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第五十三話 思い出づくり その①

 美冬のゲーム開始から十日目。

 土曜日は朝早くから動いた。

 渡辺の車の助手席には安藤が乗り、後ろには美冬と舞が乗っていた。

 国道四号線を右に折れ、県道を通る。

 曲がりくねった車一台分の山道を暫く行く。

 突然道路の幅が広がり、両脇は牧草地に変わる。


「うわー、テレビで見るリゾート地みたい!」


 平坦に広がる青々とした牧草地を窓から眺めて、思わず舞が言った。


「いやいや、みたいじゃなくて。リゾートだから。ね」


 前の席の安藤が笑いながら舞いに答え、運転している渡辺に振った。


「ハハ、そうだね。那須はリゾートだね。天皇陛下の別荘もある」


「そうなの? 知ってた?」


 渡辺の話に驚いた舞は、隣の美冬の方を向き尋ねた。


「知ってた」


 美冬は笑顔であっさり答える。


「なんだ~、知らなかったのは私だけ~」


 舞は口を尖らせて少し悔しそうに言った。


「まだ分らないよ。こういう時、黙ってる人は怪しいんだから」


 美冬はそう言いながら、舞に目で助手席の安藤の方を示した。


「安藤君も知ってた?」


 素知らぬ顔で舞が尋ねる。


「えっ」


 小さな声で呟くと、安藤は口篭った。


「正直に言った方がいいぞ。安藤君」


 笑いながら渡辺が言った。

 安藤は困ったような顔で口を尖らせて、少し考えた後に大きな声で言った。


「知らなかったよぉ!」


 その瞬間車内では笑い声が起きた。



 車は暫く行くと那須街道とぶつかった。

 更にそれを茶臼岳の方へと上がって行く。

 既に相当標高は上っていたが、今年は暖冬の所為か、この秋はまだ木々が青々としていた。それから通りからではは那須の御用邸は見えなかった。

 そして暫くはまた曲がりくねった道が続いた。

 標高一九一五メートルの活火山、茶臼岳の七合目辺りまで来た所で、車は駐車場へと入った。


「さー、着いた。ここからはロープウェイで九合目まで行く」


 車を停めて、楽しそうに渡辺が言った。


「ホントに登るの? 山?」


「当たり前だ。その為に運動靴で来たんじゃないか。ここまで来て、登らない奴がいるか?」


 安藤の言葉に渡辺が即座に答える。


「おじさん、子供みたい。でも、こんな普段着で大丈夫なの?」


 後ろから少し笑いながら、美冬が尋ねた。

 美冬と安藤はパーカーにジーンズ。舞はパーカーにスカート。中にスパッツを履いていた。


「大丈夫。そんなに険しい山じゃないから。普段着でも大丈夫。でも、少し寒いかも知れないなぁ」


「今寒くないから、それは大丈夫だと思うけど。渡辺さん、来た事あるんですか?」


 車から降りながら安藤が尋ねた。


「あるよ。子供がまだ小学校一年位の頃に」


 車から降り、目を細めて山頂の方を見ながら渡辺は言った。


「安藤君…」


 先に降りていた舞が、自分の肩を安藤の肩に軽くぶつけて、安藤の質問を嗜めた。


「渡辺さん、すいません。俺、余計な事…」


 気付いた安藤が渡辺に言う。


「ん? ああ、いいさ。気にする事じゃない。俺も気にしない。それより山登りが終わったら、皆で温泉に入らないか?」


「「「温泉!」」」


 三人が同時に声を上げた。


「温泉って、混浴ですか?」


 思わず安藤が尋ねる。

 美冬と舞は固唾を呑んで答えを待つ。


「それじゃあ拙いだろ。男女別々だよ」


 渡辺は安藤の顔を見て笑いながら言った。


「この直ぐ下にね、鹿の湯という温泉がある。昔からある温泉だ。昔は鹿が入ってたのかな? 近くに九尾の狐の伝説があって、那須与一が壇ノ浦の合戦で扇を射る前に願掛けを行った神社もある。面白そうだろ?」


「俺はちょっと。温泉はいいけど、後のは興味ないっていうか」


 渡辺の話に安藤はあまり興味を示さなかった。


「私、温泉入りたいです! 九尾の狐もちょっと興味がある。尾っぽが九つある狐ですよね?」


 舞は美冬の方をチョロっと見ながら楽しそうに言った。


「そのまんまだけれど。そう、尻尾が九つあるね。この地で退治されたそうだよ」


 舞が興味を持った事が嬉しくて、渡辺は笑顔で答えた。


「私は、温泉はちょっと…」


「何? 美冬なんか言った?」


 首を捻り、困った様に言う美冬に、舞は聞こえていたのかいなかったのか、そう言った。


「まー、それは後の話だ。とりあえずはロープウェイに乗ろう」


 そう言って渡辺は車の鍵を掛けた。






つづく


いつも読んで頂いて、有難うございます。

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