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第三十四話 ディスカッション【discussion】その⑤ まだ安藤敏生

「うん。それもそうだね」


 美冬は意外とあっさりと渡辺の言葉は受け入れた。


「でも、やっぱりおかしいと思う。そのお母さんの書いたツイートは偽物で、実は生きている本人が書いたんじゃないかな。ただ単に、そのアカウントを閉鎖したかっただけじゃないの? アカウントなんて持ってる子は十個以上裏垢とか持ってるんでしょ」


「そうかも知れないけれど、今となっては藪の中。本当の事は分からない」


 舞の話に美冬が答えた。


「とにかく俺は、生きていればそれはそれで良し。死んでいれば自分にも責任があるのかも知れないと、悶々と二~三ヶ月悩んでいた。彼女は死ぬのに理由なんて要らないと言っていたし、死にたいとも何度も言っていた。丁度、今の瀬川さんの様に」


 そう言いながら安藤は美冬の方を眺めた。

 美冬はニコッっと笑って、軽く安藤の方へ手を振る。

 安藤はそんな美冬の行動を決して笑う事は出来ずに、続けて話し出した。


「それからはいつも思っていた。死ぬという事を、死にたいと思う気持ちの事を。でも幾ら考えても俺には死にたいと思う気持ちは分からなかった。その点は渡辺さんと同じです」


 そこで今度は安藤は、渡辺の方を向いて話を続けた。


「俺も、たいした事はないけれど、死にたいと思った事は今までありません。何があっても生きようと思っていた」


「そう」


 その言葉に渡辺は嬉しそうに大きく相槌を打つ。


「でも、ある時デパートの外付けのエレベーターに乗っていた時、外の景色が見えるんですけど、グングン上がって行って、地面がドンドン遠ざかって行くのを見てる時、『此処から今落ちたら死ねるよな。今なら何か、死んでもいいな』って、思えちゃったんです」


「そう」


 今度の渡辺の声は、トーンも低く、落胆した様な感じだった。


「それからなんだ。突然死んでもいいやって思える時があるって気付いて、そう思っていると、たまにそういう気持ちになる時が確かにあって。それでこれは発見だと。高校に入ってからみんなに言って回って」


「そうしたら私がそれに共感したのね」


「そうなのかな」


 美冬の言葉に安藤が答えた。


「でもそれって、さっきのツイッターの話と何か関係があるのかなぁ」


 舞が言った。


「俺はあると思う。あれで人生観幾らか変わったし、普段から死について考える様になった。昔のまんまの俺だったら、多分『死ねる』と思える瞬間なんて、気付かなかったと思う」


「おじさんはどう思う?」


 美冬が渡辺に尋ねた。


「分からないなぁ。俺にはそういう経験はないから。でも、最初のツイッターの話とは何かが繋がってる様な気はするよ。何かは分からないけど。それで死にたがっている美冬ちゃんにも、そういう感覚はあるんだろ?」


「うん。私はあの時の安藤君の話がとっても良く理解出来て、『あ、こういう感覚は私だけじゃないんだ。他にも大勢の人がそういう危うい感覚を持って、生きてるんだ』って思ったんだけど」


 美冬は何処かすっきりとした顔でそう言った。


「それって、私や渡辺さんが気付いてないだけで、誰にでもある感覚だって事?」


 舞が誰とはなしに尋ねた。


 「「たぶん」」


 その瞬間、美冬と安藤の声がハモった。






つづく

いつも読んで頂いて、有難うございます。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ディスカッションの回は油断して息継ぎなしに読んでました。死ねる瞬間はあるか否かの極端な意見を客観的に一歩引いて見ているからか、他にも色々と方法があるのでは? と考えながら読んでましたが無理…
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