第二十八話 まったり
放課後。
駅前のコーヒーショップ。
「待った?」
「ん~、三十分位かな」
店内に入って奥の窓辺の席に向かった美冬・安藤・舞の三人の前に座って待っていたのは、渡辺庄三だった。
「嘘、コーヒー入ってないじゃん。もっと待ったでしょ」
立ったまま、コーヒーカップと渡辺を見比べながら美冬が言う。
「こういう人なの」
それから振り向き後ろの二人にそう言うと、当たり前の様に美冬は渡辺の隣へと座った。
「はじめまして」
「はじめまして」
舞と安藤は順に立ったまま挨拶をした。
「あー、これは」
「立たなくていい」
立って挨拶しようとする渡辺の腕を掴み、立たせない様にする美冬。
「はじめまして」
仕方なく渡辺は中腰で挨拶をした。
それを見た安藤は少し苦笑いしながら、舞は冷静な顔で、二人は共にテーブルを挟んだ向かい側の席へと並んで座る。
「この人、渡辺庄三さん。私の友達」
「はー」
美冬の話に安藤が軽く会釈をした。
舞は動かず、ずっと渡辺の顔を見ている。
「それでこの二人が、前に話した『死にたがりクラブ』のメンバーの二人」
美冬は安藤と舞の方に向けて、手を前に広げて言った。
「安藤敏生です」
安藤は少し怪訝そうに言った。
「佐々木舞です」
舞は無表情のまま、冷静な声で言った。
「このおじさんが、新メンバーです」
二人の顔を見ながら、美冬は楽しそうに言った。
「えっ」
それに対して安藤は思わず声を出す。
「あー、あの、よろしく。君達の事は聞いて知っている。無論、ゲームの事もだ。俺も出来るなら美冬ちゃんを助けたい」
渡辺の言葉にピクリと反応する舞。
「宜しくお願いします」
「えっ、えっ、ちょ、ちょっと待ってよ」
安藤はそんな舞とは正反対に、渡辺と美冬の顔を見比べながら言った。
「大丈夫。この人は全部知ってるから。安藤君なんかよりも私の事知ってるんだから」
「何、それって!」
安藤は何か勘違いでもしたのだろうか、大きな声を出だした。
それを見て美冬はニヤニヤと笑っている。
周りの席の客もチラチラと安藤を見ていた。
「いや、そういう事じゃないんだ。ただの友達、友達。美冬ちゃんも、あんまり変な言い方をするなよ」
「そういう風に思われるの嫌?」
渡辺の言葉に、そちらを向きながら美冬が言った。
「また大人をからかう」
困った様な顔で美冬の方を見ながら言う渡辺。
それから安藤と舞の方に目線を戻しすと、再び口を開いた。
「俺は、美冬ちゃんが死にたがっているのも、一人では寂しくて死ねないでいるのも知っています。この娘が何か隠しているのも知っている。これは美冬ちゃんからの提案です。俺も『死にたがりクラブ』のメンバーに入るようにと。そして多分、これは憶測だが、お互いの情報を合わせればもう少し何か、見えてくるんじゃないか。彼女は助けて貰いたがってる。俺はそう思っているんだが」
「私もそう思う」
その言葉に舞が即答した。
「て、それ本人の前で言ったんじゃ意味なくない?」
それを見ていた安藤が困った様な顔で言う。
「大丈夫♪ 大丈夫♪」
美冬は嬉しそうな顔をしてそう言った。
つづく
いつも読んで頂いてる皆様、本当に有難うございます。