表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/60

第五十二話 夜の公園

「助けたかっただけだ。あの娘を、あの家から少しでも早く引き離したかった」


 渡辺は言った。


「それは分るけど」


 そう言いながら安藤はそれだけでは納得がいかないといった顔で、渡辺を見ていた。


「まあいい。直ぐ側に公園がある。時間もある。まず、コンビニで買い物をしよう。俺はタバコと、コーヒーが飲みたい。安藤君は? コーヒーでいいかい?」


 渡辺はそう言いながら安藤を手招きすると、コンビニの扉に手を掛けた。



 十分後、二人は近くの公園のベンチにいた。

 渡辺は左手に缶コーヒーを持ち、右手ではタバコを吸っていた。


「来週の水曜から仕事なんだ。前いたハウスメーカーの営業辞めて、今度は基礎屋で働く」


「そうですか」


 安藤は渡辺に買って貰った缶コーヒーに口を付けながら言った。


「丁度、美冬ちゃんのゲームのタイムリミットの日だ」


「あー、そう言えば」


「俺にも美冬ちゃんにも、時間がないと思った」


「はい」


「これ以上長く彼女をあの家には置けないと、彼女の父親に会って思った。今すぐにでも助け出してあげたいと、本気で思った」


「わかるけど…」


「それだけじゃないと思うんだろ?」


 そう言うと少し微笑みながら渡辺は安藤の方を見た。

 吸っていたタバコは地面に落として足で揉み消す。


「思い出が欲しかった」


 揉み消したタバコを拾い上げ、手に持ちながら渡辺は言う。


「思い出?」


 安藤は繰り返した。


「そうだ。仕事が始まると、君達共そうそう会えなくなる。時間がなかった」


 安藤はコーヒーを飲むのを止め、黙って聞いていた。


「彼女を、美冬ちゃんを救い出し、仕事が始まる前に思い出を作りたいと思った。それに丁度明日は土曜だ」


「あっ」 


 安藤が突然小さく声を上げた。


「わかった?」


 渡辺が尋ねる。


「そういう事ですか」


 安藤の言葉を聞いて渡辺は微笑みながら話出す。


「佐々木さんは、今日明日と泊まる。君も明日また来るといい。まだ彼女達には言っていないが、明日はドライブに連れて行こうと思ってる。君も行くだろ」


「思い出づくり」


「そうだ」


「でも仕事が始まったからといって、丸っきり会えない訳じゃないですよね」


 少し心配そうな顔で安藤が尋ねた。


「会えなくはないが。時間が合わなくなるだろう。思い通りには会えないかも知れない。そのうち疎遠になっていくかも知れない。そもそも君達には同い年の子達と過ごす時間もある。俺なんかの事は直ぐ忘れてしまうかも知れない」


「そんな、会いに行きますよ。みんなで」


「ありがとう。でも君達は高校生だ。高校の付き合いが第一だ。こんな社会人の中年親父の事は、やはり後回しでいい。そうやってみんな、元の生活に戻って行った方がいいんだ」


 そう言うと渡辺はベンチから立ち上がり、安藤の方を振り返った。


「明日は那須に行こう。きっと楽しい一日になる」


 笑顔でそう言う渡辺を見ていた安藤の顔は、どこか寂し気だった。






つづく


 

 

いつも読んで頂いて、有難うございます。

ブックマーク・評価・感想など頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くて予定よりも多く読んでしまっています。 美冬のお母さんは、凄く自信が無いない人なのかなぁ、と思いました。だから夫を独占したいし、自分と似た美冬を嫌い、嫉妬するのかな、と。 渡辺さ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ