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その2



 王家に嫁ぐといっても、十歳の巫女が四十手前のイルファーン国王と本当の夫婦になるわけではない。王家と神殿の繋がりを良くするために、定期的に形式上行われる婚姻。もし国王が本気で巫女を妻にと望むのなら、どんだけロリコンなんだと臣下国民諸外国から後ろ指を付き刺されまくるだろう。


 それに未来を見たり空間を移動したり、見えないものが見えたり壁を通過出来たりといった巫女が起こせる様々な奇跡の力は、巫女が純潔を失うと同時に消失してしまうのだ。本来なら神の花嫁である。たとえ巫女が妙齢の魅力溢れる女性であったとしても手は出せない。それでも神殿側は万一を警戒して王家に子供の巫女を嫁がせたのだ。巫女が巫女たる資格を失えば神殿と王家の仲も悪化する。


 そんな事情のもとに嫁いできた巫女は、すこぶる機嫌の悪い自分の聖騎士を長椅子に踏ん反り返って楽しそうに見上げていた。


 「いつまで拗ねてるつもり?」

 「すねてなどいませんっ。」

 「わたしがアルフレットに抱っこされて羨ましかったくせにぃ~」

 「巫女っ!」


 フェリスは巫女にニタリと微笑まれ思わず声を上げる。そうして誰かに聞かれてやしないかと肩を竦めて辺りを見回した。


 「見た目以上に凄い筋肉だったよ、脱いだら凄そう。あんな男に抱き締められたらフェリス失神するんじゃない?」

 「巫女っ!」


 非難の声にもなんのその、事実なのでフェリスの叱咤にも巫女は動じない。


 幼少期より同年の子供たちの中でも群を抜いて高身長であったフェリスはぐんぐん成長した。今ではそこいらの女は勿論男達の誰よりも背が高い。

 そんなフェリスの憧れの男性は自分を包み込んでくれる雄々しい殿方だ。男性らしい筋肉に包まれた縦にも横にも大きな男。勿論脂肪ででかいのは避けたいが、自分より背の高い男なら文句は言ってられないので許容範囲だ。

 けれど男性の平均身長をゆうに超えるフェリスの前にそんな相手が現れたのは小さな子供の頃だけ。齢十を過ぎる頃には憧れの相手の背を次々と追い越し、今では同じ聖騎士の中でも兄であるジルクだけがフェリスとためを張れる同じ身長だった。今日この時まで、フェリスの身長を超える男性は側に存在しなかったのである。


 「なぁ~に照れてるのよ、もろ好みのくせに。告白したら?」

 「―――っ! ……上手くいく訳がありません。」


 顔を真っ赤にして俯いたフェリスを前に、巫女はくすくすと鈴を転がした様な声で笑った。 


 フェリスは二十歳、巫女は十歳と年齢に開きはあるが、大人子供の垣根を越えて二人はすこぶる仲が良い。親友といっても良い。だから今回王家に嫁ぐ巫女に付き添い、居残る役目を担わされたようなものだ。


 見かけと違い大人びた巫女に、大人なくせに夢見る乙女の様な所がある、でかくとも子供っぽいフェリス。それを巫女は時々からかうように弄ぶのだが、女としては背が異常に高すぎるせいで恋に卑屈になり過ぎるフェリスを哀れにも感じていた。


 「あんなに素敵な人ですから、きっともう結婚されて子供もいるでしょうし……」


 俯いて口すぼむフェリスを巫女は下から覗きこんだ。


 「多分いないよ、独身らしいから。」

 「えっ、あの年でっ?!」

 「見様によっては四十手前だけど二十五らしいよ。」

 「こっ、恋人が―――」

 「さぁ、それはわからないけどいないんじゃない?」


 っていうか、あんな見かけの男に恋人なんて無理でしょ。子供に懐かれて大喜びしている時点でないわぁ~と、巫女は心の内で苦笑いを漏らした。

 まぁ心は綺麗な人っぽいから、フェリスの為にも売れ残ってくれていて良かったと一人頷く。


 「きっと選べないだけです……」

 「あ、アルフレットが訓練してるのが見える。」

 「えっ、どこでっ?!」


 ふいに視線を窓の外へ向けた巫女にフェリスは飛びつき、にたりと微笑まれた。


 「東に鍛練場があみたい。今日は暑いから訓練中に脱ぐかもね。」

 「~~~~っ、ジルクが来たら行っても宜しいでしょか。」

 「勿論よ。」


 歯を食いしばりぎりぎりと鳴らしたあとで、涙を浮かべて懇願するフェリスに巫女はにっこりとほほ笑んだ。





人物紹介


アルフレット=ファーガソン25歳。十代の頃から見た目中年。身長215㎝。茶色かかった金髪・翡翠色の瞳。

フェリス=レティ20歳。10歳で170、現在186㎝。真っ直ぐに伸びた銀色の髪と目。

巫女10歳。110㎝。金髪翡翠色の瞳


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