろの方へ転がったセシルの銃、ヴィアゲイターを見てリリアは言った。
リリアは確かにセシルに魔法を撃った。
だが、セシルの体に向けて稲妻を放ったわけではなかった。リリアが狙ったのは、セシルの得物……手に持っていた銃だった。
リリアの狙いは、最初から武器破壊。
リリアはセシルが全然魔法を使ってこないところを見て、セシルが魔法が不得手だと判断した。
それなら武器さえ壊せば勝負がつくと判断してのことだった。
しかし実際には、壊れるどころか傷一つない。
直接手に持っていたセシルは若干火傷を負ったようだったが
「知るかよ……ゴホゴホ。熱いし痛てえ……。くそ、最悪だ。砂まみれだし」
ぺっぺ、と口に入った砂も吐き出す。
リリアは呆れたようにそれを見守っていた。
「でも、お前本当に優しいよな。直接俺を狙えば簡単に勝負はついたはずなのに」
砂をはたきながら言う。
「……殺したら、駄目だから」
死なないように手加減をしながら戦闘不能にするのは、殺すことより難しかった。
「確かにあんなの食らったら死にそうだ。いや、絶対死ぬな。うん」
セシルは一人で納得していた。
それを見て、リリアは問いかけた。
「……本当に降参しないの?」
銃さえ壊せば勝負はつく、とリリアは踏んでいたが、それも失敗した。
そうなると、あとは実力で倒すしかなくなる。
リリアは、セシルがそう簡単に降参するとは思えないと判断したため、本気で倒しに掛かる必要があった。
降参するなら、これが最後のチャンスだった。
「それはないな」
だがセシルは即答した。
「どうして?」
そう言われて、セシルは一瞬その理由を考えた。
そして、ただなんとなく思ったことを口にする。それぐらいしか思いつかなかった。
「俺だってたまには、格好つけたいときもあるんだよ」
セシルはふと、昨日の夜のことを思い出していた。
「……そんなにボロボロになってまだそんな口が聞けるのね」
リリアはセシルの状態を見る。"ディス・チャージ"のダメージは大きかったらしく、まだフラフラとしている。
そして最初にやられた肩口からはまだ血が止まらないで、滲み出ている。
リリアの持つ針のようなナイフの先端は形状が特殊で、血が止まりにくい傷口を作り出すものだった。
このまま放っておいてもいずれ失血で気を失って倒れるだろう。だが……
セシルがゆっくりと銃を持つ腕を上げる。度重なるダメージのせいか、少し腕が痙攣していて狙いも定まらない。
試合開始直後の、あの射撃精度はもう出せないだろう。
だがそれでもセシルにはそれしかなかった。他の一般的なアカデミーの生徒達と違い、セシルは魔法が使えないのだ。
そんな様子を、ほぼ無傷のリリアは無表情で見ていた。
「そう……」
ここまでの戦いの中でリリアの中のセシルの評価は大幅に改善されつつあった。
凡庸には違いないが……熱が、執念が違った。
つまらない相手じゃなさそうだ、とリリアは思った。
「なら、本気で相手をしてあげる。最後まで、倒れないで」
そう言い、ほんの少しだけだったが……リリアは初めて薄く笑った。