多忙につき
相変わらず家賃は親頼みの日々を送っていた。
俺は葬儀の動画編集にも慣れ、バスケも順調に人数が増え、俺もコーチをすることが増えてきた。
一番小さい子たちのクラスを教える。
その日はカメラはなし。
純粋にコーチとして入る。
担当は六歳児までの低年齢のクラスだ。
これが意外と大変で、集中力が五分、話を聞いていない、勝手に遊び出す。
とにかくボールを怖がらないようにするための担当だ。
遊びと練習を交互にしたり、競争にしたりして、十分の一ずつできればよし。
十分の一できれば、それを十回繰り返せば一になる。
しかし、言うことを聞かない。
幼稚園の先生の苦労がわかる。
一人一人に話せばわかってくれるのだが、集団なので話にならなくなる。
一応ドリブルやパスの練習もしているが、特に女の子は怖がってパスを受け取れない。
今日は新しくソウタくんが入学してきた。
ソウタくんは年長さん。
なんと一応ドリブルができる。
さすが年長さん、聞き分けもいい。
こういう子が増えると楽なんだけど、今は子どもたちになつかれすぎて、寄ってくる子どもたちをちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返して、楽しいけどとにかく疲れる。
疲れて帰ってきた俺をアスカの手料理が迎える。
こんな日々も悪くないなと思う。
折しもバスケの東くんとの間で、もうけ話になる。
俺のパソコンスキルを活かして、なにか事業が出てきたりしないかな、という話だ。
俺のパソコンスキルとなると、ホームページ作成、サーバー作成などだ。
それで一儲けしようという考えだ。
俺も、それなら今の仕事に差し支えないし、割りと簡単なことしかしなくていいから、甘い汁だ。
手始めに、知り合いのアロマテラピーのお店のホームページを手掛ける。
アスカにもデザインを手伝ってもらって、それは割りとすぐにできた。
売上は二割を会社に、八割を二人の給料にすることになっている。
初給料だ。四万円にもなった。
あとはクチコミで広めてもらう。
次の物件は割りとすぐに来た。
アロマテラピーのお客さんの知り合いのバイク屋さんだ。
こんな感じで繋げて仕事をするようになった。
もう少しで家賃もクリアできる値段になる。
俺の胸は想像で高鳴った。
ご飯を食べながらアスカが言う。
「その仕事ってほんとに大丈夫なの?あとでお金が必要になりました、とか言っても出すお金はないよ?」
「大丈夫だよ。俺のスキルさえあればあとは何もいらない会社だから」
「ふぅん、それならいいけどさ、あたしは嫌だよ、ゴタゴタに巻き込まれるのは」
「大丈夫、大丈夫」
元手がない会社だ。利益はあっても損はない。
いつか、この会社を大きくして、ビルなんか借りたりしちゃったりして。
くぅ〜、俺って天才。
俺の妄想は当たらずも遠からず、だ。
思っていた通り、一定に近い収入が生まれた。
これで俺もやっとゴールインできそうだ。
アスカは大喜びする。
まだアラフォーになる手前で結婚できると知ったからだ。
アスカに、結婚式、したい?と聞くと、うんうん、したい!と言う。
結婚式するなら、あと何年か待たないとなぁ、と俺が言うと、アラサーのうちならいいよ!と返事した。
俺は馬車馬のように働いた。オフィス光の仕事も、バスケの仕事も、東くんとの共同事業も、休むことなく続けた。
休むことなく続けれたのは、アスカの美味しい料理のおかげもあった。
アスカがいるから俺はいる。
そんな一体感を味わった。
ところが、共同事業の方は特に宣伝してきたわけでもないので、たま切れしてきた。
広告に載せてもみたが、今は類似企業が多く、仕事がこなくなってきた。
どうしよう……と頭を抱える俺に、救いの手が差しのべられた。




