仲間を求めて
首都までの長い行程が可能な者は他には居らず、結局、リオン、エルネスト、省吾、勁捷の四人だけでの出立となった。
正確なところを言えば、首都までどころか、自分の下の世話さえままならない者も少なくなく、多少なりとも動ける者は彼らの看病の為に残さなければならなかったのだ。
「けどな、大将。たった四人だけで何をやろうってんだ? しかも、こんな辺鄙な所で」
辺鄙などという言葉では生温すぎる、獣道すらない山中を進みながら、勁捷がリオンにそうぼやく。今歩いているところは王の居る首都とは遥か遠く離れた山奥だった。
「うむ、もしかしたら、人数を増やせるかもしれないのだ」
茂みを山刀で削いでいるエルネストの後を追うリオンは、足元から目を離さぬままそう答えた。
「人数を増やすだと? こんな山奥でか?」
「ああ。噂では、この山には王の圧制から逃れた人々が隠れ住んでいるらしい」
「そんな奴らがいるのか? だったら、初めから俺たち傭兵なんぞ雇わずに、そっちに声を掛けてみればよかったんじゃねぇの?」
「噂だといったであろう。王もご存知……知っていた筈だが放置していたし、信憑性は無いのかと思っていた」
「そりゃ、放っておくだろうよ。こんなとこまで兵を派遣して逃亡者を罰しても、時間と金の無駄なだけだぜ」
「まあ、そうかも知れんな」
リオン自身いささかうんざりした面持ちで、そう答えた。
この困難極まる山登りを始めて三日にもなろうというのに、未だ人影をチラリとすら見ない。動くものといえば、どれもが毛皮か羽毛を被っている。
「本当にこんなところに人間が住んでいるのかねぇ」
溜め息を吐いて立ち止まった勁捷の尻を、省吾の足が蹴り飛ばした。
「止まるな」
「わかったよ……」
一際大きな溜め息を残し、勁捷は再び足を運ぶ。
暫らく無駄足ではないのか、せめて酒が呑みたいなどと足と同じくらい口を動かしていた勁捷であったが、突然、その両方を止める。
「止まるなって言っただろ!」
足元に気を取られていた省吾は、筋肉で固められた勁捷の背中に頭突きをする羽目になり、抗議の声を上げる。それを片手で制し、勁捷はいつに無く鋭い眼差しで前方を透かすように見つめていた。
一拍後、勁捷は強い声を前方に投げる。
「エルネスト、止まれ!」
言われた当人は『え?』というふうに振り返ったが、その手は止まらなかった。エルネストの手にした山刀が行く手を塞いだ茂みを薙ぐと同時に足元がぐら付き、一瞬後、四人は残らず宙にぶら下がった網の中へと捕らわれていた。
「また、古典的な……」
なんとも無様な格好で、勁捷は憮然として呟く。彼以外の三人は、よく状況を呑み込めてはいないようだった。
ナイフを取り出そうとしても、さして大きくない網の中にぎゅうぎゅう詰めの宙吊り状態では、ちょっとした動きもままならない。
「早いとこ見回りが来てくれることを祈るしかないな」
自力で抜け出すことを諦めて、勁捷は肩を竦める。
「すみません、私が早く気付いていれば良かったのですが」
「まあ、噂が本当だってことが、これで判ったじゃねぇの」
心底申し訳無さそうに言うエルネストへ、勁捷は全く深刻な様子を見せずに返した。
「これが彼らの仕掛けた罠だと言うのか?」
「他にいないんじゃねぇの?」
緊迫感の無い勁捷に、苛々と省吾が割り込んだ。
「そんなことより、これから抜け出すのが先じゃないのか?」
「助けてくれって、叫んでみるか?」
これ以上格好悪くなりようが無いし、といつもどおりにへらへらと勁捷が言った、その時、エルネストが安堵の声を上げる。
「人です」
彼の言葉どおり、コソリとも足音を立てずに、三人の男が間抜けな四人を見上げていた。