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第三十一話 ディスカッション【discussion】その② 佐々木舞

 渡辺の話が終わった時、下を向き黙って聞いていた舞が、顔を上げて言った。


「私は、死にたいと思った。確かに死にたいと思った」


「君」


 舞の言葉にハッとした渡辺が、顔を見て言った。


「渡辺さんの話は分かります。でも、嘘はいけない。私は、私は、死にたいと思った時があります」


 舞は渡辺の顔を見ながら言って、それから俯き加減に下を見ながら続けて言った。


「中学一年の時、確かに虐められていました」


「佐々木さん…」


 何を言って言いか分からず、困った顔で舞の方を見ながら言う安藤。


 「休み時間教室で足を掛けられて、転んだ子がいたの。わたしは、『やめなさいよ』って言ったの。たったそれだけだった」


「それだけ?」


 優しい声で渡辺が尋ねた。


「そう、それだけ。でも次の休み時間から、今度は私が足を掛けられたの。前の休み時間に転んだ子、虐められていたの。それを助けたから、標的が変わったの。それから休み時間の度に女子数人が私を囲んで、後ろから頭を叩いたり、肩を押したりし始めた。また暴力は振るわない時もあった。ただ私の周りをみんなで囲んで、それだけでも怖くて、ビクビクしてた。制服を破られた時もあったし、机や下駄箱、上履きに、画鋲やゴミが入っている時もあった。それからそのうち、いじめっ子の中に私の前に虐められていた子の顔が加わったの。もうあの時は、何もかも憎らしくて、許せなかった。それから周りで知らない顔をして見ている他の生徒達の事も気付いた。恥ずかしかった。虐められてる自分が、惨めで、恥ずかしかった。その中には確かに美冬もいた。クラスは違かったけれど、美冬が見ていた時が確かにあった。あの頃から美冬は一際綺麗だった。綺麗で、気品があって…私は虐められて、オドオドして、みすぼらしくて…本当にもう、死にたいと思った」


「でも生きている」


 優しい声で美冬が言った。


「そう、死ねなかった。家族の事とか学校の事とか、考えたら死ねなかった。そして、二年のクラス替えで、虐めも終った」


「そうだ、それでいい。生きてればいい事もある。死ななくて良かった」


 優しい声で何度も頷きながら、渡辺は言った。


「そうだよ。佐々木さん、生きてて良かったよ」


 安藤も励ますように明るく言った。


「そう、死ななかった。死ねなかった。でもね、渡辺さん」


 そう言って舞は渡辺の方を見た。


「ん?」


「私は死のうとは思いました。それは自分に優しくないとかそんな事じゃないと思う。辛くて死にたいって思う事は世の中に実際あるんです。だから死にたいって気持ちになる事はその人の状況によっては、当然の事じゃないでしょうか? 死にたい。死んでしまいたいって、そういう風に思ったり、考えたりするのはいけないことですか? そういう人、世の中には一杯いると思う」







つづく

いつも読んで頂いて、有難うございます。

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