傭兵の少年
省吾は独りだった。
本当の親のことは全く記憶に無い。覚えている一番古いことは、食べる物、そして寝る場所を探して彷徨っていたことであり──そこに両親は存在しない。
国と国との間で飽きることなく繰り返される大小の戦火。それから逃れた人々が身を寄せ合った小さな村で、省吾は育った。
そんな小さな村なら、互いに助け合って生活しているものだと思う者もいるかもしれない。
しかし、絶え間なく続く戦争は物理的にも精神的にも人々を飢えさせ、身寄りの無い子供のことを気遣うような余裕など残されてはいなかった。
貧弱な品揃えの店先から食べ物をくすね、時には痩せ細った家畜を襲い、省吾はその日その日を食い繋いだものだった。
そんな野良猫のような生活に終止符が打たれたのは、ある冬の日。
いつものように、屋台の親父が背を向けた隙を狙って伸ばされた省吾の腕を、背後から伸びた手が捻り上げたのだ。
村人たちは盗人である省吾が村に留まることを許さず、村からはなれた森へと連れて行き、そこに置き去りにした。
身を守る術さえ持たない子供が、飢えた獣のうろつく森の中、どうして生き延びられようか。それは実質的には死刑に等しく、幼い子供に直接手を下す罪悪感から目を逸らしただけに過ぎない。
炎すら凍り付きそうな真冬の日、省吾は眩暈を覚えるほどの空腹を抱えて、森の中を彷徨った。
そして見つけた、粗末な小屋。
何かほんの少しでも飢えを凌げるものがあればと忍び込んだその小屋にいたのが、彼をこの年まで生き延びさせることになる術を教えてくれた、老いた元傭兵だった。
男は、出会った時にはすでに六十を超えていたであろう。対する省吾は、まだ幼い子供に過ぎなかった。恐らく、五歳か六歳──省吾は、自分の生まれた年を知らなかった。
孤独な老人と、孤独な子供。
この荒涼とした世界で、二人の出会いは万に一つの偶然だった。
それから、およそ六年。
その年月の間に、老人はいったい省吾の何処を気に入ったのか、孫にも等しいほどの子供でしかない省吾に、彼の持つ技術の全てを注ぎ込んだ。
老人がまさに眠るように息を引き取ったのは、今から一年ほど前のことである。
ある凍える朝、いつものように食事の用意ができたと告げに行き、省吾は冷たくなった老人を見ることになった。
庭に墓穴を掘り、彼は抱え上げた老人の身体の軽さに戸惑いながら、その底に骸を横たえた――墓標代わりに地面に突き刺した木片には、何も刻んでこなかった。
その老人は、最期まで名前を教えてはくれなかったので。
彼を弔った翌日、省吾はその小屋を後にした。
彼の持っているものといえば、戦う為の知識と技量のみ。
そして、荒んだ戦場では兵士の年齢が取り沙汰されることはなかった。
省吾は迷わずその道を選び──恐らく現役の頃は名を馳せた傭兵だったに違いない老人が持っていたものをほぼ完璧に受け継いだ省吾は、今、傭兵仲間でも一目置かれる存在となっている。