一章
「い、……たくない」
どさっと音がして、硬い地面に着地した。じんわりとした鈍いなにかは感じるけれど、本来ならば、感じるだろう衝撃による痛みはない。これも、あの声の言うとおりなんだろう。
「でも、死にそうな怪我を負ったらどうするのかしら」
ぽつり、と呟くと、ふわり、と肩のあたりに温もりが落ちた。
『すまないな。死にそうな怪我を負うような事態にはならないようにするが、さすがにその時には痛みを感じるようにはしている。こちらも、きみには生きててほしいからな』
「……どうも」
さて、こうしていても始まらない。此処は、どこだろう。
きょろきょろと辺りを見渡しても、見覚えのある光景は目に入ってこない。ただ広い草原が広がるばかりだ。人ひとり通る気配がない。
「ここ、どこ」
『俺の身体がある場所、だな』
俺、ということは、この声の持ち主は男性なのか。ひそかに心の中で驚いていると、そこかよ、とツッコミが入った。
「失礼。身体、というのは」
『ふらふらと歩きまわっていたらな、落ちてしまってな……きみにもわかるように言うと、心と身体がばらばらになってしまったようなんだ』
頭痛がしてきた。私に声を掛けてきた理由がわかってきたからだ。
「つまり、だれでもよかったわけじゃなくて、私じゃないと探せないモノってことね」
『そのとおりだ。きみは飲み込み早いな』
「小さい頃から慣れてるからね」
目的ははっきりした。とはいっても、こちらは生身のままだ。どれくらい飲み食いせずに生きていられるのかはわからないけれど、とりあえず休める場所を探さなければ話にならない。
『……どこへ行くつもりだ』
「え、なんとなく」
見えないながらも、声が深々と溜息をつき、呆れたようなしぐさをしたのがわかった、気がした。
『とりあえず、あちらに行こう。小さいながらも村がある』
「ありがとう」
こうして、この世界での第一歩を踏み出した。
まだ何もわからないけれど、とりあえずわかっていることは、そう簡単に元の世界に戻れないだろうということだけだ。
「そういえば、なんて呼べばいい?」
『好きに呼んだらいい』
ふわふわと、楽しそうに声が告げる。
「……考えとく」
はっきりと見える色は、金色だけれども、これは声の存在が、それだけ高位だということだ。まさかそのまま呼ぶわけにもいかない。
(考えることがたくさんだなぁ)
溜息が、漏れた。