第二十五話 インターミッション
今回はインターミッション(途中休憩)ですので、ちょっとふざけています。意味はあるんですけどね。
車は美冬の家の方へと向かっていた。
「これでいいの?」
助手席に座る美冬が前を向いたまま尋ねる。
「良いもクソも、しょうがない。これが現実だ」
渡辺もまた、前を向いたまま答えた。
「クソって。下品」
美冬が少し機嫌の悪い声で言う。
「あ、そうか。ごめんごめん、女の子だもんなぁ」
渡辺は少し笑って、そう言った。
「おじさん、高卒でしょ? 教養ないから下品な言葉使うんだよ」
渡辺の笑っている様な声につられて、美冬も笑いながら半分冗談の様に言う。
「あー! お前だってまだ高校生じゃないか」
だから渡辺は更に笑いながら、横を向いて美冬の方を見ながら言った。
「おじさん! 前! 前!」
それに慌てた美冬が前を見る様にと叫ぶ。
渡辺はニヤニヤしたまま前を向いた。
「大丈夫だよ。ちょっとくらい」
しかし美冬はもう、笑ってはいなかった。
「だからおじさん。だから遥さん、大学に行かせたかったの?」
その言葉に渡辺の笑顔も途切れる。
「あー、それもあるかな。大学に行けばまた、違う選択肢もあるし」
「でも、高卒で就職したって、その人次第で幾らでも人生は変わるでしょ」
「まあな。運が良ければ、選択肢さえ間違わなければ、きっと安定した幸せな暮らしが送れるだろうな」
「選択肢?」
「ああ、生まれた時からずっと仕掛けられた選択肢。普通に生きてるだけでチョコチョコ選ぶ場面に出合うだろ? どっちが正解なのか分からない、進んで見なきゃ分からない選択肢。おじさんは、借金の事を妻に言うか言わないかの選択肢でミスっちまった。それでこのザマだ。人生なんて運命だよ。でも、大学とか行くと、運命の確率も上げられるんじゃないかなってな」
「そんなの関係ないよ。何処でどう生きようが、本人次第だよ」
美冬は渡辺の話にポツリと呟いた。
「ハハハ、美冬ちゃんは厳しいな」
渡辺は軽く笑ってそう言った後、直ぐに真面目な顔に戻った。
「美冬ちゃん、ありがとな。お陰で娘とはいつでも会えるよ」
「まだだよ」
渡辺の言葉に美冬は前を向いたまま、真面目な顔で答えた。
「え?」
「おじさん、私が遥さんにペットを飼っているか聞いたのを覚えてる?」
「ああ、帰り際。それが何かあるのか?」
「内緒」
「あー、また内緒か。内緒が好きだね全く」
渡辺は少し拗ねた様な声を出した。
「フフ、頑張って謎を解いて。そうしたら私は死ななくても良くなるから。最初に言ったでしょ。これはゲームなんだって」
言いながら美冬は少し微笑む。
「ゲームねぇ」
「奇跡も魔法もあるんだよ。おじさん」
「え?」
「アニメの台詞」
「なんだい、そりゃ」
「フフフ」
美冬は更に微笑んだ。
暫く走ると道は二股に分かれていた。
「おじさん、選択肢」
すかさず美冬が言う。
「選択肢も何も、君んちに向かうんだ。右だよ右」
渡辺はそう言いながらウインカーを右に倒し、ハンドルを右に切った。
「もし、左に行ってたら?」
渡辺の言葉と行動を見て、美冬は更に尋ねる。
「君んちから遠ざかって行くよ。帰れなくなる」
「そうしたらどうなるの?」
「どうなるかなぁ。途方に暮れるか、何処へ行こうって、感じかなぁ」
夜七時。
美冬の家のある街の駅前。
安藤と舞が、この前と同じコーヒーショップにいた。
「今日は美冬、追っかけ回して来なかったね。帰りも早く帰っちゃうし」
「ああ」
舞の言葉に安藤は静かに答えた。
「何か、寂しそう」
「え、誰が? 俺が? そんな事ないよ。お陰で今日は二人でゆっくり作戦会議が出来たちゃん」
「フーン。でも何故か噛みましたよ」
舞は冷静な顔で安藤にそう告げた。
つづく
いつも読んで頂いて、有難うございます。