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第五十五話 思い出づくり その③

 結局のところ、茶臼岳を下山してから温泉には入らなかった。

 美冬が断固拒否した為だ。

 仕方がないので渡辺は那須街道を温泉街を素通りして下った。

 そして「次は君達の番だ」と言うと、一軒茶屋前の信号で車を右折した。

 車はまたも上り坂を登り始める。

 十分程行くと、眼前に『南が丘牧場』の看板が見え始め、車はするするとその駐車場へと入る。


「ここは?」


 予定外の場所に停まった車に対して、美冬が尋ねる。


「まさか牧場見学じゃないですよね?」


 助手席の安藤も思わず横の渡辺の方を向いては尋ねる。


「ちょっといいものがあるんだ。少し待っててくれ」


 渡辺は笑いながら安藤の方を向いてそう言うと、車から降りてドアを閉めると、走り出した。


「なんだろ?」


 そう言いながら舞は少し心配そうな顔で、窓の外、渡辺が走って行った先の方『南が丘牧場』の入り口の方を見ていた。

 暫く残された三人は黙っていたが、そのうち美冬が口を開く。


「ねえ、安藤君。おじさんと楽しそうに話していたけれど、何を話していたの?」


「そうそう、私も気になった」


 舞も便乗して言う。


「何って? 二人とも景色を見ないで、後ろから俺達の事を見ていたの?」


 椅子から体をずらして、二人の方を向きながら安藤は言った。


「見てた」


 ニヤニヤしながら美冬が言う。


「親子みたいって、美冬と話してた」


 直ぐに続けて舞が言った。


「参ったなー」


 照れた様な顔をして、頭を掻きながら安藤はそう言うと、続けて話し始めた。


「ホント、そういう話さ。渡辺さん、男の子の子供が欲しかったみたいでさ。親子みたいに見えた?」


「「見えた!」」


 安藤の質問に二人は口を揃えて答えた。


「そう。それを聞いたらきっと渡辺さん喜ぶよ」


 笑いながら安藤はそう言い、続けて声のトーンを落として静かに付け加えた。


「全く、渡辺さんと話すようにはなんで自分の親とは出来ないんだろう?」


「私も同じ、何をするでも最後は親と大喧嘩。親子って、話し合いで解決出来ない何かがあるのよね」


 舞が言った。


「それって、今回のお泊りの事? だったらごめんなさい。大喧嘩した?」


 察した美冬が舞に言った。


「ううん。もう済んだ事だからいいの。それに何があっても私は泊まりに行くつもりだったし。来て正解だった」


 舞は美冬の顔を見つめながら言った。


    ガチャッ


 その時運転席側のドアが開いた。


 三人はお互いの方を見ながら話していたので、渡辺が戻って来た事には気付かなかったのだ。


「これこれ」


 渡辺は運転席に座るよりも早く、右手に持った白い紙袋を掲げて、みんなの方に見せる。


「何です?」


 直ぐ隣の安藤が尋ねた。


「ピロシキって知ってるかな? ロシアの方の料理なんだけれど」


 そう言いながら渡辺は、紙袋から表面が茶色になった楕円形のパンの様な食べ物を取り出して見せる。


「パンみたいなんだけれどね。これ」


 言いながら、パンを二つに引きちぎる。すると中には豚肉やら玉ネギやらが見えた。


「中身は餃子というか、肉まんというか、まーそういう物が入ってる。これが上手いんだ。折角だからみんなに食べて貰いたかった」


 そう言うと渡辺はみんなにピロシキを配り始めた。


「あ、ホントだ! 美味い!」


 すぐさま食べた安藤が直ぐに反応して言った。


「ホント」


「うん。美味しい」


 美冬と舞も直ぐに口々に言う。


「珍しいだろ? 美味しいだろ?」


 渡辺は嬉しそうにみんなの顔を眺めながら言った。

 そして車は動き出す。


 南が丘牧場の道をそのまま上に上って行くと、こちら側の山の頂に、『那須ハイランドパーク』という遊園地が見え始める。。車はゆっくりとその駐車場へと入って行く。


「さー着いたぞ」


 渡辺の言葉で、学生達三人は勢い良く車から降りた。

 渡辺にとってこの遊園地は今回の最終目的地だった。

 前半の山登りを付き合わせたと感じていた渡辺は、最後に若い人が喜びそうな遊園地を選んだのだ。

 そしてここでも四人は楽しい時間を過ごす事が出来た。

 それから夕方六時半頃には高速に乗り、四人は家路へと向かった。

 渡辺のマンションに着いたのは夜の八時頃。

 明日が日曜日で休みなので、安藤も泊まる事になった。

 夜の十一時頃には渡辺と安藤は玄関側の六畳の洋室に行き、リビングは美冬と舞が使う事になった。

 みんな疲れていたので、別れた後は直ぐ寝てしまった。


 日曜日。

 次の日の朝。午前十時。


 ピンポーン

    ピンポーン


        ピンポーン


 玄関のチャイムが鳴った。







つづく

 

 

 

 

 

いつも読んで頂いて、有難うございます。

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